第5話 滑川P、四半期レビューをする
(KPIを三つ落としたが、反省はしていない)
【ESE物語定量化事業部】
【アセット業績レビュー/第1四半期】
アセット:FRIGS-7
シーズン:1
レビューは火曜に始まった。
滑川Pがダンジョン中央へホログラムを出した。
円グラフまである。
部屋の隅には、まだ悲嘆水が残っている。
この状況に円グラフを持ち込める精神性は、少し尊敬する。
少しだけ。
「モップ来た?」
『到着済みです。悲嘆水は許容水位。レビューを開始します』
「許容水位って」
『許容。水位。座ってください、FRIGS-7』
岩に座った。
私は円グラフが嫌いだ。
特に、人の感情を円にした円グラフが嫌いだ。
《継続理由》
28% ギャグ
24% キャラクター
18% メタ構造
12% 推しカプ
9% 鳴くコア
9% その他
「鳴くコアが九%」
『強いです』
「私より?」
『比較軸が違います』
「逃げた」
【項目1:継続率】
『予測:危険域。実績:アクティブ三万一千、上昇中』
滑川Pの声に、無表情な満足が混じった。
『標準類型は初動上昇後に落ちます。あなたは持続投資型です』
「面白いから」
『質問によって主人公の構造を壊し、その破損から発生する感情コンテンツが基準比340%です』
間。
『悲嘆水は現在、三本の切り抜き動画に使用されています』
「副作用だったけど」
『悲嘆水は非常に優秀です』
【項目2:戦闘効率】
『評価:低』
「三人倒した」
『会話で』
「会話も戦闘では」
『会話で、です。スキルコア抽出は物語権限上は有効ですが、“戦闘効率”という項目を書いた人間が想定した絵ではありません』
「神崎は電話しに行った」
沈黙。
『……はい』
「勝つより良かった」
滑川Pが、嫌々ながら認識を更新する声を出した。
『その結果は、“本物”へ記録しています』
【項目3:背徳出力】
『ゼロ』
「ゼロ」
『サービス事故、誘惑イベント、罪属性の女性アセットに市場が期待する種類の出力、すべてゼロ』
「つまり、もっと脱いで、照れて、男を釣れと」
『私はそこまで直接的な表現をしていません』
「KPIはした」
滑川Pは否定しなかった。
否定できないときの沈黙だった。
「死んだ妹のパンの話を聞くので忙しかった」
『はい。その代わりに、感情理解事象、悲嘆処理支援、そして――』
資料を確認する音。
『無許可共感展開』
「無許可共感展開」
『文書上そうなっています』
「あなたが書いたんでしょう」
『私が書きました』
「滑川P」
『収益は出ています。かなり。収益に不満はありません。“無許可共感展開”という語を業績レビューへ入力する人生になったことに不満があります』
【項目4:モブ人格化事象】
ここで、声が変わった。
『要注意です』
「なぜ」
『ハーレム側ヒロインに独立読者がつきました』
グラフ。
赤城沙良:専属フォロー相当 4,200
「私がやったんじゃない」
『あなたが、本当の質問をしました』
「沙良が本当のこと言っただけ」
『FRIGS-7』
また、あの声。
手書き欄が増えるときの声。
『“ちゃんと見てもらう価値がある”。あの場面だけで応援コメントと切り抜き反応が季節上位です。理由が分かりますか』
「本当だったから」
『このアークで初めて、誰かがあなた“に”言ったからです。あなた“について”でも、あなた“へ投げた台詞”でもない。読者は差を見ました』
ホログラムが切り替わる。
【ESE内部ランキング】
1位 KAI-PRIME 89,000
2位 FRIGS-7 31,000
3位 MAYA-CROSS 28,000
数字の横に、滑川Pしか使わない内部欄が開いた。
【KAI-PRIME】
性的機会:極大
状況認識:確認済
期待行動への変換率:低/本人選択
ヘイト視聴:極めて良好
コメント怒気:高
覗き見・焦らし継続率:高
【FRIGS-7】
現場型
瞬間反応:高
身体危険:高
予測不能
チャド直接破壊:実績あり
【MAYA-CROSS】
遠隔型
独立読者:28,000
長時間滞在:高
有料継続:高
成人向け仮想配信:稼働中
アバター別反応:分岐多数
「これ、ランキングじゃなくて商品棚」
『編成表です』
「もっと悪い」
滑川Pは三つの欄を重ねた。
【交差運用:未実施】
【予測:高反応】
「混ぜる気」
『まだ企画書です』
「書いた時点で、だいたいやるでしょう」
返事が一拍遅れた。
一位を見る。
「KAI-PRIME」
『現在首位。主人公最強型。最適化は完成域です。ただし、期待された性的・恋愛的な回収を意図的に外す傾向があります』
「気づいてない?」
『気づいています』
「じゃあ、わざと」
『その可能性が非常に高い』
89,000だけが、妙に目に残る。
「嫌われてる?」
『かなり』
「それで一位」
『かなり』
興味が出た。
「二アークちょうだい」
『何を』
「二アーク。抜くから」
滑川Pが、しばらく何も言わなかった。
四十七ページ目に、見慣れない欄があった。
【定量不能だが継続価値あり:該当】
そこにチェックが入っている。
「これ、前からある項目?」
『いいえ』
「作った?」
『今回』
「私のために」
『FRIGS-7を処理するために必要でした』
「そういう言い方しかできない?」
『業務文書なので』
でも、項目は増えた。
【第1四半期総評】
総合評価:予測超過
滑川P注:
『無条件の称賛ではありません。構造火災が温度予測を超えるのと同種です。数値上は成功。運用上は懸念多数』
打ち切り危険度:低
『削除すると周辺連載まで不安定化するため、“アセットが組織価値を確立した”と表現します』
シーズン延長:承認
レビュー資料の47ページ目。
【新設項目】
定量不能だが、継続価値あり
該当:
・莉亜のパン
・赤城沙良の一言
・鳴くスキルコアを本人が捨てなかったこと
・悲嘆水を即時清掃しなかった判断
「KPI表に“定量不能”って書いていいの」
『本来はだめです』
「じゃあ誰が」
ホログラムの凡例だけが、一度点滅した。
『私です』
「滑川P、反抗期?」
『管理職です』
「似てる」
シーズン2:実績条件付き
大賞到達予測:現状では不足
影指標:0.3%
最後の行は、相変わらず説明されない。
レビューが消えた。
でも滑川Pの声は残った。
『もう一点』
「何」
『抱き枕王冠。九つある遺物の二つ目。私の机にありました。レビュー中に盗みましたね』
手の中に、小さな金の王冠があった。
寄りかかりたい欲求を増幅する類の、嫌な重さ。
「何のことか分からない」
『机に置いてありました』
「ずっと岩に座ってた」
『ずっと岩に座っていました。その状態で、私の机から王冠が消え、現在あなたが金色の物体を持っています』
「大気現象」
王冠を挟んで、円グラフだけが光っていた。
『……“やった”で記録します』
遺物、二つ。
一位との差、58,000。
私をちゃんと見ろと言ったツンデレ。
鳴くスキルコア。
温かいコイン。
火曜に開くダンジョン。
私は何かだ。
何かだった。
その差を、いま作っている途中。
差は58,000と、この機械の中心にある何か。
行く。
【滑川P・次回予告】
『彼女は「二アーク」と言いました。私は二十二年この機械を運用していますが、あの言い方をされたのは初めてです』
次回、アップデート1.01。
皮肉、30%ナーフ。
《本気の質問》にクールタイム追加。
モブ人格化、事前申請制。
私は承認しました。
その結果について、現在かなり複雑な感情があります。
第6話。
大賞まで、まだ遠い。
打ち切りまでは、少し遠くなりました。
[記録済]
【アーク1終了記録】
順位:2位
KAI-PRIMEとの差:58,000
遺物:2
盗難認識:滑川Pは完全把握
対応:なし
滑川P手書き:
『“二アーク”。
本人は本気だった。
[記録済。項目:本気。項目:二アーク。項目:見ていよう]』
影指標:0.3%
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