65.5
俺の去った後の事を少し話しておこう。
最初の威力を失っていた炎だが、その勢いは未だ健在。
当初の瞬時に全てを灰にする熱量はないが、それを大きく広げていく事になる。
そしてそれは唐突に鳴り響く。
怨嗟の篭った、唸り声。
そんなもの関係ないとばかりに広がる炎は勢いを止めることなく、むしろ燃料を見つけたとばかりに燃え広がっていく。
それと共に大きくなる悲鳴のような唸り声。
燃えた建物が崩れ落ちる。
そうしたことで漸くそれが明らかになる。
崩れ落ちた先の地面が更に崩れ落ち、そこからグールとなった住民が這い出してきたのだ。
地面を掘って兵力を隠す、埋伏の計。
本来は地面を掘らないのだが、文字通りそうして隠れていた奴等の尖兵は苦しげに声を上げる。
その炎は止まる事等知らないとばかりに広がりを見せる。
炎に巻かれた不死者の集団は生者を求め進軍する。
その歩みは遅く、残った建物にも阻まれる。
そしてそれは建物にも燃え移る。
それはあたり一面を火の海に変えていく。
幸いにも初撃で皇国軍の兵士達の周りには燃え移る物はなくなっている。
そのおかげで炎に巻かれる事は無いがそれで安心出来るほど甘いものではなかった。
火に巻かれながら迫る不死者の軍勢に相対する為に陣形を整えていた彼らの後ろで轟音が鳴り響く。
そして響いてくる呻き声。
挟撃されている、それを知った彼らを動揺が襲う。
火を身体に纏うアンデッドと夥しい数のアンデッドの群れ、それが隊列の伸びた彼らを襲うのだ。
本来ならそれは伸びた隊列を焼き払った上に万全な状態の不死者が殺到する形になっていたものである。
しかしそれは防がれた、防がれた上でこの状況なのだ。
末端の兵士達がどう動けば良いのかを判断する事は難しい。
これは拙いと指揮官達は歯噛みするが既に手遅れである。
恐怖は伝播する。
そうして軍が崩壊しようとしている時にそれは起きる。
空から一条の光が降り注ぎ燃え盛る建物を薙ぎ払っていく。
そして降り注ぐ光の雨が炎を纏うアンデッドを貫き柔らかな光が兵士達を落ち着かせる。
その発端を見るとそこには小さな龍とその背に跨る3つの人影があった。
「落ち着きなさい」
その声は張り上げられたものではなく、落ち着いた声音であった。
しかし不思議と兵士達の耳にそれは届き、その発信者、アンジェとルイスの姿が空に浮かぶ。
「今、あなた達の後ろには私がいる、隊列を整えるまで、皇国皇女アンジェリーナと聖女ルイスがあなた達の後ろを守ります」
その言葉に浮き足立った兵士達の間を動揺が走る。
自分達が守るはずの姫が、聖女が、自分達の後ろを守るというのだ。
その事実が彼らを驚愕させる。
「集え我が旗の元へ!そして哀れな不死者達を打ち倒し、救済するのです!」
その言葉の直後大きな皇国旗が立てられる。
「ドイル侯爵!」
呼ばれた彼は馬上から大声で返事を返す。
「隊列を纏め、敵を殲滅しなさい!」
その言葉は方針を決定付ける。
「仲間を助け、皆で生きなさい!命を惜しめ!焦らず戦えば我らに負けは無い!」
その言葉に全軍が吼える。
その咆哮は恐怖を祓い彼らの心を奮い立たせる。
そして鳴り響く音を合図に彼らは動き出す。
傾きかけた戦局は、4人の若い勇者の手で大きく動きだしたのだ。
それからは一方的に進む事になる。
どれだけ数がいようと、建物から飛び出し奇襲を行おうとしようと、魔術師が、錬金術師が建造物を爆破し、焼失させ無効化する。
大群で突撃しても長槍と大盾を持った兵士が食い止めたところを騎兵が突撃して粉砕する。
瘴気による地形の利も聖職者達の祈りが打ち払い、逆にその祈りは不死者の力を奪い去る。
こうして傾いた戦況は覆る事がなく、皇国軍は優勢を保ったまま殲滅作戦に移る事になる。
そして役目を終えたアンジェとルイスは本陣に戻り、そのまま終戦を待つだけのはずであった。
あの様な事がおこらなければ。
それが起こるのは少し先の話。
そこにいたるまでに何があったか、それをこれから見ていく事にしよう。
アラ「ルイスも立派になって……」
リリ「アンジェちゃんも本当に……」
アイ「我が息子には勿体無い程立派な子達で私は嬉しいぞ」
リリ「本当に、あのロイドがこんな子を捕まえてくれて、私も安心だわ」
アラ「ルイスと一緒も並び立って色あせないし、俺達は幸せ者だな」
アイ「うむ、さて次回はロイドに視点が戻るぞ」
アラ「となるといよいよか?」
リリ「いよいよね!」
アイ「さてそれはどうかな?」
リリ「焦らすわね……」
アイ「まだ話は残ってるみたいだからな」
アラ「早くぶっ倒して解決してほしいぜ」
アイ「まぁそこはへっぽこ作者の尻を蹴飛ばしてやってくれ」
リリ「せーの!」
アイ「そーい!」
「あんぎゃああああああああああ!!!」
ってことで次回は中に移ります。