表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

第17話 ライバル?

「じゃあ、水沼さん・・・夫の方は、景子さんが殺したんですか・・・」


もしかしたらそうかもとは思っていたが、寿々菜は落ち込んだ。


「はい。水沼真紀子殺害の実行犯、水沼俊夫は被疑者死亡のまま書類送検。

水沼真紀子殺害の共謀と、水沼俊夫殺害の罪で八代景子は逮捕、です」


武上は、敢えてビジネスライクに言ったが、やはり心苦しい。

寿々菜が絶大な信頼を寄せていた景子を逮捕したのだから。


景子は、任意同行されたその日に全ての罪を認めた。

水沼真紀子殺しについては、高速バスのバス停が近くにあるTホテルでの寿々菜の仕事が決まった時に、

景子がそのシナリオを思いつき、水沼俊夫と一緒に実行した。

水沼俊夫殺害については、和彦に「事務所へ行く」と嘘を言い、水沼の自宅へ行き犯行に及んだということだった。


「景子さんと水沼さんが付き合ってたなんて・・・意外です」

「そうですね」

「・・・」


水沼が女とホテルから出てくるのを見たときに感じた違和感。

あれは、水沼と女に対しての違和感ではなく、景子の嫉妬の視線に対してだったのだ。

寿々菜は頭のどこかでそれに気づいていたが、気づかない振りをしていた。


「水沼と一緒になるために真紀子殺害の片棒を担いだと言うのに、あっさり浮気されて、

八代さんもやりきれなかったのでしょう。でも、八代さんは水沼とああいう関係になったことには、

後悔してないようです」


景子は今や犯罪者なのだから、刑事の武上は「八代さん」なんて呼ばなくていいのだが、

そう言ってしまうのが武上という人間だ。


「男と女ってわかりませんね。景子さんならもっと素敵な男の人がいくらでもいたはずなのに。

でも、水沼さんがああいう男の人だからこそ、景子さんも惹かれたのかなあ・・・」

「お。寿々菜。お前にしちゃ珍しく大人な発言だな」

「か、和彦さん!」


寿々菜は慌ててパイプ椅子から立ち上がった。


ここは、御園探偵の撮影スタジオ。

いよいよクランクインしたのだ。


「なんで武上がここにいるんだよ」

「寿々菜さんに、話を聞きにきたんだ」

「こんなとこまで?大方寿々菜が仕事してるとこを見たかったんだろ」


武上がグッと詰まる。


「ま、どーでもいいけど。おい、寿々菜。次、お前の出番だぞ」

「はい!頑張ります」


寿々菜はスタンバイすべく、セットの中へ駆け出した。


「おい、和彦。寿々菜さんって何の役なんだ?」

「死体」

「は?」

「しかも、メインの被害者役じゃなくて、『偶然犯行現場に居合わせて、口封じの為に殺された中学生』役」

「・・・」


まあ、「スゥ」だとこの程度だ。


「よし、俺も行くかぁー」

「なあ」


背伸びをして踵を返した和彦を、武上が呼び止めた。


「水沼真紀子が殺された時に部屋にあった『さよなら』とだけ書かれた遺書らしき物はなんだったんだ?」

「・・・そんなの知るか。警察の仕事だろ、自分で解決しろよ」

「・・・和彦、お前なんか心当たりがあるだろ?」

「ないない」


和彦はそそくさと立ち去った。

まさか武上に、「あれは俺の代わりに真紀子が歌詞を作ってたんだ」とは、

口が裂けても言えない。


しかしその歌詞のテーマが「別れ」とは、なんとも皮肉なことか。



セットの中に立つ和彦の横に、1人の男が駆け寄った。

門野の秘書の山崎だ。

いや、元秘書、と言うべきだろう。

いつものスーツ姿だが、男前っぷりが上がったように見えるのは武上の気のせいではあるまい。


水沼真紀子と八代景子が抜けた穴は大きく、

門野は当分秘書は置かないことに決め、山崎を和彦の専属マネージャーにした。

今までずっと女のマネージャーしか経験したことのない和彦は大いに文句を言ったが、

人がいない、と言われれば仕方がない。

寿々菜のように、マネージャーなし、と言うタレントだっているのだから。


そして、当の山崎は・・・


「和彦さん!セリフ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だって」

「何か飲み物は・・・」

「撮影終わってからでいいって」

「汗は・・・」

「かいてない!」


なんとも甲斐甲斐しく和彦の世話をしている。

どうやら、和彦の推理力に惚れ込んだらしいのだが、

文字通り「惚れ込んだ」らしく、和彦のマネージャーになれて嬉々としている。

一方の和彦は「危機」としている。


いつもは鈍感な寿々菜も、さすがにこういうことには鼻が利くようで、

既に山崎を目の仇にしていて、現に今も鋭い目つきで山崎を見ている。

死に化粧をしている為、迫力倍増だ。


しかし山崎はどこ吹く風。

撮影開始ギリギリまで和彦にくっついているつもりのようだ。


閉口している和彦を見て、武上は「ざまあみろ」と小さく笑った。






「シーン54、行きます!」


スタジオにスタッフの声が響き渡り、ようやく山崎も和彦から離れる。

所定の位置に着いた和彦は既に「御園英志」の顔だ。


よくまあ、こんなサッと変われるもんだ。


と、武上は感心するやら呆れるやら。



一方の寿々菜も、ソファーの上で見事な(?)死にっぷり。

演技力がない訳ではないのだが、寿々菜が脚光を浴びるのはまだまだ先のようだ。



頑張っているのだから、早く人気が出て欲しい。

でも、寿々菜さんがトップアイドルなんかになって、自分の手の届かないところに行くのは寂しいな・・・

いや、寿々菜さんは、人気が出たからって変わるような人じゃない!

そうとも!



武上は1人、意味もなく意気込むのだった。






――― 「アイドル探偵1 気のきいた殺人編」 完 ―――





最後まで読んでいただきありがとうございました!

タロウは推理小説を読むのが大好きなので、一度チャレンジしてみたかったのですが、

いかがだったでしょうか・・・?

「え?こういう考え方もあるんじゃない?」的なご意見はあるかと思いますが、

どうかご容赦ください(汗)

そして懲りずに第2弾を準備中です。


さあ、どこまで続くことやら。

頑張れ、寿々菜。

頑張れ、タロウ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ