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箱庭のテラフォーミング 〜全てが監視されていたなんて〜  作者: 大神みや
赤土の古都マ・カレシュ編

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第23話 緑の防壁と、砂嵐の彼方の友

化石水と天然ガスの発掘から、数ヶ月。

マ・カレシュの東区画は、領主の、そして空の上の連中の貧しい想像力を遥かに超える「大激変」を遂げていた。


「カイ、東3区画のスイカの収穫、始まったぞ! 砂地特有の寒暖差と、潤沢な化石水のおかげで、とんでもねえ糖度になってる!」

マークが、瑞々しい巨大な果実を抱えて笑う。


砂漠化が進んでいた東区画は、今や広大な「擁壁」で囲まれていた。

壁面には、噴き出した天然ガスの圧力を利用した自動灌水システムが張り巡らされ、びっしりと壁面緑化が施されている。この緑の防壁が、南から吹き付ける死の砂嵐を完全にシャットアウトし、都市内部の温度を劇的に下げる天然のエアコンと化していたのだ。


さらに、副次的な効果は農業だけに留まらなかった。

天然ガスを燃料にした簡易発電によって旧市街には調理用のガス網が敷かれ、夜には街灯が灯るようになった。不衛生で暗闇に包まれていたスラム街は、今や夜でも明るく、安全な街へと生まれ変わっていた。


「……信じられないわ」

羊皮紙の報告書を抱えたセリアが、ため息をついた。

「領主様からの追加報酬、これまでの十倍よ。それどころか、あんたに街の最高環境顧問になってくれって、泣きついてきてるわよ」


「報酬の半分はマークに。残りはルタ村とイサウィラへ寄付だ。顧問の席は、マークが座ればいい」

俺は荷物をまとめたリュックサックを背負い、静かに言った。


「旅に出るのね」

レイラが、寂しさを堪えるように琥珀色の瞳を見つめてくる。


「ああ。酒場の行商人から新しい情報が入った。この街の先、険しい山脈を越えた広大な砂漠の向こうに、黒髪の女――カオルの目撃情報がある」


俺が歩み出すと、背後から「おい」と声がかかった。

振り返ると、マークが、見違えるほど綺麗な服を着て、ニヤリと笑っていた。

だが、その左腕を見て、俺はわずかに目を細めた。

彼の袖口から覗くのは、俺の物と同型のデバイスだった。


『ピロリン♪ 初めまして、マスター・マーク! これよりあなたの広域農業支援を全力でサポートいたします!』


マークの腕から、新しいフロの能天気な声が響く。

マークが叩き出した圧倒的なリザルトは、空の上の富裕層たちを熱狂させ、へこたれた元主人公の復活劇として最高潮の数字を記録したらしい。運営は彼を無理やりキャストに引き戻すべく、昨夜、寝ている彼の腕にこの端末を強制的にロック(装着)したのだ。


「……今朝、目が覚めたらこのザマだ。外そうとしても皮膚の一部みたいに固定されてやがる。空の上のクソ野郎どもめ、よっぽど俺の泥臭い仕事がお気に召したらしい」


マークは左腕のデバイスを忌々しげに睨みつけ、それから、俺に向かって不敵に笑ってみせた。


「だが、今度は操り人形になる気はねえ。あんたの戦い方を見て目が覚めたからな。俺が知っているあの『バックドア』と、あんたに学んだ『システムは搾取するもの』という執念を組み合わせて、連中の金とリソースを限界まで搾り取ってやる。この国全体のインフラを本気で造り変えてやるさ」


マークは歩み寄り、右手を差し出してきた。


「カイ。あんたには大きな借りができちまったな」

「気にするな。あんたが水を飲んでくれたから、この街が救われた。……ここから先の農業インフラ、あんたに任せたぞ」

「おうよ。山脈の向こうで困ったことがあれば、いつでも駆けつけてやる。……死ぬなよ、相棒」


がっしりと熱い握手を交わし、俺たちは別れた。

一度はシステムに潰された男が、今度はそのシステムを逆手に取り、自分の足で歩み始める。その背中は、最高に誇らしかった。


「さあ、行くぞ。レイラ、セリア」

「待ってよカイ! 私の特等席なんだから!」

「ちょっとレイラ、真ん中を歩かないでくれる!?」


いつもの騒がしい小競り合いを連れて、俺たちはマ・カレシュの赤土の城壁を後にした。

目指すは、山脈の彼方の砂漠。

カオル。俺の知識と技術はすべて、君を迎え入れるためのものだ。

新たな大地へ向けて、俺たちの旅はどこまでも続いていく。

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