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箱庭のテラフォーミング 〜全てが監視されていたなんて〜  作者: 大神みや
赤土の古都マ・カレシュ編

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第16話 絶望の依頼と、過去の痕跡

「西の果てで『緑の奇跡』を起こしたそうだな。ならば、このマ・カレシュの東区画を呑み込もうとしている砂漠化を、一年以内に完全に食い止めてみせよ。できなければ民を惑わした詐欺師として、全員まとめて絞首台行きだ」


それが、赤土の都を治める領主から突きつけられた、一方的で無慈悲な「依頼」だった。


「ふざけないで! そもそも街の地下水は富裕層が独占してるじゃない! 水も資材もまともに与えられない状態で、あの死んだ赤土を一年でどうにかしろなんて、ただの言いがかりよ!」

領主の館を追い出された直後、セリアが怒りに任せて石畳を力いっぱいに蹴り上げた。


「領主の反対派閥か、あるいは領主自身が、俺たちを『失敗のスケープゴート』にするために仕組んだ政治的な罠だろうな。端から俺たちに成功させる気なんてないのさ」

俺は腕を組み、砂埃の舞う東区画の空を冷静に見上げた。


「カイ、どうするの……? 逃げる?」

レイラが不安そうに見上げてくる。


「いや、逃げればカオルの情報網から完全にシャットアウトされる。それに『一年』という期限を切ってきたのは、むしろ好都合だ」

「好都合?」

「ああ。明日明後日で魔法のように森を作れと言われたら不可能だが、一年あれば『土木工事』と『インフラ整備』のスケジュールとしては十分に現実的だからだ」


俺は二人を連れて、問題の東区画へと足を向けた。


そこは、活気ある中央広場とはまるで別世界だった。

巨大な城壁のすぐ内側まで、赤く乾いた砂が波のように押し寄せている。

スラムのさらに外縁部に位置するこの場所は、容赦ない砂嵐の直撃を受け、家屋の半分が砂に埋もれてゴーストタウンと化していた。


「……ひどい有様だな」

俺は砂を一つかみ掬い上げた。イサウィラの塩害とは違う、完全に有機物を失った『死の砂』だ。

これを防ぐには、大規模な防風林の壁と、砂を固定するための莫大な「水」が要る。

だが、この街の地下水脈はすべて富裕層の区画に吸い上げられている。


(完全に八方塞がりか……ん?)


俺はふと、砂に埋もれた不自然な隆起に目を留めた。

足で周囲の砂を退けてみる。

現れたのは、自然の岩ではない。

明らかに人工的に切り出され、精巧に組まれた「石造りの水路」の残骸だった。


「カイ、それ……」

「……フロ、この周囲の地形データをスキャンしろ。地表から深さ二メートルまでの構造物を可視化してくれ」


『イエッサー! ピロリン♪ スキャン完了! マスター、驚くべきデータです!』


俺の左腕から空中に投影された青いワイヤーフレームを見て、セリアとレイラが息を呑んだ。

東区画の地下には、まるで血管のように張り巡らされた「巨大な灌水かんすいシステム」の跡が眠っていたのだ。


しかも、ただの水路ではない。

「これは……地下の温度差を利用して圧力を生み出す、ポンプの跡か……? ここには、水を均等に分配するためのバルブの残骸もある」

俺は赤錆びた鉄の部品を拾い上げ、指先でその断面をなぞった。


「前の世界の遺物オーパーツじゃない。部品の劣化具合や、石の削り出しの痕跡からして、作られたのはせいぜい数年前だ」


「数年前? じゃあ、この街の誰かがこれを作ったって言うの!?」

セリアが信じられないというように声を上げる。


「ああ。俺と同じか、それ以上に高度な農業インフラの知識を持った『天才』が、かつてこの街にいた。そして、何らかの理由でこの完璧なインフラ計画は頓挫し、無惨に放棄されたんだ」


俺は立ち上がり、砂に埋もれた巨大なインフラの墓標を見渡した。


「水がないなら、どうやって水を引くかを知っている人間に聞くのが一番早い。……レイラ、セリア。街に戻って情報屋を当たってくれ。数年前にこの東区画で、大規模な土木工事を指揮していた人間の名前を割り出すんだ」


「わ、わかったわ。ちょっと市場の裏口あたりを探ってくる!」

レイラが不自然なほど焦った声で頷き、スラムの奥へと駆け出していく。


(……あのインフラの美しさは、本物のプロの仕事だ。見つけ出せれば、必ずこのデッドロックを打ち破る鍵になる)


絶望的な依頼と、死の砂漠。

その境界線で、俺は名も知らぬ「過去の技術者」が残した痕跡を、熱を帯びた手で強く握りしめた。


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