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箱庭のテラフォーミング 〜全てが監視されていたなんて〜  作者: 大神みや
枯れ野のルタ村編

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第4話 乾いた地下水脈と、白々しい落とし物

「フロ。半径5キロ圏内の地質と、地下水脈の探知を頼む」


俺が左腕のデバイスに指示を出すと、銀色の球体・フロがピコピコと電子音を鳴らしながら回転した。


『イエッサー! 地中レーダー探査、開始します! ……ピロリン♪ 発見しました、マスター・カイ!』


フロの横に、周囲の地形を模した青いワイヤーフレームの立体地図が浮かび上がる。

現在地である広場のすぐ足元から、北の岩山に向かって、うっすらと青い線が伸びていた。


「地下水脈だ……! しかも、ここからなら地下たった3メートルの位置にある」

「本当!? じゃあ、ここを掘れば水が出るの!?」

レイラが目を輝かせて俺の腕を覗き込む。


「ああ。だが問題がある」

俺は立体地図の青い線のさらに上、分厚く表示された赤い層を指さした。


「水脈の上に、分厚い岩盤の層がある。さっきの木のクワじゃ、いくら掘っても刃が立たない。岩盤を砕くための、頑丈な鉄の杭やドリルがないと……」


言いながら、俺は周囲を見渡した。

村人たちはボロボロの服を着て、石や木のクワを使っている。

だが、俺の左腕には『フロ』という高度なAIデバイスがある。


(テクノロジーのレベルが、あまりにも歪だ。この村のどこを見渡しても、フロだけが完全に浮いている)


俺が違和感に思考を巡らせていた、その時だった。


『チャリーン♪』

突然、フロから「小銭が落ちたような」軽快な通知音が鳴った。


「ん? 今の音は何だ?」

『……あッ! お、おおっと! マスター! あんな所に、誰かの落とし物があるようです!』

フロが、わざとらしいほど大きな声を上げた。


「落とし物?」

フロがホログラムの矢印で示したのは、広場の隅にある大きめの岩の裏だった。

いや、さっきまであんな所に何もなかったはずだ。


「レイラ、ちょっと見てきてくれるか?」

「え、ええっ!? わ、私!? し、仕方ないわね、ちょっと見てくるわ!」


なぜかレイラが、ひどく慌てた様子で小走りで岩の裏に向かう。

その際、彼女がチラリと「空」を見上げ、自身の「耳元」にそっと手を当てたのを、俺は見逃さなかった。


やがて、わざとらしく両手で何かを掲げて戻ってくる。

「カ、カイ! 大変よ! こんなところに偶然、新品の『鋼鉄製のハンドオーガー(手動ドリル)』が落ちていたわ!」

「……は?」


レイラが差し出したのは、どう見ても工場で作りたてのような、ピカピカに光る緑色の鉄製ドリルだった。


村の人間はボロボロの服を着て木のクワを使っているのに、なぜ俺が「欲しい」と呟いた直後に、岩の裏に新品の鋼鉄製ドリルが落ちているんだ。

やはり間違いない。

この世界の裏には、俺の想像を絶する『高度な文明を持った何者か』が確実に存在し――俺たちの行動を監視している。

そして目の前の少女も、何かしらそれに関わっている。


「行商人が落としていったのかしら! いやー、偶然ってすごいわね!」

レイラが額に汗をかきながら、引きつった笑顔で言う。

『ピロリン♪ まさに天の恵み! これもマスターの普段の行いが良いからですね!』

フロも空中でクルクルと回りながら同調した。


まるで、空の上の誰かが、俺たちの会話を聞いて都合よく「差し入れ」を落としてくれたような――。


「……まあ、いい。使えるものは何でも使う」


不気味さと違和感は拭えないが、今はこれ幸いと利用させてもらうしかない。

技術者としての現場の鉄則だ。


俺はピカピカのドリルを受け取り、フロが示した水脈のポイントに突き立てた。

体重をかけ、ハンドルを回す。


ガリッ、ガリガリッ! と、硬い岩盤を削る確かな手応えが腕に伝わってきた。


「いける……!」

容赦なく照りつける太陽の下、汗だくになりながらドリルを回し続ける。

レイラも横で、俺が掘り出した土と砕けた岩を、素手で必死に掻き出してくれた。


一時間後。

『ガキンッ!』という音と共に、ドリルの先端が岩盤を突き抜けた感覚があった。


次の瞬間。


「うわっ!」

足元の穴から、プシューッ! という音と共に、勢いよく地下水が噴き出した。


「出た……! 水よ、カイ!」

レイラが噴き出す水を全身に浴びながら、泥だらけの顔で歓声を上げる。


『ピロリン♪ 地下水脈の正常開通を確認! 毎分45リットルの豊富な湧出量です! 水質チェック……有害物質検知なし。飲用可能です!』


冷たくて、澄んだ水だった。

俺は両手で水を掬い、一口飲んだ。

乾ききった身体の隅々にまで、命が染み渡っていく。


「レイラ、壺を持て! この水を、さっき作った土のベッドに撒くんだ!」

「うんっ!」


死んだ大地に、ミルフィーユのように重ねたヤギの糞と枯れ草のベッド。

そこに、たっぷりの地下水を染み込ませていく。


「これで……条件は揃った」


水と、有機物と、太陽の熱。

目に見えない何億もの微生物たちが、今この瞬間から目を覚まし、死んだ土を耕し始めるはずだ。


『ピロリン♪ 菌床ベッドの水分・温度が最適値に到達。土着微生物の強制休眠シグナルが解除されました。――対象エリアのバクテリア活性度、0.00%から上昇を開始します!』


泥まみれで笑い合う俺とレイラを、ホログラムのフロが楽しげに記録し続けていた。

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