第15話 赤土の旧都と、鉄の道の終着駅
イサウィラを出発し、荒野を東へ進むこと数日。
土煙の向こうに、周囲の景色とは明らかに異質な「赤土の巨大な城壁」が姿を現した。
「……見えてきたわね。あれが『マ・カレシュ』よ」
セリアが指差した先には、街の中心を貫くようにそびえ立つ、巨大な石造りの尖塔があった。
空を突くようなその威容は、この広大な荒野のどこからでも見える絶対的な道標だ。
かつてこの国全体を統治していた「旧都」の権威を、今なお無言で誇示しているようだった。
俺たちは城壁の正門へと続く街道を歩きながら、足元に奇妙なものが延びていることに気づいた。
「カイ、これ……鉄のレール?」
レイラが不思議そうに足元を覗き込む。
赤土に半ば埋もれるようにして、太い鉄のレールが二本、地平線の彼方からマ・カレシュの正門へと向かって伸びていた。
そして、レールの先端は城壁の手前でプツリと途切れている。
「……『鉄道』の終着駅か。前の世界の文明の遺物が、こんな形で生き残っているとはな」
「テツドウ?」
「大量の物資や人を運ぶ、巨大な鉄の車だよ。海街の古い風車やガソリン車もそうだったが、この世界では過去の遺物を騙し騙し使いながら、どうにか交易網を維持しているらしいな」
かつては世界の中心だった旧都。
今は、鉄道というインフラを基点に各地から物資が集まる「商人の街」として、その命脈を保っているのだろう。
正門の厳しい警備を抜け、街の中に足を踏み入れた瞬間――俺たちは、凄まじい熱気と喧騒に飲み込まれた。
「うわぁ……! なにこれ、すごい人!」
レイラが目を丸くして歓声を上げる。
街の心臓部とも言える巨大な広場には、足の踏み場もないほどの露店がひしめき合っていた。
香辛料の強烈な匂い、奇妙な楽器をかき鳴らす大道芸人、そして世界中から集まった商人たちの怒号のような値切り交渉の声。
「水だ! 貴重な地下水だよ! コップ一杯で銀貨一枚だ!」
「どけえっ! 領主様の荷車が通るぞ!」
生命力に満ち溢れた、圧倒的なカオス。
だが、視線を少し横に向けると、きらびやかな絹を纏った豪商たちのすぐ足元の路地裏には、ボロボロの衣服を着てうずくまるスラムの住人たちが溢れかえっていた。
極端すぎる貧富の差と、無秩序な人口過密。それがこの巨大都市の裏の顔だ。
「すごい活気だが……空気が淀んでるな。治安も悪そうだ」
「でしょ? 情報集めには困らないわよ。ただ、スリとぼったくりには気をつけてよね」
セリアが、自分の荷物をしっかり抱え込みながら周囲を警戒して言う。
『ピロッ……ザザッ……ピロリン♪ まさに交易のハブ都市! 視聴者の皆様も、このエキゾチックな……ザザッ! おっと、微細な砂埃のせいで少し通信にノイズが乗りますね!』
フロが空中で呑気に解説を入れるが、俺の視線は広場の熱狂ではなく、足元の「土」に向けられていた。
(……領主の依頼状にあった通りだ)
活気に満ちた広場の石畳の隙間に、不自然なほど細かい「乾燥した砂」が入り込んでいる。
街を取り囲む赤土の荒野から、南の風に乗って、じわじわと、だが確実に「死の砂」がこの巨大都市を浸食し始めているのだ。おまけに、法外な値段で売られている地下水。
このまま人口過密と無計画な揚水が続けば、この街は遠からず干上がる。
「……急ぐ必要があるな」
カオルの情報を集めること。
そして、この街を飲み込もうとしている巨大な環境問題の正体を突き止めること。
喧騒の都マ・カレシュの中心で、俺はこれまでにない過酷な闘いの始まりを静かに予感していた。




