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第3話「未知の魔物」

 世界最大の王国、モラシック王国。その冒険者ギルドは、朝から人の気配で賑わっている。

「今はこんな感じの依頼が入ってるけれど……今日はどれに行ってくれるかしら?」

 ギルドの受付嬢が差し出したいくつかの依頼書に目を通す青いローブをまとった若い女性と、その後ろで白い聖女衣装に身を包んだ少女。

 王国で名の知れた魔力使いの姉妹──水属性の魔法を得意とする魔法使いのセイカと、その妹でヒーラーとして周囲からの信頼の厚い聖女のセイラだ。

「それじゃあ、この街道沿いの魔物の群れの討伐にするわ」

 セイカが1つの依頼書を手に取り、受付嬢に渡す。

「お姉様、こういう依頼は得意ですものね」

 セイラがセイカを見ながら微笑む。

「分かりました。どうぞご無事で……とは言っても、お2人でしたらこんな依頼、なんてことないと思いますが」

 受付嬢が冗談交じりに言い、依頼書に判子を押す。

「……ねぇねぇ、最近変なスライムが出たって話、聞いた?」

 ギルドに併設された酒場から、冒険者たちの話声が聞こえる。

「あぁ~、聞いた聞いた。今までいなかったはずの黄色いスライムが出たんでしょ?」

「突然変異……なのかな?」

「またまた~、きっと見間違いだよ」

 セイカは興味深そうに噂話に耳を傾ける。

「黄色いスライム、ね……そんなもの、本当にいるのかしら?」

「さあ……? でも、念のため気を付けた方が……」

「そうね。でも、どんな魔物でも、私の魔法でやっつけちゃうんだから」

「はい、お姉様」

 姉妹はギルドを後にし、王国を出て依頼書に書かれた街道へと向かった。


 ──数時間後。

「ふぅ……一通り片付いたわね」

 セイカが杖を担ぎ、一息つく。辺りには倒された魔物の残骸が散らばり、セイカの水属性の魔法で濡れた草木が光を反射している。

「はい。お姉様に大きな怪我もなくて、良かったです」

 セイラが安堵したように微笑み、セイカに回復魔法をかける。

「……ん、魔法をちょっと多く使ったせいで、トイレ行きたくなっちゃったわね……セイラ、近くの宿屋で一休みしてから帰りましょう?」

「はい、お姉様」

 そうして姉妹が踵を返した、その時。

 かさかさっ、ぺたんっ、と、1匹の淡い黄色のスライム──ピスライムが、姉妹の前に姿を現した。

「あら? まだ魔物が残っていたのね」

 杖を持ち直し、戦闘姿勢を取ろうとするセイカ。それに対し、セイラはそのスライムの姿に、引っかかるものがあった。

「見慣れない色……黄色いスライム……はっ!?」

 セイラはここに来る前にギルドで聞いた噂を思い出した。

「お姉様、もしかして、さっきギルドで噂になっていた黄色いスライムって……!」

「そういえば、そんなこと言われてたわね。本当にいたなんて」

 セイカも噂のことを思い出す。とはいえ、目の前にいるそのスライムは、大きさも動きも、どう見てもただの弱いスライムと変わらない。

「すぐ倒すわ、セイラ、下がってなさい」

「はい、お姉様」

 セイカが魔法を唱え、杖の先から小さな水の弾を放つ。しかし、ピスライムはぴょこっと横に跳ね、それをかわした。

「スライムのくせに避けるなんて生意気ね!」

 セイカが確実に仕留めようと、少し強力な魔法を唱えようとした、その瞬間。

「きゃっ……!」

 少しの隙を突いて、ピスライムがセイラの足元に滑り込むように迫り、セイラが避けるよりも早く、その黄色い身体がセイラにぶつかった。

 それと同時に、淡い光の粒が、セイラの下腹部へと吸い込まれていく。

「……っ!?」

 セイラの表情が、はっきりと強張った。

「食らいなさい! 『マリン・スピア』!」

 ワンテンポ遅れて、セイカが魔法を唱え、レーザーのように飛び出した水がピスライムを吹き飛ばした。

「ふぅ、なんてことなかったわね……って、セイラ!?」

 セイカがセイラの異変に気付く。セイラは杖を持っていない手でそっと下腹部を押さえ、突然体内で高まり始めた内圧に苦悶の表情を浮かべる。

「お、お姉様……その……」

「もしかして、さっきのスライムが毒を持ってたのかしら? セイラ、こういう時は解毒魔法でしょ?」

 セイラの身に何が起きているか分からないセイカは、普段魔物から毒を受けた時のようにセイラに解毒魔法を使わせる。

「……は、はい……! 『キュア・ポイズン』……!」

 柔らかい光がセイラを包む。だが、セイラの顔から苦悶の色は消えない。

「……っ、だめですっ、お姉様……!」

「効かない……? スライムの毒程度なら、効くはずなのに……」

「……その、お姉様……これ、毒じゃ、なさそうで……っ」

 セイラは内股になり、太ももをぴたりと閉じる。額には汗が浮かび、呼吸も少し荒くなっている。

「その……お手洗いに、行きたい……というより、もう、押さえてないと、我慢が……」

「そんな急に!? さっきまで、何ともなかったじゃない!?」

「はい……あのスライムにぶつかられた途端、急に……っ!」

 セイラは両手で股を押さえる。その顔は真っ赤に染まり、必死に脚を閉じ、漏らさないように耐えていた。

「……あの黄色いの、ただのスライムじゃなさそうね……どうにか倒したけれど、近くにもっといたらまずいわ。セイラ、宿屋に急ぐわよ!」

「……は、はい……お姉様……っ!」

 セイラは前押さえをしたまま、ゆっくりと、膀胱に刺激を与えないようにセイカの後を追う。それでも、1歩、また1歩と歩くたびに膀胱が揺れ、熱く恥ずかしい液体が零れそうになる。

「んんっ……あっ……やぁっ……!」

「セイラ、大丈夫!? 私が魔法で隠すから、もう茂みかどこかで済ませちゃった方が……」

「い、いや……そんなこと……っ」

 セイラは必死に我慢を続けようとする。「聖女」として、トイレ以外の場所で「おしっこ」という穢れを放出してしまうのは、セイラにとって何としても避けたいことなのだ。

 街道を進み、ようやく宿屋が見えた頃には、セイラの尿意は臨界点すれすれに達していた。セイラはもう取り繕う余裕もないほどに必死に股を押さえ、今にも溢れてしまいそうなおしっこを堰き止めている。

 しかし、その我慢にもやがて限界が訪れる。

「あ、あっ……お姉様……私、もう……」

「セイラ!?」

 宿屋の少し手前で、セイラの足が止まる。両手で股を強く押さえ、さらにしゃがみ込んでかかとで出口を押さえるような形になる。

「お姉様……もう、出て……出ちゃい、ます……っ!」

 セイカは周囲を素早く見渡す。宿屋の入り口まではあと少し。だが、今のセイラにはその十数歩が遠い。セイカの目に映りセイラは、どう考えてもその道中で漏らしてしまいそうだ。

「……わかったわ、私が魔法で水溜まりを隠してあげるから、もうここでしちゃいなさい!」

「で、でも……こんな場所で……あぁっ!」

「ほら、もう我慢できないんでしょ? 漏らすよりはマシよ。誰か来ちゃう前に、ほら」

 セイラは恥ずかしさに目を潤ませながら、スカートの中に手を伸ばしパンツを膝まで下ろす。

「神様……お許しください……んんっ……はあぁっ……」

 中腰になり、スカートの裾がちょうど地面に着いて下半身が隠れた状態になると同時に、セイラの括約筋が限界を迎え緩む。そんな状態でセイラがおしっこの勢いを調整できるわけがなく、スカートの中からはぶじゅううっ、と轟音が響き、膝まで下ろしたパンツにおしっこの大半が注がれるような形でセイラは野外排泄をしてしまった。

「……よし。あとは、私が何とかするわ」

 セイラのスカートの中からおしっこの音が止むと同時に、セイカが水の弾を放つ魔法でセイラの水たまりをカモフラージュする。完全な浄化ではないものの、セイラのおしっこの匂いにつられて魔物が出てこないようにするには充分だった。


「それじゃあ、私はトイレに行ってくるから、セイラは部屋で着替えて待ってなさい」

「はい、お姉様……」

 セイラの限界放尿──ほぼお漏らしと言っていいと思うが──の後始末を終え、姉妹は宿屋に入った。そして、セイラを部屋に残し、セイカは1人宿屋入り口のトイレに急ぐ。ただでさえ依頼の魔物討伐を終えた時点で尿意を感じていたうえに、ピスライムとの戦闘、そしてセイラのおしっこを隠すために魔法を使ったことが重なり、その尿意は無視できないものになっていた。

「……っ、はあぁぁ……」

 便器に座り、下半身の力を抜くセイカ。

「……セイラじゃなくて私が攻撃を受けていたらと思うと、危なかったわ……」

 一方、セイラは部屋で濡れたパンツを脱ぎ、宿屋の商店で買った新品に履き替えた。残った違和感と、先ほどの羞恥、そして、妙な胸騒ぎが残り、顔の赤みがなかなか引かない。

「……あのスライム、何だったのでしょう……攻撃を受けた途端、お手洗いに行きたくなって……」

 セイラは窓の外を見て、小さく呟いた。


──────────


 魔王城の玉座の間。壁に映し出された巨大な映像には、先ほどのセイカとセイラの姿が映っていた。

「ふふ……初めての戦闘にしては、上々ですわ」

 リリアが優雅に微笑む。

「完全に着衣で漏らさせたわけではないが、聖女のあの慌てよう、屋外での限界放尿は最高だったな」

 ディリュージアは腕を組んだまま、映像越しにセイラを見つめる。

「はい。解毒が効かず、突然の尿意に焦らされる。王国の女騎士たち相手でも、少なくとも混乱は与えられるかと」

「それなら、ピスライムを正式に魔物として量産してやろう。わが魔王軍のお漏らし侵攻を始めるぞ」

「承知しました。彼女たちが『黄色いスライム』を危険と認識し、お漏らしを恐れる姿……とても楽しみですわ」

 ディリュージアは口角を上げ、リリアは悪い笑みを浮かべる。

 ピスライムの初陣は、こうして確実な手応えを魔王軍に感じさせた。

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