永久の蛇
「俺の愛機〈ウロボロス〉は、量産型かと紛うほどにステレオタイプな第七世代機になってしまっている」
携帯端末で立体表示されていた愛機〈ウロボロス〉。筋肉質で、防御にばかり気が取られているものだ。
「市場に出回る第七世代の多くを占める〈RE7ネクスト〉の良いところだけを生かせば、こうした機体になるのは当然ね」
「防御力を強化する手段としての慣性制御――今ではICシステム、って呼ばれているんだな」
イナーシャルキャンセリング……そのまま、慣性制御って意味だろう。ARROWの機体である〈エーヴィヒ〉が慣性制御の概念を一般に広く知らしめた(今まではARROWプレイヤーの中でも知っている物はそう多くなかった)のだ。エーヴィヒの装備には『IC』という言葉がよくよく出てきたらしいからな。
エーヴィヒ・パンデモニウム、と言ったかな。あの機体が猛威を振るったのは衝撃的だった。
第八世代への期待は、もはや最高潮に達していると言えるだろう。
その中、それを真っ向から否定している自分たちは何なのだろう? そして、俺はその第八世代の到来を最も喜ぶべき場所にいるはずなのに、な。
第1世代から、自分の人生を捧げてまでアンドロイドの発展に尽くしたのに。
それでも――永久が納得してくれるというのならば、俺は全力を費やすまでだ。
「永久だって今は第七世代だからな。反応速度ならば第八世代とはほぼ変わらない。反応速度を極限まで高めて機体の高速化を図ろう」
「……旧世代機の生き残りの道は、そこにしかないの?」
「あちらの攻撃はICで攻撃力がブーストされる。こちらの攻撃はあちらのICで攻撃力を減衰させられる――必要なのは、一撃も食らわない速度と、一撃でしとめる攻撃力だ」
簡単に言うが、余りにも極論だ。
有り体に言えば、期待性能だけでは勝ち目がないのでパイロットスキルを発揮しやすい状況を作ろうというのである。
「……たしかに、そうなるのかな」
フリューゲルは、その点を考慮しているのかいないのか分からないが、とても合理的な機体だった。圧倒的な推力で敵を蹂躙するスタイルはまさに旧型の目指すべきもの。
合理的ではあるが、扱えるアンドロイドがいるはずがないのだが――それを可能にしてしまった奴がいたから、大会でも活躍しているのだろう。
相方の〈ラビュリント〉も少しやり方は違うが、その点をしっかり考えた戦法を取っていた。あっちはあっちで、パイロット性能が可笑しいのだが。
よくできたでこぼこコンビだ、あの二人は。
「第七世代だが、IC推進を取り入れようと思う」
「……え? だって、実用的じゃないんでしょう?」
「他の演算処理を極限まで切り詰めてしまえば、IC推進だけは実現できるはずだ。他のすべてを失うかもしれないけどな」
ARROWとは元来そういうものだ。何かを切り詰め何かに特化する。
これはあまりにも極端な改造だがな。他のすべてを完全に奪うようなカスタムをするものなどいまい。
「そこまでして、IC推進って取り入れるべき物なの?」
不思議そうに、永久が聞いた。いつまでも立っていても永久が気を使うと思って、彼女の隣に腰掛けた。
毎日ふかふかにしてもらえているベッドが、二人の体重に、小さく軋む。永久は嬉しそうに微笑む。
「スラスターでの空中戦……重力下での戦闘しかないARROWでは、かなり無理があるんだよ。本来スラスターの推力だけで無理矢理空中を舞っている。あの〈フリューゲル〉とやらもそうだ」
「ええ」
小さく相づち。
「直線的な動きしか出来ないんだよ、どうしても。どれだけ姿勢制御用スラスターを付けても、廃人でもなければ単調な攻撃しか出来ない」
廃人のそれでさえも、かなりの割合で行動を予測できるけどな。
「なるほど。IC推進は……」
「ああ。IC推進はイナーシャルキャンセルなんてことを言っておきながら、物理法則の制御に限りなく近い状態になっている。ICさえ有れば、立体的な動きが可能なんだよ」
だから、IC推進は歓迎された。それはまさに、新たな夢だったから。
だが、もちろん高いパイロットスキルと高い演算能力が必要とされるため、そこまでのレベルでIC推進を実用化する人間はあまりいないだろうけれど、ね。
「とりあえず、ウロボロスだし、他には姿勢制御用のテールスラスターでもつけようか」
機体重量はICが有る限りあまり気にしなくていいだろう。なんせ、重力を無効化しやがるのだから。
「テールスラスター……蛇にはぴったりね」
「さすがにくわえないけどな」
「くわえたら、くるくる回りながら敵に突っ込んでいくことになるの?」
「馬鹿みたいだな、それ…………あれ? どっかで聞いたこと有るな」
100年語り継がれる失敗兵器に思いを馳せた。
――人間の歴史とは、奥深いものだ。
成功も、失敗もあるあたりが人間の良いところだと思うよ、俺。
永久の端末にぽちぽちとデータを入力しながら、俺はそう、人類の失敗をフォローしてみるのだった。




