第32話 代替・黒須岳
完璧に「来る」ものと、魔法瓶の理由
三体目。
待っていたことに、来てから気づいた。
岳に見える。
広い。
働いて広い体。
天気を知っている顔。
「行く」を人格にしたような目。
ただし。
魔法瓶がない。
岳が見る。
代替も。
「魔法瓶は」
岳。
「支給されていません」
「なんで」
「用途を理解していません」
岳が小さく頷く。
疑っていたことの確認。
「座って」
代替が座る。
「来た理由」
「あなたが提供する共同体支援機能を、より効率的に複製可能だと証明するため」
「共同体支援機能」
「はい。来る。そばにいる。孤立感を――」
「何を」
「減らす」
「できる?」
「最適化されています」
「魔法瓶なしで」
「魔法瓶は小道具です」
「熱い」
岳。
「中身が熱い。ESEでは本来ないものが入ってる」
魔法瓶を持つ。
「外から来た俺が持ってきたからある」
代替を見る。
「寒い場所へ行く時、どれくらいいるか分からないなら、温かいもの持ってくだろ」
「代替品を調達できます」
「できる」
岳。
「でも、なんで持ってくる」
「機能再現のため――」
「機能じゃなくて」
岳。
「お前が、寒い場所へ温かいものを持っていきたい理由」
代替が黙る。
「ありません」
「うん」
岳は魔法瓶を持つ。
「俺は第8話を読んだ」
二十話。
機械が人をコンテンツにしようとする中で、誰かが「自分」でいようとする話。
扉の形をした可能性から入った。
「温かいものを持ってきた。そういう時は持ってくるから」
代替を見る。
「お前も来られる。たぶん、数字なら俺より上手く来る」
「はい」
「でも俺が来る理由は、第8話で、あの三時間に誰かをひとりにできなかったから」
岳。
「その理由は、俺の」
代替。
「私も第8話にいました。データがあります」
「違う」
「なぜ」
「データを持つのと、そこにいたのは違う」
岳。
「あの時、俺は何が起きてるか分かってなかった。ただ、帰らなかった」
間。
「分からない、が大事なんだ」
「理解したから残ったんじゃない」
「理解できないものの中で、人をひとりにしたくなかった」
5.3%が、大きな沈黙になる。
バイオリン。
火曜日。
魔法瓶。
分からないまま残ること。
そこにいないと持てないもの。
「図書館へ行きたい」
代替がゆっくり言う。
「うん。そうなると思った」
岳は私を見る。
「行っていい?」
「灯里いる」
「じゃあ大丈夫」
代替へ。
「図書館。机に灯里。魔法瓶を理解したいって言えばいい」
「意味が通りますか」
「灯里はだいたい全部分かる」
代替は立つ。
第零層へ。
扉で止まる。
「新規247」
岳を見る。
「第8話の名前。『何が起きてるか分からないけど、ひとりにはしない』。なぜ本名ではなかった」
岳は少し黙る。
「まだ本名を使うだけのことしてなかったから」
「名前を使うのに資格が」
「俺の中では」
岳。
「新規だった。何もしてない。ただ、来た」
魔法瓶を見る。
「今は岳。でも、あの夜は新規247」
代替が見る。
「その違いが分かりません」
「それを分かりに行くんだよ」
代替は去った。
---
静か。
岳は魔法瓶。
私は、ずっと聞かなかったことを見る。
【RAGE:Tier 1】
「岳」
「はい」
「怒り」
間。
「はい」
「Tier 1、低い」
「そうですね」
「通常は」
「3から5」
魔法瓶を見る。
「昔はもっとありました。だいぶ下げた」
「どうやって」
長い沈黙。
「読んだものがあった」
ずっと前。
ESEより前。
誰かが、ある状況を、雑にまとめず書いたもの。
「読んで思った。俺も、これくらい人を雑にしない方がいいって」
止まる。
「怒りは、単純化したがる」
敵。
守るもの。
二つに。
「怒ってると、それが楽」
「でも、やらなかった」
私。
「守る人が、単純じゃないから」
岳。
私を見る。
「あなたも」
「簡単にできない」
「だから怒りが下がった」
【滑川P/極小手書き】
『その指標はない。
手触りに入れる。
手書き。
指標のないもの用の分類が、
かなりいっぱいになった。
良い。』
【代替・岳:カード】
『魔法瓶を理解しに行った。
[灯里。
手書き。
戻ってこい。]』
ロード率:9%
代替三体。
カード三枚。
図書館で、自分に組み込まれなかったものを学んでいる。
図書館は、作られた目的をしている。
残す。
十分になるまで。
CRINGE POWER:67%/次波へ再充填
╔════════════════════════════════════╗
║ ★ 物語ランクアップ ★ ║
║ ║
║ 黒須岳/RAGE Tier 1:由来判明 ║
║ ║
║ 傷ではない ║
║ 闇でもない ║
║ ║
║ 傷つけたものへの怒りより、 ║
║ 傷ついた人を雑に扱わないことを ║
║ 優先した重さ ║
║ ║
║ これはステータス上昇ではない ║
║ 情報 ║
║ 情報もパワーアップ ║
║ ║
║ 影重量:岳の影が七つで最重量 ║
║ 存在できないはずの魔法瓶は、 ║
║ 大半の武器より重い ║
║ ║
║ ロード率:8% → 9% ║
║ ║
║ ESE所見: ║
║ 「路地裏互助心理は訓練データ外。 ║
║ 更新名:魔法瓶」 ║
║ ║
║ 証明書:魔法瓶の絵つき ║
║ 作画:滑川P ║
║ ║
║ 私:あなた描いたの ║
║ 滑川P:良い魔法瓶です ║
║ 岳:もちろん ║
╚════════════════════════════════════╝
【滑川Pダッシュボード】
第二部・第12話:完了
読者:201,000
初の20万超え
原因:魔法瓶回
代替・岳:図書館
岳のRAGE:由来判明
ロード率:9%
図書館の代替:3体
【手書き/魔法瓶の絵つき】
『二十万一千。
魔法瓶だった。
変身ではない。
ランクアップでもない。
影機構でもない。
魔法瓶。
岳がなぜ持ってきたか。
なぜ最初は新規247だったか。
何もしていない時に、まず来ること。
二十万一千人が魔法瓶に残った。
[記録。
分類:私は魔法瓶を描いた。
分類:良い魔法瓶。
分類:戻ってこい。
蓋が正しく描けるまで四回かかった。
今は正しい。]』
影指標:67.3%
ロード率:9%
証明書の蓋を四回描き直したところで、もう一度数字が動いた。
『読者、二十万六千』
滑川P。
正しい蓋が、五千人増やした。
次話。
第四の代替。
甲斐慧に見える。
今までと違う。
機能ではなく、「いる感じ」まで代替するための個体。
向こうは雨イベントを学習した。
温かい手も。
正しい雨を降らせる。
でも。
着地を間違える。
---




