表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭のテラフォーミング 〜全てが監視されていたなんて〜  作者: 大神みや
都の支配者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

第34話 筒抜けの密談と、過去の遺物

夜の砂漠は、急激に熱を失っていく。


ナーサリー(苗床)の隅では、地下深くから汲み上げられた化石水が冷たい音を立てて水路を流れ、ホホバの固い葉が乾いた風にこすれてザワザワと鳴っていた。


夕闇の中、俺は無造作に足元の錆びたスコップを拾い上げた。


土を掘る必要などないタイミングでの、不自然な動作。隣に立つカオルの視線が、一瞬だけ鋭く動いた。


彼女の目が、俺の左腕のデバイス――その極小のカメラレンズを捉える。


言葉は要らない。「今から、世界に向けてるぞ」という合図だ。


俺はスコップの柄を握り直すと、振り返って現地人の責任者を呼び止めた。


「サード。ちょっと手伝ってくれ」


「どうしたんだ、カイ。砂漠の開拓は成功したんだ、今夜くらいゆっくり休めばいいのに」

サードが不思議そうにクワを置く。


「サード、俺たちは今夜、この集落を出る。マ・カレシュにいるマークのところへ戻るんだ」


「えっ!? マ・カレシュに? ……だが、どうして急に。ここで待っていれば、お前たちをここに連れてきた『上の連中』から、また次の指示が来るんだろ?」


サードの素朴な疑問に、カオルが静かに首を振った。


彼女はサードに向かって語りかけながらも、その氷のように冷たい視線は、俺の左腕のレンズを正確に射抜いていた。


「サード、私たちのいた地球って星にはね、昔、人権を完全に無視して、見知らぬ場所に人間を放り込む、おそろしく野蛮で見応えだけを追求した見世物番組があったのよ」


「見世物、番組……?」


「ええ。安全なぬるま湯に浸かった奴らが、飢え死にしかけたり必死に足掻いたりする姿を、大喜びで見物して、お金を払って楽しむの。出演者はただのモルモット。――そしてね、サード。それをさらに悪質にして、本人の記憶まで弄んでハプニングを演出しているのが、今、私たちを閉じ込めているこの世界の仕組みよ」


サードがゴクリと息を呑む。


「記憶を弄ぶ……? ど、どういうことだ?」


「カイが自分の本当の名前を忘れていたのも、全部偶然じゃない。あいつらが視聴者ウケを狙って仕組んだ最悪の演出だったのよ!」


カオルの声は、夜風よりも冷徹だった。


「綺麗事のパッケージの中身は、ただの人権無視の悪趣味なエンターテインメント。これに課金して楽しんでいる視聴者は、自分たちがどれほど醜悪で野蛮な成金エンタメに加担しているか、気づきもしない哀れな連中よ」


彼女の口から吐き出された、GECOという二重略称の欺瞞の暴露。


それはリアルタイムで俺の腕のデバイスを経由し、画面の向こうのチャット欄へと叩き込まれ、視聴者たちに猛烈な罪悪感と大炎上を引き起こしているはずだ。


「さあ、サード。これを手首から外す」


俺はあらかじめ切り出しておいた水耕栽培用の特殊な遮光ネットを取り出した。


分厚くゴワゴワとした繊維を、俺とカオルのデバイスに何重にも、力任せに巻き付ける。


さらに、隙間という隙間に高分子ポリマーの溶液を流し込んだ。


スライムのような粘体を素手で塗り込めば、外気と触れて急速に硬化し、強固な殻となる。


『マスター・カ、イ……通信状態ガ……異常……スリープモー、ド、へ……』


脳内で響いていたフロの電子音が、泥に沈むように途切れた。


左腕を締め付けていた微かな熱と振動が消え、完全な沈黙が訪れる。


位置情報と生配信の電波は完全に死んだ。


「サード、今までありがとう。お前たちが自分で考えて土を触り続ければ、この緑は絶対に枯れない」

「カイ……カオル……。ああ、道中気をつけてな!」


俺とカオルは、夜の砂漠の闇へと静かに駆け出した。


マ・カレシュにいるマークの元へ戻り、中央セントラルへの反撃の作戦を練るために。


――数十分後。ナーサリーの影。


「……嘘。カイとカオルの電波が、完全に消えた!?」


セリアの悲鳴のような声が、静まり返ったオアシスに響いた。


彼女の耳の裏の通信パッチからは、中央セントラルのオペレーターたちのヒステリックな怒号が漏れ聞こえている。


『(ちょっとセリア、どういうことよ! チャット欄が「人権無視の番組なんて最悪だ」って大炎上した直後に、二人のカメラがオフラインになったわよ!? 運営も大パニックよ!)』


レイラは、青ざめた顔でその怒号を聞いていた。


エージェントの基本プロトコル。


対象を見失った場合、即座に自身の現在地と最終確認座標を本部に送信しなければならない。


レイラは無意識に、右手の指先を耳の裏の通信パッチへと伸ばした。


タップ一つで、中央の追跡部隊が動く。


だが――パッチに触れる寸前で、レイラの指先は空中でピタリと止まった。


カイたちが配信に乗せた言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。


自分たちは、あの二人を騙し、見世物にしていた側の人間だ。


それなのに彼は、自分たちの村を本気で救ってくれた。


通信パッチを起動しようとしたレイラの指先が、微かに震え、やがてゆっくりと、力なく下ろされた。


本部への報告はしない。


その代わり、彼女は暗闇に繋がれていたラクダの荒縄を、両手で乱暴に引き寄せた。


「……追いかけるわよ、セリア。ラクダを出して」


「追いかけるって……捕まえて運営に突き戻すの? それとも……」


セリアの問いに、レイラは答えなかった。


ただ、冷たい風の吹く砂漠の奥へと、鋭い琥珀色の瞳を向けた。


「あいつ、女の子一人連れて夜の砂漠を歩くなんて、無茶よ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ