第219話 ……ユーリー先輩不器用だなー
翌日もやっぱりルークが目覚めた頃にはブレアがおらず、仕方なく早く登校することになった。
一応3年のフロアへブレアを探しに行ったのだが当然見つからない。
まだルークの話は終わっていなかったし、もっと話したいことが増えてしまったのだが……会えないのではどうしようもない。
リアム曰く、リアムとは普通に会っているらしい。最初はリアムのことで悩んでいるように見えたが、何故ルークだけ避けるのか謎である。
あともう1つ、リアムにルークの味方をする気はないのだろうなということがわかった。
ブレアのメンタルケアはするが説得はしてくれないらしい。シスコンなので頼りにならない。
「ルークくん……またオレのこと疑ってたよね?やめて?」
ブレアを見つけられないまま登校したルークに、挨拶もそこそこに苦情がきた。
「え、ごめん。」
恐らく昨日クロエにヘンリーとブレアがいい雰囲気かもしれない、と言ったせいだろう。
「ロイドさんに変なこと言わないでって。オレが友達の恋人取るようなヤツに見える?」
どうせそんなことだろうと思ったけど、とヘンリーは顔を顰める。
「ヘンリーは見えないけど……先輩相当ヘンリーのこと気に入ってるっぽかったしなぁと……思っ、て……。」
「はぁ?ルークくんって馬鹿だよね……。」
段々自信のなくなってきたルークが語尾を濁すと、ヘンリーは馬鹿にしたように笑う。酷い。
至って真剣に言っているのに、笑い飛ばされると困る。
「何でユーリー先輩がオレに興味持ってんのかは知らないけど、大したことないに決まってんじゃん。どーせ兄貴よりチョロそうだから変わった魔法教えてくれるかなーとか思ってんだよ。実際は兄貴の方がチョロいけど。」
「ヘンリーくん、お兄さんと同じ魔法使えるんだっけ?」
「そーソレがちょっと変わってるっぽいんだよね。」
ヘンリーは心底面倒そうに、なんてことないように言う。
友人の相談に乗ってあげたい気持ちはあるのだが、ルークのことになるとギリギリ面倒が勝つらしい。
「だからそれだけだよ。ユーリー先輩結構ソーユーとこあるっぽいけど、ルークくんくらい入れ込んでる相手はいないじゃん。オレ大分前も1回ダル絡みされたし。」
「ダル絡み言うな、世界1美人な先輩に話しかけてもらえてるんだから有難がれよ。」
「ルークくんもダルい……。」
真剣な顔で言われたヘンリーは項垂れるように肩を落とした。
このカップル、2人揃って面倒臭い。
「それって前言ってた……校外学習の時だよね?それから何もなかったのに今って、間空きすぎじゃない?」
クロエはあの場にいなかったが、ヘンリーから話は聞いていたらしい。
言う通りもう4か月ほど空いていて、それの延長線としては急すぎる。
それにルークにはあの時よりもべったりに思えるのだが――。
「それはそりゃあ……ユーリー先輩不器用だなー。」
「どういうことだ!?」
「ルークくん鈍感すぎだし。」
全くピンときていないルークだが、説明するかどうか迷う。
言ってしまうのは簡単だが、ブレアが怒る予感しかしない。
「まー細かいことはいいじゃん。ユーリー先輩はルークくんのこと大好きなんだろーなって話。」
「……そう!そうなんだよ!」
ヘンリーが適当に切り上げようとすると、ルークが大きな声で肯定してくる。
急にテンションがあがった。いつもなら「俺は先輩のこと大好きだけど先輩がそうとは限らない。」とかいいそうなのに。
「俺が寝ぼけてるだけだって思うかもしれないんだけど、多分、もしかすると……先輩、俺のことめっちゃ好きみたいなんだ。」
「「……ん?」」
衝撃の事実!とでも言いたそうなルークに、ヘンリーもクロエも頭が追いついていない。
「びっくりするよな、わかる、超天才美少女イケメンな先輩が俺なんかのこと好きなわけないってのはわかる。けど先輩本当に俺のこと好きっぽくて……やばい、ニヤける。」
勝手に上がる口角をさげようと努力しているルークは完全に挙動不審である。
ヘンリーもクロエもなんと言えばいいかわからず黙っているが、2人とも考えていることは同じだろう。
――今更気づいたのか。だ。
「……ルークくん、昨日はあんなに自信なさげだったのに……どうしたの?」
昨日はあんなにヘンリーのことを疑っていたのに、驚くべき変化である。
『好きっぽい』と言いつつほぼ確定らしき口ぶりだ。
今までブレアがどう努力してもそう思わせられなかったというのに。
「先輩の口から直接聞いたんだよ、『好きだよ』って!」
「それ今までもあったくない?」
「あったけど!今まで以上にこう……ぐっとくる感じの好きだったというか、打算とかない本心のやつだって感じの好きだったんだよ。」
何やら違いを熱弁しているルークだが、そんなこと以前も何度かあったのではないだろうか。
この間だって本心が口に出てしまう魔法だかで散々好意を口に出していた。その後エリカを口説こうとして台無しにしていたが。
「先輩って優しすぎるから、先輩がしてくれる恋人っぽいことって全部“俺が喜びそうだからやってる”だろ?多分。」
「うん、優しいかはともかくそう。」
それは優しいのではなくルークの反応を見て楽しんでいるだけだと思う。
だがブレアが相手を見て言葉を選んでいるのは事実だろう。ルークを上手く扱っている。
「先輩が俺の聞いてないところで言う好きってさ……何かよくないか!?」
共感を求められても困る。2人からすればそんなこと知らないし、その“何か”の正体もわからない。
ルークの心に響く言葉だったのは確からしいが。
「よくわからないけど、ユーリー先輩と仲直りできたってことだよね?おめでとう。」
「いやそれはしてない。」
安心したように言ったクロエの表情がまた曇る。
ブレアがルークに好きと言い、ルークはそれを受け入れて喜んでいる。完全に問題は解決したように見えるのだが、まだ足りないのだろうか。
「先輩が俺のこと好きだからこそ――何で振られたかわからないんだよ。」
「あーね。だからちゃんと話聞いた方がいいって言ったのに……。」
至って真剣に悩んでいるルークに、ヘンリーは呆れたように眉を寄せる。
確かに言われた。――が、何故そんなことを言うのだろう。
「ヘンリー、もしかして俺が振られた理由知ってる?」
「大体想像はつい――」
ルークがずいと迫って来たため、圧に押されたヘンリーの言葉が止まる。怖い。
怖い顔をしているなーと思えば、ルークはヘンリーの間近で両手を合わせた。
「――頼む、教えてほしい……!」
「いや……それは駄目でしょ。」
それくらい自分で解決できなければ、この先どうしても駄目だと思う。




