第22話 鉄の獣の咆哮と、噴き上がる命の泉
これより、第4岩盤の掘削を開始する! 全員、衝撃に備えろ!!」
東区画の砂漠に、マークの怒号が響き渡った。
砂丘のど真ん中に引き込まれた巨大な機関車が、ブシューッ! と凄まじい蒸気を吹き上げる。
車輪の回転運動は、延長された鉄のレールと頑丈な滑車を介して、垂直に鉄のノミ(鏨)を吊り上げる強大な引力へと変換されていた。
ゴト、ゴト、ゴト……ズガァァァァンッ!!!
数トンの「鉄の牙」が自由落下し、大地を激しく穿つ。
地鳴りのような振動が、足元から旧市街まで伝わっていく。
「マーク、地層の硬度に変化ありだ! 破砕音が変わった、もうすぐ抜けるぞ!」
俺はフロの深度データを睨みつけながら叫んだ。
「応よ! 職人たちの意地が詰まった牙だ、へこたれるんじゃねえぞ!!」
マークがレバーを限界まで引き絞り、機関車が真っ黒な煙を吐いて咆哮する。
一分間に二十回。
単調で、泥臭くて、けれど誰にも止められない反逆のビートが、何日も何日も荒野に響き渡り――そして、その瞬間が訪れた。
フッ……と、それまで続いていた激しい金属音が消えた。
「――手応えが消えたぞ!? 抜けたか!?」
マークが叫んだ直後、大地が生き物のように不気味に震えだした。
掘削穴の奥底から、ズゴゴゴゴ……という、聞いたこともないような巨大な重低音がせり上がってくる。
「全員、離れろォッ!!」
俺の叫びと同時に、赤土の大地が爆発した。
ドォォォォォォォンッ!!!
天を突くような爆音と共に、真っ黒な天然ガスの奔流が噴き出し、続いて、太陽の光を浴びてキラキラと輝く「透明な水の柱」が、高さ数十メートルまで一気に噴き上がったのだ。
何万年もの間、暗闇に閉じ込められていた古代の化石水が、ついに地上へと解放された瞬間だった。
「み、水だ……水が出たぞォォォォッ!!」
誰かの叫び声を皮切りに、周囲で見守っていた旧市街の群衆から、地を揺るがすような大歓声が沸き起こった。
人々は降ってくる水しぶきを全身に浴びながら、狂ったように踊り、抱き合い、涙を流している。老鍛冶師は真っ黒な顔をくしゃくしゃにして男泣きしていた。
「やった……やったぞ、カイ……!」
マークがレバーを握ったまま、震える声で呟き、呆然と天を仰いだ。
「――カイッ!!」
その時、激しい衝撃と共に、二つの柔らかな身体が左右から俺に飛び込んできた。
見れば、レイラとセリアが、顔中を涙と泥まみれにしながら、俺の服を千切れんばかりに強く抱きしめていた。
「よかった……本当によかった……! カイが死んじゃったらどうしようって、私、私……っ!」
褐色の肌を涙で濡らし、レイラが子供のように声を上げて泣きじゃくる。
「ありがとう、カイ……! 私たちの土地が、この街が救われたわ……!」
セリアも銀髪を水浸しにしながら、普段の強がりを完全に忘れて俺の胸に顔を埋めていた。
二人はもう、空の上の「番組」のことなんて完全に忘れていた。
カメラのアングルも、エージェントとしての任務も、スパチャの金額も、今の彼女たちには一滴の水ほどの価値もない。
ただ目の前の「カイという男」が成し遂げた偉業に、心からの涙を流していた。
だが――。
「……ちょっと、アンタ。いつまでカイに抱きついてんのよ。離れなさいよ」
涙を拭ったレイラが、ふと我に返ってセリアを睨みつけた。
「なっ、何よ! あんたこそ、さっきからカイの腕をギュってしすぎよ! 離しなさいよ!」
セリアもハッとして頬を真っ赤に染めながら、負けじとレイラを押し返す。
「私が先よ!」
「私の方が貢献したわよ!」
さっきまでの感動的な抱擁から一転、水しぶきの中でいつものバチバチとしたキャットファイトが始まる。
俺はそれを見て、思わず吹き出した。
「ははっ……二人とも、風邪をひくぞ。さあ、泣いてる暇はない。水が出たなら、次はこの街を『本物の楽園』に変えるインフラ整備だ」
俺とマークは視線を交わし、力強く拳を突き合わせた。
感動の余韻をエネルギーに変えて、俺たちの本当の「プロの仕事」がここから始まった。




