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箱庭のテラフォーミング 〜全てが監視されていたなんて〜  作者: 大神みや
凍風のテウマ峠編 

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幕間(第4章エピローグ) 湯気に隠された極上リザルトと、狸の通信簿

テウマ峠の賑やかな温泉の湯気が、夜の冷気の中に遠ざかっていく。


カイが新設された温泉宿の特等席で、長旅の疲れを癒やす深い眠りについたのを見計らい、レイラとセリアは村の外れの露天風呂の裏手――チーフの私邸へと足を運んでいた。


部屋の奥、暗がりに腰掛けた渋い老村長は、パイプの煙をふぅ、と吐き出し、手元の端末のホログラムを操作した。


「……チーフ、お疲れ様でした。こちらレイラ、およびセリア。【ステージ4:テウマ峠】の最終リザルトの送信を完了しました」


レイラがどこか誇らしげに報告すると、村長は白髭をなでながら、低く渋い声で笑った。


「お疲れ様、だと? どこのどいつのせいで、ワシが上層部から一晩中絞られたと思っているんだ、お前たち」


村長は端末の画面を二人に向けた。そこには、本部の『完璧な笑顔の女』からの、怒りのメッセージが並んでいる。


「『過酷な極寒の山脈サバイバル番組のはずが、なぜ極上の温泉グルメ紀行にすり替わっているの!?』だとさ。上層部は当初、カイが極寒の中で凍え、飢え、泥水をすする絶望の絵面を期待していたからな。それがどうだ、蓋を開けてみれば床暖房で村は常春、極上の温泉エビに舌鼓を打ち、露天風呂の湯気に巻かれて『ととのう』などという前代未聞の癒やし映像を配信する羽目になった」


「あ、あはは……」


セリアが気まずそうに頬を掻く。


「だが――」


村長はパイプを灰皿にトントンと叩きつけ、ニヤリと不敵に口の端を上げた。


「結果(数字)がすべてを黙らせた。メインクエスト【地滑りの完全抑止】達成。サブクエスト【岩塩層を利用した温泉エビ・トラウト陸上養殖の成功】、【地熱床暖房インフラの構築】、【一大温泉観光保養地化による経済大爆発】……文句なしの全項目『SSS』ランククリアだ。全サーバーの富裕層たちが【あの温泉ツアーのチケットはどこで買えるんだ!】【山の上で食う獲れたてのエビ、美味そうすぎる!】と狂ったように投げ銭をブチ込み、今期の最高視聴率と最高収益を同時に更新した」


村長は手元のグラフを満足そうに眺める。


「上層部も、怒りながらも笑いが止まらん状態だよ。ワシの出した無理難題を、まさかあやつの持つ『端末』と、セリアのお前の海の知識、そして……あやつの『カオル』という幼馴染への一途な執念だけで完璧に引っ繰り返すとはな。大した男だ」


「カオル、ねえ……」


レイラとセリアが、同時に少し不機嫌そうな声を上げる。


「何だ、その顔は。お前たちも、あの露天風呂の裏でかなり醜い嫉妬の表情を晒していたな? カメラはバッチリお前たちのあのジト目を捉えていたぞ。視聴者からは【ツンデレと健気ヒロインが、ついに前世のライバルを認識した!】【この修羅場最高!】と、ラブコメ部門でも異例の盛り上がりだ」


「う、うるさいわね! あれはただ、カイのあの締まりのない優しい顔が癪に障っただけよ!」


レイラが顔を真っ赤にして言い返す。


「そうよ! 私たちはただ、エージェントとして対象の心理分析をしていただけ。ガチで嫉妬なんてするわけないでしょう!」


セリアもプイッとそっぽを向くが、その耳まで赤くなっているのを、老練な狸チーフは見逃さなかった。


「フン、演技なら結構なことだ。……だがな、忘れるなよ」


村長はパイプを再びくわえ、鋭い「上司」の目に戻って二人に告げた。


「次のステージは、この山脈を降りた先に広がる無限の砂漠だ。今までの街や村とは規模が違う

生命の存在そのものを拒む、本当の地獄だ。環境そのものが歪んだ【オアシス】――カイが持つ知識が、どこまで通用するか見ものだな。しっかりサポートしろよ、お前たち」


「「了解しました」」


二人は深く一礼し、チーフの部屋を後にした。


冷たい夜風が吹くテウマ峠の路地。


「……ねえ、セリア。次の砂漠、本当に過酷みたいだけど……」


「わかってるわ。微塵も負ける気がしないけどね」


「そうね。……あいつが『カオル』っていう女の子に会うまでは、私たちが絶対に守りきらなきゃね」


「当然よ。……でも、会った後はちょっと文句言ってやるんだから」


偽りのヒロインたちの境界線は、極上の温泉の熱によって、もう完全に溶け去っていた。


満天の星空の下、明日から始まる【無限の砂漠】という名の真の試練に向けて、一行は静かに闘志を燃やしていた。

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