破理
ソラたちは帰りの馬車の中でも相変わらず騒がしかった。
「それでさ! あの時のイナミの顔、ほんと傑作だったんだから!」
「はぁ!? お前の方が情けなかっただろ!」
アイラとイナミが言い合いを始める。
その横ではドミニクが静かに本を読もうとしていたが、結局会話に巻き込まれていた。
皆それぞれ、パークスでの思い出を語り合っている。
「あ、見てくださいこれ!」
レアが取り出したのは小さな包みだった。
中から現れたのは、白と黒を基調にした小さな服。
「ミミ用?」
ソラが聞くと、レアは少し照れながら頷く。
「……似合うと思って」
そう言ってミミへ着せる。
するとミミは嬉しそうにその場でくるりと回った。
「きゅぅ〜!」
小さな尻尾をぶんぶん振っている。
「かわいっ……!」
アイラが悶絶する。
イナミも完全に表情が緩んでいた。
「反則だろそれ……」
馬車の中が和やかな笑いに包まれる。
そんな時間を過ごしながら、一日、また一日と旅は進んでいった。
そして――
ついにフリッスへ辿り着く。
「帰ってきたなぁ……」
誰かがぽつりと呟いた。
見慣れた外壁。
巨大な城門。
慣れ親しんだ故郷。
長い旅を終えた安心感が全員の胸に広がっていた。
だが。
その感情は、馬車が城門をくぐった瞬間に凍りつく。
「……なっ……」
イナミの口から声が漏れた。
ソラたちの瞳に映ったのは、かつてのフリッスではなかった。
灰色の瓦礫。
崩れ落ちた建物。
空へ伸びていた高層ビルは半分から崩壊している。
道には砕けた石材が散乱し、人々は暗い表情で瓦礫の撤去をしていた。
子供の泣き声。
遠くで響く工事音。
煙の匂い。
かつて活気に満ちていた街は、まるで別世界のようだった。
馬車の中から誰も言葉を発せない。
やがてソラたちは静かに馬車を降りた。
周囲を見回していると、一人の人物がこちらへ歩いてくる。
アイネだった。
ソラはすぐに駆け寄る。
「何があった!?」
その声には焦りが滲んでいた。
アイネは一瞬目を伏せ、暗い表情で答える。
「……ここで話すと長くなる。場所を変えよう」
その声音だけで、事態の深刻さが伝わってきた。
ソラたちは無言で頷き、アイネの後をついていく。
歩いている途中。
ふとイナミが辺りを見回した。
「あれ、そういえばイリーナは?」
ソラへ視線が向く。
するとソラは少し気まずそうに頬を掻いた。
「……右目の中にいる」
「は?」
「恥ずかしいから出たくないらしい」
その説明に皆一瞬固まる。
だが。
「あー、まあ精霊だし……」
「そういうこともあるのか?」
なぜか納得された。
しかし本当の理由は別だった。
――イリーナは、この街の“とある住民”に顔を見られることを避けていた。
そのことをソラだけは理解していた。
やがて地下区画へ到着する。
薄暗い通路を抜け、教室へ案内された。
ソラたちが席について待っていると、扉が開く。
入ってきたのはアバンとアイネ。
そして後ろには秘書と思われる女性――フランネの姿もあった。
だが、いつもの空気とは違う。
アバンは教卓へ立つと、生徒たちを見渡した。
その表情は真剣そのものだった。
「今、街があの状況になっている原因はただ一つだ」
静まり返る教室。
アバンは低い声で続ける。
「君たちがいない間に襲撃を受けた。そして我々は、手も足も出ず街を破壊された」
その言葉に空気が凍る。
ソラは眉をひそめた。
「……あんたがいながら負けたのか?」
率直な疑問だった。
アバンほどの実力者がいるなら、普通はそう簡単に街は落ちない。
しかしアバンは静かに首を横に振る。
「その時、私は他国との契約で国外にいた」
その説明に皆納得する。
だが、それでも疑問は残った。
フリッスには多くの魔術師がいる。
強者も少なくない。
それなのにここまで壊滅するなど異常だ。
イナミが息を呑みながら聞く。
「……相手は、どれくらいの数だったんだ?」
アバンは少し沈黙した。
そして口を開く。
「こちらの戦力は五千」
そこまでは普通だった。
だが次の言葉で、全員が凍りつく。
「あちらは五人だ」
「…………は?」
誰かが間抜けな声を漏らす。
五千対五。
千倍の戦力差。
それで壊滅した?
常識ではありえない。
教室の空気がざわつく。
その時。
横にいたアイネが静かに口を開いた。
「さらに驚くべきことがあります」
全員の視線が向く。
アイネは真っ直ぐソラを見た。
「彼らは、ある人物を探していました」
皆が首を傾げる。
するとアイネはゆっくり指を向けた。
「その人物こそ――あなたです、ソラ」
教室中の視線が、一斉にソラへ集まった。
ソラ自身も目を見開く。
「……俺?」




