再説
ソラは困惑していた。
先程まで目の前で剣を交えていたレオン。その姿がまるで砂のように崩れ落ち、中から全く知らない男が現れたのだから。
それだけではない。
先ほどまで自分を襲っていたはずのユイが、その男に向かって魔法を放っている。
何が起きているのか理解が追いつかなかった。
そんなソラの戸惑いをよそに、ユイは青い魔法陣を展開した。
放たれた魔法を男は少し驚いた表情を見せながらも軽々と回避する。
そして即座に反撃へ移った。
ユイは片手をかざす。
すると両手に淡い光と共に二本の短剣が現れた。
キィンッ!
鋭い金属音が森に響く。
男の斬撃を受け止め、そのまま流れるように反撃へ移る。
細かな斬撃が次々と男へ襲いかかった。
しかし男も決して弱くない。
剣を振るう速度は速く、正確だった。
ユイは攻撃をいなし続けていたが、徐々に防御が間に合わなくなっていく。
一歩、また一歩と押されていた。
ソラはただ見ていることしかできない。
状況が理解できない以上、下手に動くこともできなかった。
その時だった。
ソラの背後から人影が飛び出した。
あまりの速さに式眼を使っているソラでさえ反応が遅れる。
その人物は一瞬で男との距離を詰めた。
そして男の腹部へ手を当てる。
「——爆炎」
次の瞬間。
轟音と共に火属性魔法がゼロ距離で炸裂した。
男の身体が吹き飛ばされる。
木々をなぎ倒しながら地面を転がった。
ソラは目を見開く。
現れた人物の顔を見てさらに驚いた。
「レオン……!?」
そこに立っていたのは、本物のレオンだった。
吹き飛ばされた男は立ち上がり、忌々しそうに舌打ちする。
「チッ……本物が来やがったか」
男はレオンとユイを睨みつけたあと、そのまま森の奥へ飛び込んだ。
追う暇もなく、その姿は闇の中へ消えていった。
静寂が訪れる。
ユイとレオンは同時にソラの方を向いた。
座り込んでいるソラを見るなり、ユイはぱっと表情を明るくする。
「ソラ!!」
勢いよく駆け寄ってきた。
「久しぶりー!」
目を輝かせながら話しかけてくる。
その様子は昔と何も変わっていなかった。
レオンもゆっくりと近づいてくる。
「元気そうでよかった」
穏やかな笑みを浮かべていた。
その顔を見て、ようやくソラは目の前の二人が本物だと実感する。
だが疑問は山ほどあった。
ソラは立ち上がりながら尋ねる。
「なんでここにいるんだ?」
「それに、さっきの男は何なんだ?」
ユイとレオンは顔を見合わせた。
レオンが口を開く。
「説明したいところだが——」
そう言って森の奥へ視線を向ける。
「まずはルカと合流する」
「それと、あいつを回収しないといけない」
ソラは首を傾げた。
「あいつ?」
レオンは真剣な表情で頷く。
「ああ。今逃げた奴だ」
「放っておくと厄介だからな」
そう言うとレオンは踵を返した。
ユイも後ろを向く。
「ほらソラ!話は歩きながら!」
そう言って手を振る。
ソラは状況を理解しきれないまま、二人の後を追いかけるのだった。
少し歩くと、開けた場所に出た。
そこにはアバンとルカが立っていた。
ルカはソラの姿を見つけるなり、ぱっと表情を明るくする。
「ソラ!」
駆け寄ることはしなかったが、心から安心したような笑みを浮かべた。
「無事だったみたいだねー。よかったーー」
胸をなで下ろすように息を吐く。
その様子を見て、ソラも少し肩の力が抜けた。
アバンは相変わらずの笑顔を浮かべながら手を振る。
「やあ。どうやら無事だったみたいだね」
「色々聞きたいことがあるんだけどな……」
ソラがそう言うと、レオンが前へ出た。
その表情は先ほどまでとは違い真剣そのものだった。
「まずは説明する」
全員の視線がレオンへ集まる。
「先ほどの連中は変装魔法を使って俺たちの姿を真似ていた」
「本物の俺たちじゃない」
ソラは黙って聞く。
「そして奴らの役目は一つだ」
レオンは真っ直ぐソラを見る。
「ソラ、お前を抹殺すること」
空気が重くなる。
ソラの表情も自然と険しくなった。
「誰の命令なんだ?」
その問いにレオンは一瞬だけ目を伏せる。
そして答えた。
「クレアレス国王」
「ロイド・クレアレスだ」
その名前を聞いた瞬間、ソラの身体が硬直した。
王都クレアレス。
自分が学んだ学園。
友達。
そして大切な人たちがいる場所。
そんな国の王が自分を狙っている。
簡単には信じられない話だった。
「俺たちはクレアの依頼で動いている」
ルカが言葉を引き継ぐ。
「ソラを狙う奴らを止めてほしいってね」
その言葉を聞いた瞬間、ソラの胸が温かくなった。
クレア。
自分がいなくなっても、まだ覚えていてくれた。
探してくれていた。
その事実だけで胸がいっぱいになる。
レオンは続ける。
「それと、ソラがいなくなった直後のことだ」
「シバも姿を消した」
「え……?」
ソラは思わず声を漏らした。
シバまでいなくなっていたとは知らなかった。
「そしてその頃から国王の様子がおかしくなった」
レオンの表情はさらに険しくなる。
「今のクレアレスは昔とは別の国だ」
「街に活気はない」
「人々は不安を抱えている」
「財政状況も深刻化している」
ソラの脳裏に、活気あふれる王都の景色が浮かぶ。
それが今は失われている。
そう考えるだけで胸が痛んだ。
「クレアは父親に何か起きていると考えている」
「だからソラに戻ってきてほしいんだ」
ルカが小さく頷く。
「それで私たちは動いてたんだよ」
そこでレオンたちはアバンへ向き直った。
そして三人同時に頭を下げる。
「頼む」
「力を貸してくれ」
クレアレスの敵であるはずのアバンに対してのお願いだった。
アバンは少し驚いたような顔をしたあと、いつものように笑った。
「僕は構わないよ」
そしてソラへ視線を向ける。
「でも決めるのは君だ」
「僕はソラの決断についていく」
全員の視線がソラへ集まった。
森が静まり返る。
しばらく考えたあと、ソラは顔を上げた。
迷いはなかった。
「もちろんだ」
全員が顔を上げる。
「クレアレスを救おう」
その言葉にレオンたちは安堵したような表情を浮かべた。
ルカは嬉しそうに笑う。
ユイは「よしっ!」と拳を握った。
アバンも満足そうに頷く。
「決まりだね」
そう言って空を見上げた。
木々の隙間から月明かりが差し込んでいる。
「それじゃあ――」
アバンがニヤリと笑う。
「王都クレアレスへ向かうとしようか」
こうしてソラたちは再び、自らの過去と向き合うための旅へと踏み出したのだった。




