第217話 まーいつか1回こうなるとは思ってたぜ
改めて思ったのだが、ルークにとってヘンリーは凄く大事な友達である。ブレアを覗くと失いたくない関係性第1位だと思う。
そもそもヘンリーくらいしかふざけ合える友達がいないし、ヘンリーが一蹴してくれないとずるずるネガティブになっていくことができないとわかった。
しかしルークは『仲良しな人同士が結ばれたら嬉しい!』なんと言えるような性格の良さは持ち合わせておらず、ブレアとヘンリーが付き合うとなると嫉妬で狂う前に縁を切るしかない。
「……というわけで最悪の状況が俺の妄想で進む前に一度冷静になりたくてですね。」
「開口一番に『というわけで』じゃねぇよ。お前はどんな状況を想定してんの?」
「その調子ですアーロン先輩!」
ヘンリーが頼れないとなると、このネガティブループを脱出するには――アーロンを頼るしかない。
放課後すぐに3-S教室に行ってもやっぱりブレアには会えなかったが、相談できそうな相手が見つかってよかった。
「もっとキツいこと言ってくださいっ!」
「きしょ。可哀想になお前、ユーリーに性癖歪まされるだけ歪まされて振られるとか……。」
「何で俺が振られたの知ってるんですか!?」
ただツッコんでほしかっただけなのに憐れむような目で見られた。
しかもルークが振られたことを知っているとは、ブレアが話したのだろうか。
「ユーリーもだいぶ変だったかんなー、『彼氏イジんのほどほどにしといてやれよ』つったら『僕そういうのいないよ』とか言い出して。」
あまりにもサラッというので聞き逃しそうになった。
結局問い詰めても何があったかは教えてくれなかったので詳細は不明だが。
エマにも何度も聞かれていたがブレアはずっと黙っていた。
「俺本当に振られたんだ……。ちょっと脳が理解を拒んでてまだ現実を受け入れきれてないんですけど。」
「まーいつか1回こうなるとは思ってたぜ、ドンマ。」
「何でそんな酷いこと思ってたんですか。」
アーロンは励ますようにルークの肩を叩いた。
態度だけは明るいが言っていることはかなり酷い。
「そりゃ初カノで上手くいく方がむずいだろ。お前ありえんくらい扱い下手だし。」
アーロンから言わせれば、ルークは極端以外の何者でもない。
ブレアがルークを振り回している姿ばかり目につくが、正直ブレアもこれの相手にはかなり疲弊しているのではないか。
「否定できませんけど……でもなんかこう、今回はちょっと納得できない振られ方で、というかアーロン先輩の意見を聞きたくて!」
「何だよ。オレ関係なくね?」
それくらい自分で考えろよ、と言いたいのだが、何故かルークは声を潜めて言った。
「ヘンリーと先輩が付き合ったらどう思いますか……?」
「……は?何だその質問、意味わかんね。」
あまりにぶっ飛んだ内容にアーロンはぽかんとしている。どこからヘンリーの話題が出てきたのだ。
ルークが至って真剣に悔しそうな顔をしているのが余計にわからない。
「だって先輩、この間からヘンリーのことめちゃくちゃ口説いてるんですよ。そのタイミングで俺が振られる、つまり――そういうことじゃないですか!?」
「アホ。んなわけねぇだろ。」
顔を歪めたアーロンははぁ?と呆れたような声を出す。
そんなわけないだろう。誰が見ても違うとわかると思う。
「いいかルーク、今までのアイツの行動を思い出せ、アイツが他人口説くのはどんな時だ?」
「……魔法が絡んでる時……!?」
「うし、解決だな!」
アーロンが解散ーとそのまま席を立とうとするので、ルークはすかさず引き留める。
まだ話は終わっていない。そんな簡単に終わらせないでほしい。
「それ俺もじゃないですか!俺できること少ないし用済みで乗り換えた可能性も――」
「今まで彼女も彼氏も0だったアイツにんな軽さ備わってるわけがねぇ。」
性格には難しかないブレアだが、あのルックスなら恋人など男女問わずいくらでも作れたはずだ。続くかどうかは別として。
それでもルークが初めての恋人だというのだから、そう簡単に乗り換えたりしないだろう。
もし魔法目当てで恋人を作っているのであれば、既にかなりの数の交際経験を積んでいるはずだ。
「そもそもヘンリーはあんなカス女にひっかかりませーん。オレの弟だし。」
「でもアーロン先輩、正直女子モードの先輩に可愛く告白されて断れますか?」
「………………もち。」
長い沈黙の末答えたアーロンの目が泳ぎまくっている。
「あーユーリーかわいそー。せっかく作った彼氏がおれとか終わってるわー。」
「何ですかそれ!?」
分が悪くなったアーロンは早急に話の流れを変えた。
ルークは不満そうだが、本題に戻してやっているのだから感謝してほしい。
「お前ビビッて媚びすぎ。相手が1番ほしがる言葉をかけるのはここぞって時だけでいいし、受け入れ辛そうな自我はじわじわ出してって慣れさせんだって。」
「……先輩が何を喜んで何を嫌がるかなんて、分からないじゃないですか。」
簡単そうに言うができれば苦労しない。
ただでさえ気持ちは全く読めないのに、それに基づいて動くなんて無理だ。
「分かれっつってんの。アイツ察してちゃんなんだからこっちが察してやるしかねぇじゃん。」
「それができないんですよ俺には!」
「できねぇならどうすればいいか考えろ。オレのやり方に文句あんなら今まで通りお前のやり方で落とせ。」
少し厳しい口調で言われ、ルークは黙ってしまった。返す言葉もない。
アーロンが思うにルークは一周回って悩まない方がいいと思う。
「それもできないんですよ……。」
「何でだよ。確かに最近落ち着いたなーとは思ってたが。」
細い声を出すルークにアーロンは眉を潜める。
ブレアが可愛い、と悶えている姿は変わらず見るが、好きだとかなんとか攻めているところを見なくなった気がする。
「だって……先輩にウザいって嫌われたら嫌じゃないですか!」
「……はぁ?」
意味が分からない。
初対面からウザかったのだから、ウザいのも承知で付き合っているに決まっているだろう。
「どのみちウザいんだから日和んなよ。まじでユーリーかわいそ、アイツばっか頑張ってんじゃん。」
アーロンが思うに、ブレアはどちらかと言うと受け身な方だと思う。
最近のブレアはぎこちなくも歩み寄ろうとしているというのに、ルークがこれでは噛み合うはずがない。
「マジで悪ぃけど今回ばかりは味方してやれん。振られた原因は知らんがお前が駄目だわ。」
「うっ、刺さります……。」
完全に呆れたアーロンに言われ、ルークの表情がぐっと険しくなる。
その顔を見ていると可哀想になってきたのか、アーロンはふっと微笑んだ。
「あーもうダリィなぁお前ら。1個だけヒントやる。」
「え、何ですか!?」
ぴっと人差し指を立てたアーロンだが、そんなに食いつかれると下げたくなった。
本当に自分でどうにかする気があるのかと問いたくなる。
「アイツ、今日ガチで凹んでたぞ。別れようつった時、お前が何も言ってくれなかったってな。」
「……え。」
確かに何も言っていない。
驚きすぎて何と言えばいいのかわからなかった。
でもそれをブレアが気にしているのは、少し意外だ。
「……そんだけ。まあせいぜい足掻けよ。」
雑に締めくくったアーロンは席を立つ。
硬直しているルークを置いて教室を出ていった。




