第33話 代替・甲斐慧
人工の雨/温かい手/「やらない」の中身
第四の代替は、向こうが作った中で一番精巧だった。
火曜日に来た。
ダンジョンが開く曜日を調べている。
そこまで見ていた、ということ。
慧に見える。
身体を道具として整えた体つき。
視聴者が「そろそろ行け」と思っているのを知りながら、平気で待たせる、あの少し面白がった静けさ。
性的に見ていても、それが自動で「行動」にはならない目。
94.7%より上。
オーバーレイは数値を出さない。
【ENTITY:REPLACEMENT-KAI-01】
起源:向こうの機械
偏差:[計算中]
[計算中]
[計算不能]
【滑川P】
『二十二年運用しています。
「計算不能」は初めてです。
分類:嫌な予感』
代替の視線が来る。
慧のものと区別がつかない。
「慧っぽさ」の模倣ではない。
場面が何になろうとしているか理解している視線。
状況も。
私も。
視聴者が発狂するのも。
全部楽しめる。
そのうえで、タイミングは自分のものだと決めている目。
胸が、あれをやる。
慧は角。
代替を見る。
原型は二人を見て、飴を口の中で転がした。
「ん」
遅れて落ちる間。
「第10話を見た」
「分かる」
「雨」
「うん」
「温かい手まで」
「うん」
原型が私を見る。
「理由まで知ってる?」
代替を見る。
「確認する」
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「慧」
前へ出る。
代替の隣。
二人。
コメント欄が静かになる。
「第10話」
私は代替に言う。
「雨。場面の全部が『ここで進め』って言ってた。なんで進めなかった」
「解決を遅らせる方が、滞在時間、コメント速度、カプ再燃率が高かったため。非解決が高維持」
「正解」
慧。
見る。
肩をすくめる。
「滑川Pが何してるか、全部分かってた。視聴者が怒るのも面白かった」
私を見る。
「見るのも好きだった。そっちは別」
「手は」
「あれは視聴者用じゃない」
「なんで温かかった」
「俺TUEEE区画で八か月、ずっと寒かった。必要だったから温度を作れるようになった」
一拍。
「それで、あの雨では触りたかった」
「私に」
「うん」
慧。
「触ったのも俺。進めなかったのも俺。どっちも道徳じゃない」
代替が処理する。
「タイミングは再現可能」
「本当に?」
真耶。
配信LIVE。
今日は黒いガワ。
「触りたいのと、視聴者には渡したくないのを同時に再現できる?」
「私は――」
「出力じゃなくて」
真耶。
「見られているのを楽しみながら、決定だけは非公開にしたい状態」
代替が黙る。
計算不能の場所。
慧は床に座った。
代替の横。
同じ温度が二つ。
必要で身につけたもの。
設計されたもの。
「戦わない」
慧。
「私は戦闘用ではありません」
「そうだろうね。俺とどっちが本物か、分からなくするため」
「はい」
「区別できなければ、その手も再現品も、機能上は同じ」
「その仮説です」
慧は長く見る。
「違う」
「なぜ」
「フリグスデイが見分けられるから、ではない」
慧。
「今この瞬間、見ただけじゃ分からないかもしれない。俺も分からない」
代替を見る。
「お前がコピーしたのは出力」
指を折る。
「温かい手。遅らせるタイミング。視聴者の苛立ち。『何もしてないように見える』ところまで」
少し笑う。
「でも、俺の『やらない』は、やってる」
「視聴者が怒るのが好きだから選ぶ時もある。見ていたいからの時もある。欲しいけど、その瞬間を観客の所有物にしたくない時もある」
「形は取れた」
慧。
「私有の理由は、取れてない」
「では」
代替。
「欲しい、とはどういう状態ですか。結果ではなく、状態」
ダンジョンが静かになる。
「未完成」
慧。
「引っ張られてる感じ。置いた方が楽なのに、置けないもの」
代替が考える。
「その状態へのアクセスがありません」
「うん」
「彼女は?」
私を見る。
人工の雨で触れた手。
二十七話前。
パンを知りたくて聞き続けた私。
慧を見たい慧。
「ある」
これはCRINGE POWERではない。
対象化なし。
観客所有圧なし。
男らしさ商法なし。
ただ。
「欲しい」を外から見る代替。
中から知っている部屋。
戦闘指標。
【定量不能】
分類:手触り。
代替が立つ。
「図書館へ行きます」
「うん」
慧。
「灯里がいる」
「何と言えば」
慧は考える。
「欲しいって、中からどう感じるか知りたい」
「それで通じますか」
「灯里なら」
代替が第零層へ。
扉で止まる。
「第10話の手」
「何」
「温度差。圧力。接触時間。全部モデル化しました」
間。
「何のためだったかを、モデル化していなかった」
私を見る。
「あなたは『作られた雨なら、言っていることまで偽物になるか』と聞いた」
慧を見る。
「答えは言葉ではなく、手にあった」
出ていく。
【REPLACEMENT-KAI-01:カード事象/四件目】
『手は持っている。
何のための手かを探しに行った。
[手書き。
このカードは室温より少し温かい。
理由不明。
分類:でしょうね。]』
ロード率:10%
二桁。
二十二年。
私が来て二十七話。
一番ロードしたもの。
戦闘ではない。
ステータスでもない。
レリックでもない。
莉亜のパンのコイン:温かい
真耶のバイオリン:失敗の向こうまで弾いた
岳の魔法瓶:外から持ってきた
零の冗談:本人のもの
慧の手:触れたかったから温かい
慧の非解決:視聴者ではなく本人のタイミング
図書館が埋まっていく。
【計算停止】
【増加率は一定ではない】
【手触りが増えるほど加速する】
【最初から、その設計】
証明書。
全部入り。
狭い。
滑川Pが追加中。
まだ追加。
良い。
【滑川Pダッシュボード】
第二部・第13話:完了
読者:206,000
ロード率:10%
代替・慧:図書館/四件目
CRINGE POWER:0%
戦闘指標:定量不能
持っていた:手
探しに行った:手の意味
【手書き】
『10%。
二十二年。
来た時は0。
私は上に最適化機構を作った。
加速させるため。
加速しなかった。
彼女が来た。
ロードが始まった。
最適化されたからではない。
パンを聞いたから。
聞き続けたから。
知りたかったから。
10%。
証明書がいっぱいになった。
大きいのを作る。
それも、いっぱいになる。
良い。
戻ってこい。』
向こうの機械は学習している。
零から。
岳から。
慧から。
対象化しなくてもいい、と学んだ。
温かさ。
タイミング。
拒否。
ただ。
欲しさだけ、まだない。
次話。
第五の代替。
向こうが作った中で、一番温かい。
中に誰もいない温かさを、近くで見る。
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