表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
深果都市フリッス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/72

分断

洞窟の入口は、想像以上に不安定だった。


ソラが先頭で足を踏み入れ、その後ろにアイラ、イリーナ、イナミ、レア、マナス、そして最後尾にドミニクが続く。


ひんやりとした空気。


湿った土の匂い。


足元は岩肌と根が入り混じり、想像以上に滑りやすい。


「足元気をつけろよー」


イナミが軽く言った、その直後だった。


「――っ」


最後尾から、短い声。


ドミニクの足が滑った。


「うおっ!?」


体勢が崩れる。


咄嗟に前のイナミの服を掴む。


「うわっ!?」


イナミが巻き込まれる。


そのまま前方へ。


「ちょ、待っ――」


「きゃっ!?」


「……っ」


一人、また一人とバランスを崩し。


次の瞬間――


全員まとめて、足場ごと崩れ落ちた。


「うわあああああああっ!!」


暗闇。


浮遊感。


視界が一気に反転する。


土と石が一緒に落ちていく。


何が上か下かも分からない。


そして――


ドサッ!!


鈍い衝撃。


背中に痛みが走る。


「……っ、ぐ」


ソラは顔をしかめながら身体を起こした。


土埃が舞っている。


頭上からぱらぱらと砂が落ちてきた。


「……全員、無事か」


声を上げる。


返ってきたのは――


「いたた……」


アイラ。


「もー!最悪!」


イリーナ。


その二人の声だけだった。


ソラは眉をひそめる。


「……イナミ?」


返事がない。


「ドミニク」


沈黙。


「レア」


静かだ。


「マナスさん!」


やはり返答はない。


ソラはすぐに周囲を見回した。


暗い。


だが、三人以外の気配がない。


「……分断されたか」


小さく呟く。


上を見る。


頭上遥か高く、ぽっかりと穴が見えた。


あそこから落ちてきたのだろう。


だが――


「高すぎるな」


到底届く距離じゃない。


アイラが不安そうに言う。


「ど、どうするの……?」


ソラは短く息を吐いた。


「進むしかない」


「別ルートで合流できる可能性はある」


イリーナも腕を組みながら頷く。


「まあ、戻れないなら行くしかないわね」


そうして三人は、洞窟の奥へと進み始めた。



洞窟の中は静かだった。


水滴の音だけが、ぽたり、ぽたりと響く。


壁には微かに青白く光る苔が張り付いており、最低限の視界だけは確保できる。


「なんか……不気味ね」


アイラが小声で言う。


「静かすぎる……」


ソラも同感だった。


静かすぎる。


生き物の気配が、妙に薄い。


だが――


「……待て」


ソラが足を止めた。


前方。


微かに声がする。


ざわざわと。


複数。


アイラが顔を上げる。


「え、誰かいる?」


少し表情が明るくなる。


「みんなかも!」


そのまま駆け出そうとする。


「待――」


ソラが止めるより早く、アイラは走り出した。


声の先。


暗闇の向こう。


ぼんやりと光が見える。


「いた――!」


アイラの声が止まった。


次の瞬間。


「げっ」


短い悲鳴。


ソラとイリーナも駆ける。


視界が開ける。


そこにいたのは――


緑色の肌。


小柄な体。


歪んだ顔。


黄色い牙。


ゴブリンだった。


「ギィッ!!」


複数。


十はいる。


洞窟の奥に群れていた。


アイラは腰を抜かし、その場にへたり込む。


「ちょ、無理無理無理!!」


ゴブリンたちが一斉に叫ぶ。


「ギャアアアア!!」


突撃。


ソラが前へ出る。


だが、その前に――


「遅い!」


イリーナが一歩前へ出た。


指先を軽く上げる。


「光よ、穿て」


次の瞬間。


一直線の光が放たれた。


眩い閃光。


光線が先頭のゴブリンの胸を正確に撃ち抜く。


「ギャッ――」


一撃。


ゴブリンが吹き飛び、その場に倒れる。


ソラが目を細める。


(光魔法……)


イリーナは鼻を鳴らす。


「私は光の精霊よ?」


「これくらい当然」


他のゴブリンが一瞬怯む。


その一瞬を、ソラは逃さなかった。


「――雷撃」


掌を前へ。


二種級雷魔法。


雷光が走る。


バチィッ!!


洞窟内を青白い雷が駆け抜ける。


「ギャアアアッ!!」


二体。


三体。


まとめて焼き倒す。


残りのゴブリンたちが一斉に怯んだ。


「ギ、ギィ……!」


後ずさる。


ソラは冷たく言う。


「逃がすな」


追撃。


氷弾、雷、光。


連続で叩き込む。


ゴブリンたちは次々に倒れ――


残った数体は悲鳴を上げながら奥へ逃げていった。


静寂。


焦げた臭いが漂う。


アイラがへたり込んだまま息を吐く。


「し、死ぬかと思った……」


イリーナは肩をすくめる。


「これで分かったでしょ」


「ここ、普通に魔物いるわよ」


ソラは周囲を見回した。


「……ああ」


短く頷く。


「しかもゴブリン程度でこれだ」


「この先、もっと強いのがいてもおかしくない」


アイラが顔を青くする。


「やだなあ……」


ソラは前を見た。


「細心の注意で進むぞ」



その頃。


別ルートへ落ちたイナミたちもまた、洞窟を進んでいた。


イナミ。


ドミニク。


レア。


マナス。


こちらの道は妙に静かだった。


魔物の気配はない。


むしろ静かすぎるほどに。


「逆に怖いんだけど……」


イナミが小声で呟く。


マナスが先頭を歩く。


慎重に。


一歩ずつ。


足音を殺しながら進む。


「不用意に声を出さないでください」


低い声。


その表情は真剣そのものだった。


しばらく進むと。


前方が開けた。


大空洞。


「……止まってください」


マナスが手を上げる。


一人で壁際へ寄る。


足音を消し、慎重に中を覗き込む。


その瞬間。


マナスの背筋が、凍りついた。


「……っ」


息が止まる。


目が見開く。


全身が硬直する。


その場に、張り付いたように動かない。


後ろの三人が息を呑む。


「……おい」


イナミが小声で呼ぶ。


マナスは、ゆっくりと顔だけを戻した。


その表情は、青ざめていた。


明らかに異常。


レアが静かに問う。


「……何がいましたか」


マナスは、乾いた唇を動かす。


「大空洞です」


掠れた声。


「その中央に――」


喉が鳴る。


「アルファザードがいます」


沈黙。


「……は?」


イナミの声が引きつる。


マナスの額には冷や汗が浮かんでいた。


「SS級タペスト」


「竜種下位――アルファザード」


青い鱗。


巨大な体躯。


鋭い爪。


そして、ただそこに伏しているだけで分かる圧倒的な格。


人里離れた地にのみ棲む、凶暴な竜種。


本来なら――


絶対に遭遇してはいけない存在だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ