幕間(第1章エピローグ) 監視者のため息
ルタ村から旅立ち、南へと向かう道中。
カイが野営のテントで深い眠りについたのを確認し、レイラは音を立てずに外へ出た。
満天の星空の下、彼女は自分の耳の裏にあるごく小さな『通信パッチ』に触れた。
『――こちらレイラ。対象、ルタ村を離れ、予定通り南のルートへ進行中』
『ご苦労様、レイラ調査員。シーズン1の視聴率は歴代最高よ。上客のシニア層たちは、彼の泥臭い緑化作業にすっかり夢中になっているわ』
脳内に直接響く、オペレーターの無機質な声。
『引き続き、対象のバイタル管理と、視聴者からの「支援物資」の自然な投下誘導を頼むわ』
『……了解しました、イザベル』
『何か不満でも?』
『いいえ。ただ……』
レイラは、静かに眠るカイのテントを振り返った。
過酷な労働に文句一つ言わず、ただひたむきに土と向き合い、村人たちを笑顔にした彼の真っ直ぐな横顔が脳裏に浮かぶ。
『彼は、私たちが用意した安易なアイテムなんて、本当は少しも望んでいないわ。……対象は、極めて誠実で、優秀な技術者よ。彼をこれ以上、見世物にするのは……』
『レイラ。個人的な感情移入はエージェントの規約違反よ。忘れないで。彼が探している「カオル」という女性も、番組を盛り上げるための最高のスパイスなんだから』
通信が一方的に切れる。
レイラは小さくため息をつき、冷たい夜風の中で自身の腕を抱きしめた。
「ごめんなさい、カイ……」
彼が真剣に探している人が見つかってほしい。
でも、彼がすべてを知った時、自分に向けられるであろう軽蔑の目を想像すると、胸が張り裂けそうだった。
騙し続けている罪悪感と、彼と共に土にまみれた一年間の確かな喜びに板挟みになりながら、偽りの村娘は夜の闇にただ一人立ち尽くしていた。




