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箱庭のテラフォーミング 〜全てが監視されていたなんて〜  作者: 大神みや
赤土の古都マ・カレシュ編

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第21話 水商人の襲撃と、旧市街の盾

東区画の砂漠地帯。

俺とマークは、砂まみれになりながら、機関車の引き込み線となるレールの補強作業を行っていた。


俺たちがやろうとしているのは、巨大な機械式ドリルで穴を掘ることではない。

重い鉄のノミ(鏨)を機関車の動力で高く吊り上げ、自由落下させて岩盤を砕き続ける「衝撃式パーカッション掘削工法」だ。

農業インフラを整えるための古典的な井戸掘り技術の応用だが、これを深度三百メートルまで届かせるには、俺たち「土の専門家」による地層の緻密な計算と、それを砕くためのバカげた重さの「鉄の牙」が必要だった。


「カイ、第4地層の泥岩の密度計算、これで合ってるか?」

「ああ。機関車のピストン運動を利用して、一分間に二十回のペースで鉄を落とし続ければ、理論上は一ヶ月で岩盤を抜けるはずだ」


図面と泥にまみれて議論を交わしていた、その時だった。


「……おいおい。随分と楽しそうに泥遊びをしてるじゃねえか、よそ者」


乾いた砂煙を切り裂くように、下品な嘲笑が響いた。

振り返ると、手斧や鉄パイプで武装した数十人のならず者たちが、ニタニタと笑いながら俺たちを取り囲んでいた。

その中心で葉巻を吹かしているのは、絹の服を着た丸々と太った男。

中央広場で、法外な値段で地下水を売り捌いていた水商人の元締めだ。


「……何の用だ。俺たちは領主の依頼で動いている」

俺がスコップを握り直して睨みつけると、元締めは腹を揺らしてゲラゲラと笑った。


「領主様だと? 東区画の緑化なんて、誰も成功するとは思ってねえ『政治のポーズ』なんだよ。だがな……お前らみたいな手癖の悪い連中が、万が一にも化石水なんぞを掘り当てちまったら、俺たち水商組合ギルドの商売が干上がっちまうんでね」


元締めは葉巻を地面に捨て、革靴で踏み躙った。

「悪いが、お前らにはここで死んでもらう。せっかく敷いたこのレールも、全部ひん曲げて鉄くずにしてやるよ」


「……カイ、どうするの!? 相手、三十人はいるわよ!」

レイラが俺の背中に庇われながら、悲痛な声を上げる。


俺とマークは顔を見合わせた。

頭脳労働と土いじりのプロではあるが、喧嘩のプロではない。

スコップ一本で武装した三十人を相手にするなんて、どう考えても不可能だ。


「おいおい、冗談じゃねえぞ。俺はここで野垂れ死ぬためにスラムから出てきたわけじゃねえ」

マークが悪態をつきながらも、俺の隣に立ってクワを構える。

セリアも青い瞳に怒りを宿し、拳を握りしめた。


「やっちまえ! 設備ごと木っ端微塵に叩き壊せ!!」

元締めが号令をかけ、ならず者たちが一斉に襲いかかってきた――その瞬間だった。


「――どけえええええええええっ!!!」


地鳴りのような怒号が、砂漠の空気を震わせた。

ならず者たちが驚いて振り返った先。東区画の砂丘を越えてやってきたのは、真っ黒に煤けた無数の男たちだった。


「な、なんだお前ら!? 旧市街メディナのネズミ共が、何しに来やがった!!」

元締めが悲鳴のような声を上げる。


先頭を歩いていたのは、あの鉄くず通りの老鍛冶師だった。

その後ろには、ハンマーや鉄の棒を握りしめた旧市街の職人たち、そして水不足で苦しめられてきたスラムの住人たちが、文字通り「群衆」となって押し寄せてきていた。その数、ゆうに百人を超えている。


老鍛冶師たちの後ろでは、数頭の馬に引かれた巨大な荷車が砂埃を上げている。

その上に鎮座しているのは、彼らが三日三晩、文字通り命を削って打ち上げた重さ数トンにも及ぶ「鉄のノミ」だった。


「俺たちが血反吐を吐いて打った『希望』を、木っ端微塵にするだと……?」


老鍛冶師は血走った目で元締めを睨みつけ、巨大なハンマーをドンッ! と地面に突き立てた。


「やれるもんならやってみろ、水泥棒のクソ野郎共!! こいつらは俺たちのみらいを掘り起こす恩人だ! 指一本でも触れてみやがれ、旧市街の鉄打ち全員でテメェらをスクラップにしてやるぞ!!」


「「「おおおおおおおっ!!!」」」

百人を超える群衆が、一斉に武器を振り上げて雄叫びを上げた。

虐げられてきた者たちの、魂からの怒り。

その圧倒的な熱量と数の暴力の前に、ならず者たちは完全に戦意を喪失し、武器を放り出して我先にと逃げ出していった。


「ヒッ……! 憶えてろよ貴様ら!!」

元締めも無様な悲鳴を上げながら、這々の体で逃げ去っていく。


「……助かった、親父。最高のタイミングだ」

俺が安堵の息を吐きながら言うと、老鍛冶師は鼻で笑って、巨大な鉄の牙を積んだ荷車を指差した。


「喧嘩は俺たちに任せておけ。お前らは頭を使うのが仕事だろう」

老鍛冶師の顔は煤と疲労で真っ黒だったが、その目は誇り高く輝いていた。


「牙は揃ったぞ、土の専門家プロさんよ。さあ……この乾ききったクソったれな街の底に、でけえ風穴を開けてやろうぜ!」


圧倒的な熱気と、泥臭い絆。

旧市街の民衆という最強の盾を得て、マ・カレシュの命運を懸けた大掘削が、いよいよ始まろうとしていた。


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