閃光
ロストが静かに立ち上がる。
場の視線が集まった。
「では、今回の件について報告いたします」
ロストは机に手を添え、落ち着いた口調で話し始める。
「時刻は本日午前十時頃。都市入り口付近にて膨大な魔力反応を確認しました」
ソラも真剣な表情で耳を傾ける。
「複数の騎士団員と共に現場へ向かったところ、低級魔族と思われる存在と遭遇。戦闘が発生しました」
ロストは一度区切る。
「敵は戦闘の混乱に乗じて都市内部へ侵入。しかし増援と共にこれを討伐。以上が今回の経緯です」
簡潔。
だが、それだけで事態の深刻さは十分伝わった。
ロストが席へ座る。
次に立ち上がったのはマナスだった。
「では、研究室側の調査結果を報告します」
眼鏡を軽く押し上げる。
「解析の結果、今回確認された魔族は低級魔族“クアシト”であると判明しました」
場の何人かが小さく頷く。
「使用属性は闇属性。戦闘記録から判断するに、使用可能な魔法は二種級程度が限界」
資料を見ながら続ける。
「タペスト基準に置き換えるなら、C級程度の脅威です」
ソラは内心で整理する。
(あの白い魔族がC級……)
そしてマナスは表情を少し曇らせた。
「ただし」
「本来魔界に存在するはずの魔族が、なぜ現世へ現れたのか。その原因は未だ判明していません」
静かな空気。
「現在も騎士団が周辺調査を継続していますが、有力な痕跡は発見されていない状況です」
そう締めくくり、マナスも席へ座った。
⸻
すると。
フィス国王がゆっくりとイリーナへ視線を向ける。
「光の精霊よ」
重厚な声。
「貴方からの助言をいただいてもよろしいでしょうか」
その瞬間。
ソラは少し驚いた。
(国王が……こんなに丁寧に)
相手がイリーナとはいえ、一国の王がここまで敬意を払う。
それだけ第五原初精霊という存在が特別なのだと理解した。
一方。
イリーナは。
もぐもぐ。
まだお菓子を食べていた。
「……んくっ」
飲み込む。
「えーっとね」
いつも通りだった。
まるで友達同士の会話みたいな軽さで話し始める。
「本来、魔界と現世を繋ぐ“ゲート”っていうのは、そんな簡単に開くものじゃないの」
イリーナが指を立てる。
「莫大な魔力。それと大量の生贄」
場の空気が少し重くなる。
「それを捧げて、やっと数日間だけ不安定なゲートを作れるって感じ」
ソラは眉をひそめる。
次元を繋ぐ。
それほど難しいことなのか。
「そもそも別次元を繋ぐなんて、普通ありえないからね」
イリーナは続ける。
「しかも生贄とか、人間側じゃまずやらないでしょ」
何人かの大人が苦い顔をする。
「つまり、現世側から開かれた可能性はかなり低い」
「だから今回の件は――魔界側から何か目的があって開かれたと考えるのが自然」
場が静まり返る。
だが。
イリーナはそこで。
「……って普通なら言うんだけど」
そう言って頬杖をついた。
「今回は違う」
全員の視線が集まる。
「ほぼ十割、原因はわかってる」
そして。
イリーナはあっさり言った。
「生の精霊の出現」
マナスが目を見開く。
ロストも驚いた顔をした。
「第五原初精霊は、この世界でも規格外の存在なの」
イリーナの声色が少し真面目になる。
「そんな存在が急に現れたら、その魔力波だけで空間が歪んでも不思議じゃない」
そして。
「実際、三百五十年前」
イリーナは自分を指差した。
「私が現世に出てきた時も、二日間だけ魔界とのゲートが開いた」
「……!」
場がざわつく。
「その時は人里離れた場所だったから被害はなかった」
「でも今回は違う」
イリーナは窓の外を見た。
「パークスの近くでゲートが開いた可能性が高い」
フィス王の表情が険しくなる。
「しかも、ゲートから出てくる魔族はランダム」
「弱いのもいれば、強いのもいる」
イリーナは少し目を細めた。
「もしかすると――」
その瞬間。
――ドォンッ!!!!
爆音。
城全体が揺れた。
「っ!?」
ソラの体が反応する。
同時に。
濃密すぎる魔力波。
空気が震える。
肌が粟立つ。
(なんだこの魔力……!)
ソラだけではない。
マナスも。
ロストも。
他の出席者たちも表情を変えていた。
だが。
イリーナ。
サリーャ。
ノマ。
フィス。
この四人だけは微動だにしていない。
ゆっくりと外を見る。
ソラも窓へ視線を向けた。
都市から少し離れた森。
そこから巨大な土煙が上がっていた。
そして。
次の瞬間。
フィス王が目を細める。
「――来るぞ」
直後。
紫色の閃光。
とてつもない速度。
一直線に城へ向かって飛来する。
「っ!?」
ソラの反応速度を超えていた。
だが。
サリーャが立ち上がる。
「《水晶防壁》」
淡く透き通る魔法陣。
幾重にも重なる結界。
紫の光線が激突――
すると思われた瞬間。
結界が光を“吸収”した。
「……なっ」
ソラの目が見開かれる。
防いだんじゃない。
消した。
あの威力を。
この距離から放たれた高密度魔力砲撃を。
完全に。
(なんだ、今の結界……)
知らない術式。
知らない魔法構成。
ソラは驚愕する。
そして同時に理解した。
(この国……化け物ばっかりか……)




