変態量産機
「買い物カゴまじ重い」
「なんでこう、アンドロイドが完全に趣味の域でコスト無視のお菓子づくりに手を出して、その材料をマスターが買っているの……?」
「ま、まあ、そこはデイブレイクマジックだ」
こういう路線で顧客を獲得してきているから、今更引き返せないというのがあるのだ。真面目なアンドロイドは、他の二社に任せるのが一番。慣れないことはやるもんじゃない。
「それで、修理の予約とか入れてもらいたいんだけど--」
「修理か……」
先ほどから打診されていたがガン無視していたのだが、どうも逃げきれないらしい。
どこかに、故障が決定的になってしまうのが怖い自分がいる。もちろん、早期発見早期治療がアンドロイドにとっても大切なことであるとは分かっているけれど……。
虫歯が痛かったとしても歯医者に行くのは怖い、みたいな状態に近いのかもしれない。自分自身、よくわからないけれど。
「まあ、優真の言うことには基本逆らえないからそっちの判断に任せるけどね」
「……ま、暇な時にやるか」
「それじゃ、明日?」
「さも俺が毎日暇でいるかのような言い方はやめるんだ」
「スケジュールが一ヶ月先まで真っ白な人が言うの?」
「そ、そう言えばそうか……夏休みだから仕方ないんだって!」
なにかしらの仕事も、誰とも出かける予定無いって言うのもなかなか寂しいけれど、あまり高校の友達と外出とかしないし……。そもそも仕事はほとんど在宅みたいなもんだし……。
あれ、なんだろう。瞳から冷却水が流れている。人間って水冷式なんだなぁ。
「お前の修理ってどこに持って行けばいいんだろう?」
二つの会社のパーツで作ったちゃんぽんだしな、お前。
「一応今回は人格面でのエラーだから、デイブレイクだと思う。変に借りを作らなくて良かったのかもね」
「アホか。こう言うときに貸し借り言うほど、雛子は人間やめてない」
雛子よりよっぽど朝陽辺りの方が感情豊かに思えることもあるが、あれは単に表に出していないだけだろう。そう信じている。ていうか、もうかなりの間一緒にいるのに未だ微妙に残念な間柄の二人だった。
「……うん。そうね、マスター」
砂糖やら多種多様な物体が大量にぶち込まれた買い物かごに、永久は牛乳を入れる。とりあえず、二人だけで飲むわけだから1リットルを一本。なんか知らないが、低温殺菌牛乳。そこまでして何故乳成分を摂取しようとしているのかはいまいち分からない……ということにしている。
「さ、レジを通して帰ろうか」
カゴを持つ手に力を込めて、改めてそういった。二人だけのお出かけ、というのが単なる買い出しに変わってしまっている現状を、なんとか受け入れようとしている感じ。
「カゴ、頂戴?」
「ああ」
選ぶのをデータリンクができる彼女に任せていたので俺が荷物持ちをしていたが--データリンクで朝陽・夕陽コンビの希望を聞いている以上、負荷が大きいので、一応--もうリンクも切っているし大丈夫だろう。
ごく幽かな駆動音が響いているはずだが、それが人間の耳に届くことは滅多にない。細かな仕事の丁寧さは、さすがは現行での最新・最良機である〈ネクスト〉だ。
そんな名機に、迷AIが搭載されているというのが、永久のおかしな所だ。
二つの会社の橋渡しをするのが俺と雛子の役割だとしたら、その橋渡しをするのが永久の役目だった。
それが今、もはや必要なくなっている。橋じゃなくて同居人としての永久が必要とされている。
きっと彼女はそのことに気づいていないから、『壊れたら買い替えて』なんてことが言えてしまうのだろう。
自己評価って難しいしね。
「先に帰っててー」
「んー」
聞く気皆無な名前返事をしつつ、スーパーの雑誌コーナーに立ち寄ってみる。ゴシップ記事でも見てみようかと思ったのだ。最近の雑誌はデイブレイク社の特集ばかりで、見ていて気持ちが良いのだ。現在のアンディー業界は、デイブレイクが覇権を握っている。この調子で家庭内での覇権も握りたいが。
まあ、無理だろう。
「夕陽--じゃないな。放熱関連の配置が最初期の試作機と同じだな」
ゴシップ紙の表紙グラビアはアンドロイドがつとめていた。新型機がでるとこう言うことも珍しくない。ど真ん中に陣取っているのは仮称〈DA8ー2p エーヴィヒ〉だ。現状では、諸事情あって、エーヴィヒの方が有名である。センターからは外れているが、その隣には仮称〈DA8-1p イタニティ〉がいる。デザインに凝っているだけあって、こうして二人並ぶととても可愛らしいな。
表情があまり無い所を見ると、完成直後のものだろうか。再現性皆無の、成人式に望む派手系女子もビックリな髪型になっていた。見かけ倒しだが、ハッタリにはなる。
ぱっと見たかぎりでは、この子は夕陽とは別個体。
腰回りにラジエーターをつけていたらその……ちょっと学校関係での需要が大きいデイブレイク的には大変まずいこと判明し、急遽修正されたのだ。そのせいか今度は顔がラジエーターとしての役割も持つようになっちゃって、それはそれで面倒なことに。デイブレイク永遠の課題、それは放熱なのだった。
今のところは、大事な顧客を守れたからそれでOKなのだが。
「なんていったっけ……そう、〈クレール〉とかいうチームの……」
つい、口に出ていた。ARROWにそれほど詳しいわけではない(マニアックな人たちに比べれば)が、中高生の間で『クレール』を知らない者は居なかった。元来翼の生えたロボというのは人気を若者に得やすいし、それに、チームのアンドロイドが〈エーヴィヒ〉と、稼働している中では最古のアンドロイドらしいというのだから、嫌でも目立つ。
しかも、第八世代を持っていながら第二世代を公式戦で使うアホっぷり。その第二世代の子への愛が伝わってくるようだった。新型ならば新型なだけ良いとされているARROWにおいて、考え得る限り一番古い機種をぶつけるなんて本当に、常識破りだ。
だが、嫌いじゃない。
「……? あ、エーヴィヒ」
「あー、いや、ああ、お疲れ」
「豪快にあわてなくても大丈夫。今の私は、自分自身が何であるのかもいまいち分かっていないんだから」
……だから、最新型に嫉妬するような事もないと。
そう言ってくれると、少し安心だな。
「--〈クレール〉。第二世代が現役で動いてて、しかも第八世代と肩を並べている。話題性は抜群ね」
「そいつには感謝してるよ」
同じ高校に通っているとのことだ。デイブレイク社ができるだけ隠密に、かつ迅速に動かんとするとあそこらへんをベースに動くことになるものな。そう珍しいことでもあるまい。
できるだけ一カ所に固まってくれてた方が便利だからな。
「私も、その第二世代みたいになれないかな」
「確かに、性能差ではコッチの比じゃないな」
関係性で言えば、俺たちの状況とよく似ているのかもしれない。
だが、第二世代のその子は、高い性能を要求されるARROWで戦い抜き、強豪ばかりのこの町で勝ち残っている。それは誰の目にも明らかなことだ。
「私の頭の中には、0と1しかないけれど--もしかしたら、その子は変数を持っているのかもね」
0と1以外のもの、変数か。0と1がアンドロイドの象徴とするならば……。
「人間だとでも言いたいのか?」
変数とは、自分たち人間のことだろう。
「それに近い何者かでは、あるかもね」
機械を越えた機械か。朝陽と夕陽を眺めていると、そんなこともおあるんじゃないかと思えてくるな。
「お前だって、十分そうだ」
マスターを『マスター』と呼ばないアンドロイドなんて、そう多いものじゃない。本来『義務』に近いその呼び方を回避して呼び捨てにしている。どういう理屈でそういう芸当ができているのかはさっぱり分からないが、こいつがふつうのアンドロイドでは無いことだけは確かだな。
「まだまだだと思うけど--うん。私、そういうアンドロイドを目指してみる!」
「はあ?」
「私は! 今! アンドロイドを越える!」
…………。
なにを言っているんだ、こいつは。
おかしな事を言い出した同居人は、そのままその雑誌をレジに持って行くのだった。




