第31話 代替・夜城零
もっと面白い冗談と、値段のない冗談
二体目の代替は金曜日に来た。
金曜日だと分かった。
ダンジョン時計がそう表示したから。
それだけではない。
ここで金曜日を何度か生きるうち、松明の光にも、コメント欄の重さにも、「一週間生き延びた」感じが出るようになった。
最初に気づいたのは零。
冗談の途中で止まった。
代替は、よく描けた肖像画みたいに零だった。
記録できる部分は全部正しい。
なぜ描きたくなったかだけ、ない。
黒いコート。
バックル三十七。
配置も正確。
鎌の紫も。
頬骨も。
「深さ」を美学として着る、ゴシック主人公の憂鬱。
零が見る。
向こうも。
「続けてください」
代替。
「待てます」
「……何を」
「冗談。途中でした」
「続けない」
「なぜ」
「お前が来たから」
「遮りません」
零が止まる。
「それが理由じゃない」
代替が、零の好奇心と同じ角度で首を傾げる。
「なぜ止めたんですか」
零は、空中で途中のままになった冗談を見る。
くだらない冗談。
覚悟だけで生きるやつ。
「この冗談は、こいつらに言うものだから」
零。
「お前がいると――」
止まる。
「見られ方が違う」
真耶。
配信しながら。
「同じ行動でも、観客が違うと別の行動になる」
代替は十九万四千のコメント光を見る。
「私はもっと笑わせられます。夜城零の構造を使用可能。間も調整も、命中率も上」
「できる?」
私。
「実演します」
零の冗談を言った。
十七時間目の。
覚悟だけの、くだらないやつ。
上手い。
間は零より良い。
言い方もきれい。
客観的に、命中率が高い。
《量子筋トレ勢99:笑った。笑ったことが気持ち悪い。どうすれば》
《韓ドラ沼民:面白かった。なんで面白かったのに嫌なんだろ》
零は静か。
自分の冗談が、他人の手で、自分より上手く使われるのを見る。
「俺より面白い」
「はい」
「俺の冗談で」
「はい」
対象化ではない。
別の痛み。
大事な人が、「本人であること」で本人より下手だと証明される痛み。
「零」
見る。
「違う冗談」
「何」
「データにないやつ。ここにいたからしか作れないやつ」
私は代替を見る。
「構造は持ってる。理由はない」
零は黙る。
それから。
「修仙オーラがダンジョンで緊張したのは、なぜでしょう」
間。
「質問されるって聞いたから」
もう一拍。
「答えたこと、一回もなかった」
城戸先生が二番目に笑った。
降参笑いではない。
認識笑い。
生徒が授業を理解した時の教師の笑い。
私が三番目。
零は最後。
自分で作った冗談に、自分が笑う。
代替は笑わない。
構造を分析。
最適反応を算出。
どれも笑いではない。
「理解できません」
「うん」
零。
「ダンジョンにいるから分かる。お前は、ダンジョンの出力を再現するために作られた。ダンジョンにいたわけじゃない」
十九万四千の光。
修仙オーラへ質問した回を知る人たちの温度。
代替の何かが止まる。
5.3%。
「笑う理由」
「そう」
「冗談は持ってる」
「うん」
「理由がない」
「ない」
零は岳を見る。
「俺、三年ゴシック区画にいて、『闇について深いことを言う』方が人を笑わせるより価値あると思ってた」
少し笑う。
「割れて、くだらない冗談言った。岳が最初に笑った」
岳。
「面白かったので」
「その笑いが、三年ぶりに時間を前へ動かした」
代替は図書館へ行った。
倒されていない。
方向を変えた。
冗談はある。
理由を探しに行く。
【REPLACEMENT-REI-01:カード事象】
『冗談は持っている。
理由を探しに行った。
[それも数える。
いつも数える。
記録。]』
灯里。
ロード率:8%
CRINGE POWER消費:41%
残量:59%
夜城零:自分にしか作れない冗談
黒須岳:最初に笑う
城戸淳平:認識笑い
降参笑いとは別
記録済
【滑川Pダッシュボード】
第二部・第11話:完了
読者:197,000
代替・零:図書館
代替転送:二件目
零の冗談:
『修仙オーラは、なぜ緊張した?』
『質問されるって聞いたから』
『答えたことがなかった』
カード目録へ登録。
ロード率:8%
【手書き】
『代替、二体。
両方、図書館。
向こうは高精度の「仲間」を作っている。
そして作られた方が、
図書館へ行く。
向こうは想定していない。
私も、ほとんど想定していなかった。
図書館が埋まっていく。
[記録。
分類:それが目的。
分類:戻ってこい。]』
次話。
代替・岳。
岳と同じ行動をする。
違いは、魔法瓶。
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