表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
深果都市フリッス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/72

竜断

マナスは、息を殺したまま思考を巡らせていた。


前方には、SS級タペスト――アルファザード。


人里に現れるはずのない、隔絶された竜種。


真正面から戦えば、まず無事では済まない。


だが、戻るという選択肢もない。


この洞窟は一本道に近い構造だった。


引き返しても合流できる保証はない。


別ルートに落ちたソラたちと合流できなければ、出口すら見えない。


ここで立ち止まれば――詰みだ。


「……」


マナスは歯を食いしばる。


自分一人なら、まだいい。


だが、ここにいるのは学生だ。


まだ成長途中の子供たち。


彼らを、こんな場所で危険に晒すわけにはいかない。


そう考え、判断が鈍る。


その時だった。


「先に進みましょう」


静かな声が、空気を裂いた。


マナスが目を見開く。


言ったのは――レアだった。


「……何?」


思わず聞き返す。


イナミも、ドミニクも目を見張る。


「いや待て、先って……」


イナミが引きつった声を出す。


「先にいるの、アルファザードだぞ?」


ドミニクも珍しく強く言った。


「隠れて進めるような空間じゃない」


「見つかれば終わりだ」


だが、レアは一切表情を変えなかった。


そのまま、静かに言う。


「なら――戦う」


空気が止まる。


マナスの目が、わずかに揺れる。


レアはミミを胸元に抱き寄せた。


小さな体を、ぎゅっと。


その腕は細い。


まだ、幼さすら残る。


それでも、視線は一切揺れていなかった。


「戻っても何もない」


「なら、進むしかありません」


淡々と。


だが、その言葉には、確かな決意があった。


イナミが息を呑む。


ドミニクも、何も言えない。


今まで見たことのないレアの顔だった。


無感情ではない。


無関心でもない。


恐れていないわけじゃない。


それでも、進むと決めた顔だった。


マナスは、その手を見る。


レアの指先は――小さく震えていた。


怖くないわけがない。


当たり前だ。


相手はSS級。


一歩間違えば死ぬ。


それでも、この子は前を向いている。


「……っ」


マナスは目を伏せ、短く息を吐いた。


(子供が、ここまで腹を括っている)


なら。


大人が、退くわけにはいかない。


マナスは顔を上げた。


「……分かりました」


低く言う。


「やりましょう」


イナミが目を見開く。


ドミニクも息を止める。


マナスは続けた。


「大人の意地を見せます」


その一言で、空気が変わった。


イナミが口元を吊り上げる。


「……はっ」


短く笑う。


「そうこなくっちゃな」


ドミニクも静かに頷いた。


「やるしかないなら、やる」


四人はその場で円を組む。


小声で、素早く作戦を立てる。


マナスが低く言った。


「アルファザードは氷属性の竜種です」


「弱点は炎」


短く、的確に。


「レアさんの“結界拡張”で火力を底上げします」


レアが頷く。


「可能です」


「私が支援します」


「イナミ君、ドミニク君は前後から火属性一種級を同時展開」


「私は二種級で挟みます」


イナミが眉をひそめる。


「火属性、ぶっつけだぞ」


「やるしかないでしょう」


ドミニクが返す。


マナスは静かに言う。


「私もアルファザードは初遭遇です」


「成功する保証はありません」


「ですが――」


視線を前へ向ける。


「やるしかない」


全員が頷いた。


覚悟は決まった。



先に動いたのは、マナスだった。


「行きます」


小さく告げると同時に、大空洞へ飛び出す。


足音が、静寂を裂く。


アルファザードの瞳が開く。


青い竜眼が、侵入者を捉えた。


次の瞬間――


「グルルルルル……!」


低く、地を震わせる唸り。


巨大な身体が起き上がる。


それだけで空気が重くなる。


アルファザードが、マナスへ向けて巨体を動かした。


「――来い!」


マナスが走る。


アルファザードが追う。


巨体とは思えない速度。


地面が揺れる。


その背後へ――


レアが立った。


「――展開」


足元に魔法陣。


巨大な円陣が一気に広がる。


「固有魔術式」


「結界拡張」


空間が光に包まれる。


大空洞全体に、緻密な魔法陣が展開された。


身体が軽くなる。


魔力が増幅される。


その後ろに――


イナミ。


ドミニク。


並び立つ。


「いくぞ!」


「合わせろ!」


二人が同時に手を掲げる。


火属性一種級魔法、展開。


赤熱する魔法陣が浮かび上がる。


アルファザードが気づき、振り返る。


その瞬間。


マナスもまた、足を止めた。


「二種級火属性――!」


後方に展開。


三方向。


前後から、火炎の魔法陣が竜を挟み込む。


「撃て!!」


三人同時。


轟音。


火炎が、奔流となって放たれた。


アルファザードを挟み込むように直撃する。


爆ぜる。


炎が、空洞を染める。


熱風が吹き荒れる。


青い鱗を、赤熱が包み込む。


轟音。


衝撃。


爆煙。


竜の姿が、煙に呑まれる。


「……やったか」


マナスが息を呑む。


だが――


煙の奥で。


何かが動いた。


「――っ」


次の瞬間。


煙を突き破って、巨影が飛び出した。


アルファザード。


生きていた。


全身の鱗は焼け焦げ、所々剥がれ落ちている。


血が流れていた。


だが、その代償と引き換えに――


次の一撃を通すため、突っ込んできた。


狙いは、レア。


「――!」


レアの目が見開く。


反応が、一瞬遅れる。


アルファザードの爪が振り下ろされる。


あと数十センチ。


その鋭爪が、レアの顔を裂こうとした――


瞬間。


爆音。


上空から、緑の炎が落ちた。



斜めに閃いた緑炎が、アルファザードの腕を斬り落とす。


「――ギャアアアアアアッ!!」


絶叫。


巨腕が宙を舞う。


血飛沫が散る。


全員が目を見開く。


アルファザードの巨体がよろめく。


その上。


空中から、ひらりと降り立つ影。


緑色の炎を纏う剣。


その刀身を片手に、静かに着地する。


ソラだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ