静滝
街の中心部から少し外れた場所。
石畳の道を進み、緩やかな坂を上る。
水路の音が、次第に大きくなっていく。
最初は、ただの流れの音だった。
それが――
次第に“轟音”へと変わっていく。
「……なんか、音やばくね?」
イナミが顔をしかめる。
空気が震えているようだった。
地面から、微かな振動すら伝わってくる。
湿気も強くなる。
肌に触れる空気が、ひんやりと重い。
そして――
視界が開けた。
「……っ」
思わず、言葉が止まる。
そこにあったのは――
巨大な滝だった。
高い。
とにかく高い。
断崖の上から、膨大な水量が一気に流れ落ちている。
白い水煙が、空へと立ち上る。
落下する水が岩にぶつかり、爆ぜる。
轟音。
会話がかき消されるほどの音。
「すっげぇ……!!」
イナミが叫ぶ。
だが、その声すら飲み込まれる。
滝壺から立ち上る霧が、周囲一帯を包み込んでいた。
細かな水滴が、肌に当たる。
冷たい。
だが、不快ではない。
むしろ――
心地いい。
「……これが」
ドミニクが目を細める。
「パークスの象徴、か」
滝の周囲には、いくつもの足場や橋が設置されている。
観光用だろう。
だが、そのどれもが、水の流れと調和するように作られていた。
人工物でありながら、自然に溶け込んでいる。
ソラはゆっくりと前へ歩く。
滝の近くへ。
轟音が、さらに強くなる。
視界が白く霞む。
水しぶきが、顔に当たる。
(……すごいな)
ただの“綺麗”じゃない。
圧倒的な“力”。
自然そのものの存在感。
それが、真正面から叩きつけられている。
その時。
「……綺麗」
小さな声。
振り向く。
レアだった。
ミミを抱えたまま、滝を見上げている。
その目は、わずかに開かれていた。
無表情ではない。
はっきりと、景色に見入っている。
ミミも「ワフ……」と小さく鳴いた。
水しぶきが気になるのか、少し顔を振る。
だが、そのままレアの腕の中でじっとしていた。
イナミはというと――
「うおおお!!」
橋の上まで走っていた。
「これ絶対落ちたら死ぬやつだろ!」
テンションが完全に振り切れている。
「おい、落ちるなよ」
ドミニクが呆れながら言う。
その横で、アイラも笑っていた。
「でもすごいね……!」
両手を広げて、水しぶきを受けている。
その光景を見ながら。
ソラは、もう一度滝へ目を向けた。
(……レオン)
ふと、思い出す。
ここが、あいつの故郷。
この景色を、見て育ったのか。
そう考えると――
少しだけ、実感が湧く。
(……来たんだな、本当に)
その時。
風が吹いた。
滝からの霧が、ふわりと流れる。
一瞬だけ。
視界が白く覆われる。
そして――
晴れた。
その瞬間。
光が差し込む。
水しぶきに反射して――
虹が、かかった。
「……!」
アイラが声を上げる。
「見て!」
空中に浮かぶ、淡い七色。
滝と、水煙と、光。
すべてが重なって生まれた一瞬の景色。
イナミも、思わず黙る。
ドミニクも目を細める。
レアも、静かに見つめていた。
ミミは嬉しそうに「ワフッ」と鳴く。
ソラはその光景を、しっかりと目に焼き付ける。
(……綺麗だな)
素直に、そう思った。
だが同時に。
胸の奥で、何かがざわつく。
この街。
この景色。
このタイミング。
すべてが――
ただの“観光”では終わらない気がしていた。
その時、滝壺の奥がきらりと光ったことに誰も気づかなかった




