到着
それからの五日間は、あっという間だった。
長いはずの道のりは、不思議と短く感じられた。
昼は馬車に揺られながら、草原や森、時には小さな集落を横目に進む。
夜は野営。
焚き火を囲み、簡単な食事をとり、他愛もない会話を交わす。
そんな日々が、繰り返されていった。
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二日目。
森を抜ける道中、小規模なタペストの群れと遭遇した。
数は多かったが、脅威ではない。
ソラたちは連携を取り、危なげなく対処する。
レアの結界は、その時も静かに力を発揮していた。
イナミはその中で動き回り、ドミニクは確実に仕留める。
戦いは、もはや“慣れ”始めていた。
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三日目。
天候が崩れた。
激しい雨が降り、道はぬかるみ、馬車の進行も遅れる。
その日は予定を変え、簡易的な雨避けを作っての野営となった。
火も起こしにくく、冷たい空気が身体にまとわりつく。
だが。
そんな中でも、ミミは元気だった。
水たまりを跳ね回り、イナミに怒られ、レアに拭かれる。
そのやり取りに、わずかな笑いが生まれていた。
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四日目。
空は一転して快晴。
視界が大きく開け、高台に出た。
そこで初めて――
遠くに、“それ”が見えた。
「……あれって」
イナミが目を細める。
地平線の先。
きらきらと光る何か。
「……パークス、か?」
ドミニクが呟く。
だが、まだ遠い。
その輪郭はぼやけていた。
それでも。
確かに、目的地は近づいていた。
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五日目。
道は整備され、他の馬車や人の姿も増えてきた。
商人。
旅人。
観光客らしき人々。
空気が、明らかに変わっていた。
「都会って感じしてきたな」
イナミが周囲を見渡す。
「まだ外縁だろうけどな」
ドミニクが冷静に返す。
ソラは無言で前を見ていた。
(……近いな)
胸の奥が、わずかにざわつく。
レオンの故郷。
水城都市パークス。
過去と、何かが繋がる場所。
そして――
レアもまた、静かに前を見ていた。
その表情は変わらない。
だが、何かを確かめるような目だった。
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そして――六日目。
馬車は、ゆっくりと速度を落とした。
「……着くぞ」
御者の声。
その一言で、空気が変わる。
全員が外へ目を向ける。
次の瞬間。
視界が開けた。
そこに広がっていたのは――
水。
どこまでも続く水路。
光を反射して輝く水面。
その上に築かれた街。
橋が幾重にも重なり、建物が水と共存している。
まるで、水の上に浮かんでいるかのような都市。
「……すげぇ」
イナミが、ぽつりと呟く。
言葉を失っていた。
ドミニクも、わずかに目を見開く。
「これが……パークス」
ソラは、その景色を静かに見つめる。
風が、水の匂いを運んでくる。
きらめく光。
流れる水音。
そして――
どこか懐かしい空気。
(……ここが)
水城都市パークス。
ついに、辿り着いた場所。
その時。
隣で、小さく声がした。
「……綺麗」
レアだった。
ほんのわずか。
感情が滲んだ声。
ミミも「ワフッ」と嬉しそうに鳴く。
馬車は、そのまま都市の中へと進んでいく。
新たな舞台へ。
物語は、さらに深く――動き始める。




