出席
夜の時刻は七時。
ソラとイリーナは宿を後にした。
目的地は――王城。
八時から行われる緊急討論会への出席である。
出発前、ハバープルには念を押されていた。
『おそらく国の上層部が集まる。粗相だけはするなよ』
珍しく真面目な顔だった。
ソラは少しだけ緊張しながら歩く。
一方で。
「ねえソラ、お腹すいた」
「さっき食べただろ」
「夜は別腹」
イリーナはいつも通りだった。
⸻
やがて。
パークス王城へ到着する。
都市中央にそびえる巨大な白亜の城。
水の都らしく、周囲には水路が巡らされ、月明かりを反射して幻想的に輝いている。
門兵に招待状を見せる。
「確認しました。お通りください」
重厚な門が開かれた。
ソラたちは中へ進む。
向かったのは、城本体の左側に建てられた大きな別棟。
城に次ぐ規模を持つ建物だった。
中へ入る。
すると――
「……人、多いな」
ソラが小さく呟く。
中には大量の貴族、騎士、使用人たちがいた。
兵士が説明する。
「本日は第四王女殿下の誕生舞踏会が開催されております」
「舞踏会……」
ソラは少しだけ横を見る。
廊下の途中、大きく開かれた扉の奥。
そこでは華やかなドレスと礼服に包まれた人々が、優雅に踊り、談笑していた。
シャンデリアの光。
流れる音楽。
豪華な料理。
まるで別世界。
ソラたちが通ると、何人かの視線がこちらへ向いた。
だがソラは気にせず歩く。
イリーナは逆にめちゃくちゃ見ていた。
「すごっ、きらきらしてる」
「静かにしろ」
「えー」
⸻
廊下の最奥。
重厚な扉の前で兵士が立ち止まる。
コンコン、とノック。
そして扉が開かれた。
「ソラ・オクタス様、イリーナ・アシュベル様がご到着されました」
中へ入る。
そこには長い机。
左右に並べられた椅子。
既に何人もの大人たちが座っていた。
空席はまだある。
左側に五席。
右側に五席。
そして一番奥、中央に一席。
明らかに特別な席だった。
ソラたちは左端の二席へ案内される。
隣にはロスト。
向かいにはマナス。
他の人物には見覚えがない。
ソラは自然と肩に力が入る。
そんな様子を見て、ロストが小さく笑った。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「……でも」
「ここにいる人たちは皆、君がまだ子供だということを理解してる」
優しい声だった。
「だから安心していい」
ソラは少しだけ息を吐く。
「……ありがとうございます」
⸻
その時。
ギィ――
扉が開く。
入ってきたのは、一人の女性。
鮮やかな赤髪。
豪華なドレス。
気品に満ちた立ち姿。
兵士が告げる。
「第一王女、サリーャ・パークス様がご到着されました」
(第一王女……!)
ソラは思わず目を見開く。
流れてくる魔力。
それが異常だった。
ただ強いだけじゃない。
綺麗だった。
無駄がなく、洗練され、極限まで研ぎ澄まされている。
ソラは理解する。
(……実力者だ)
イリーナも感心したように目を細めた。
「すごく綺麗な魔力ね」
サリーャは静かに席へ座る。
その直後。
「第一王子、ノマ・パークス様がご到着されました」
再び声。
入ってきたのは黒いローブ姿の男性。
胸元には大量の勲章。
だが。
(……え?)
ソラの目がわずかに揺れる。
感じない。
魔力が。
一切。
(そんなこと、ありえるのか……?)
ソラは初めて見る存在に驚愕する。
魔力がない。
それはつまり――気配すら薄い。
目で見ていなければ、そこに存在していることすら認識が遅れるほどだった。
(なんだ、この人……)
ノマは静かに席へ腰掛ける。
空気が少し変わった。
⸻
そして。
再び扉が開く。
その瞬間。
座っていた全員が立ち上がった。
「!?」
ソラとイリーナも慌てて立つ。
重い足音。
ゆっくりと入ってきたのは――
白い髭。
大柄な体格。
圧倒的な存在感。
その姿を見た瞬間、ソラは理解した。
(この人が……)
――パークス国王。
国王は中央の席へ歩き、静かに腰を下ろす。
全員が再び席へ着いた。
そして。
国王は真っ直ぐ前を見据える。
「皆の者、急な討論会への参加、感謝する」
低く、重厚な声。
「私はパークス国王――フィス・パークスだ」
空気が張り詰める。
「これより」
一瞬、間。
「城門にて発見された“魔族”についての討論を行う」
その言葉に。
場の空気が、一気に重くなった。
ソラも真剣な顔で前を向く。
隣では。
イリーナが机に置かれていたお菓子をむしゃむしゃ食べていた。
「……おい」
「これ美味しい」
「今そういう空気じゃないだろ」
「緊張するとお腹空くタイプなの」
全然緊張してなさそうだった。




