霊逅
滝の近くにある店。
木と水を基調にした開放的な造りで、外の水音がそのままBGMになっていた。
テーブルには料理が並ぶ。
魚料理。
透き通ったスープ。
そして、パークス特有の“水”を使った料理の数々。
「うまっ!!」
イナミが即座に声を上げる。
「なにこれ、魚やばくね!?」
「落ち着け」
ドミニクが言いながらも、しっかり食べている。
アイラも楽しそうに笑っていた。
「ほんとに美味しいね!」
教師陣も含め、場は賑やかだった。
笑い声。
食器の音。
水の流れる音。
すべてが混ざり合い、心地よい空間を作っている。
その中で――
ソラは、少しだけ席を立った。
「ちょっと外出てくる」
軽く一言だけ告げる。
誰も特に気にしない。
ソラは店の外へ出た。
⸻
夜の空気。
昼とは違い、少し冷たい。
滝の音が、より強く響いている。
用を済ませ、手を洗う。
その時だった。
「……」
違和感。
わずかな――魔力の揺らぎ。
ピタリと動きが止まる。
(……今のは)
顔を上げる。
視線の先。
――滝。
水の向こう側。
(……気のせいじゃないな)
確実に、何かある。
ソラは、ゆっくりと歩き出した。
まるで。
引き寄せられるように。
⸻
滝の横。
細い岩の縁。
足場は狭い。
一歩間違えれば落ちる。
だが、迷いはなかった。
そのまま進む。
水しぶきが顔に当たる。
轟音の中へ。
そして――
滝の裏側へと入った。
一瞬で、音が変わる。
外の轟音が、膜を隔てたように鈍くなる。
そこにあったのは――
洞窟。
奥へと続く、暗い通路。
先は見えない。
完全な闇。
(……こんな場所が)
ソラは眉をひそめる。
普通なら気づかない。
いや、そもそも入ろうとしない場所だ。
(戻ってロストに聞くか……)
そう思い、踵を返そうとした。
だが――
「……っ」
再び。
魔力の揺らぎ。
今度は、さっきより強い。
包み込むように。
誘うように。
(……なんだこれ)
足が、止まらない。
いや。
止められない。
気づけば――
ソラは洞窟の奥へと歩き出していた。
⸻
一分ほど進む。
徐々に、景色が変わる。
暗闇の中に、光が点在していた。
青く輝く鉱石。
壁や地面に埋まっている。
淡い光が、道を照らす。
さらに。
見たことのない魔植物。
ゆらゆらと光る葉。
小さく動く、奇妙な魔動物。
(……なんだここ)
異質だった。
完全に、外の世界とは切り離された空間。
響くのは――
自分の足音だけ。
コツ、コツ、と。
やけに大きく聞こえる。
⸻
さらに進む。
五分ほど歩いた頃。
空間が、開けた。
「……」
そこにあったのは――
神殿のような建造物。
白い石で作られている。
だが、崩れかけていた。
柱は傾き。
壁にはヒビが入り。
至るところにツタや苔が絡みついている。
長い年月を感じさせる姿。
そして――
魔力。
さっきまでとは比べ物にならないほど、濃い。
「……ここか」
ソラはゆっくりと足を踏み入れる。
神殿の中。
丸い光が、浮かんでいた。
小さな光の粒。
ふわふわと漂っている。
幻想的な光景。
その奥へ進む。
すると――
音が聞こえた。
「……?」
カン、カン、と。
甲高い音。
何かを打つような音。
ソラは慎重に近づく。
そして。
光の中心が、見えた。
人影。
(……人?)
その瞬間。
その“光”が、動いた。
振り向く。
目が合う。
沈黙。
数秒。
完全に止まる時間。
そして――
「「うわぁ!!」」
同時に叫んだ。
ビクッと互いに後ずさる。
「な、なに!?誰!?」
光の少女が声を上げる。
ソラも驚いたまま固まる。
その姿。
少女だった。
ソラと同じくらいの年頃。
だが――
背中から、小さな羽が生えている。
淡く光る羽。
耳には装飾。
そして、身体全体がほんのりと輝いている。
周囲には、さっきの光の粒が漂っていた。
少女は胸に手を当てる。
「び、びっくりしたぁ……!」
「寿命縮んだわ!」
はぁ、と大げさに息を吐く。
ソラはようやく口を開いた。
「……お前、何者だ」
警戒しつつ問う。
少女は一度咳払いをする。
「コホン」
そして、胸を張る。
「よくぞ聞いてくれたわね」
ドヤ顔。
「我が名はアシュベル・イリーナ!」
ビシッと指を立てる。
「偉大なる――上位精霊よ!」
ドーン、みたいな間。
沈黙。
ソラは、真顔で言った。
「……いや、軽くね?」
「は?」
ピキッ。
「そのテンションで“偉大なる”って言われても説得力ないんだが」
「ちょっと!?失礼じゃない!?」
アシュベルが一歩詰め寄る。
「めちゃくちゃすごいのよ私!?」
「どこがだよ」
「全部よ!!」
ぷんすか怒る。
腕を組んでそっぽを向く。
「……もういいし」
完全に拗ねた。
ソラは小さくため息をつく。
(なんなんだこいつ……)
だが、その時。
アシュベルがチラッとこちらを見る。
「……でも」
少し間。
「人間がここに来た以上」
真面目な声になる。
「本来は“試練”を与えなきゃいけないのよ」
ソラの目が細まる。
「試練?」
アシュベルはふん、と鼻を鳴らす。
まだ少し拗ねたまま。
「本当はね、めんど……じゃなくて」
言い直す。
「本来なら厳格にやるものなんだけど」
腕を組み直す。
そして――
ソラを指さす。
「今回は特別に!」
なぜかドヤ顔。
「拗ねてるから本望じゃないけど、教えてあげるわ!」
(理由雑すぎるだろ……)
ソラは内心でツッコむ。




