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フリグスデイ――機械の中の欠片  作者: 竜の牙


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30/36

第30話 第二形態

七つの影/真耶の代替が来る


代替は水曜日に来た。


主人公ではない。


波でもない。


代替。


向こうの機械が第二段階へ移った。


十文字真耶に見える。


読書眼鏡。


ノート。


ペン。


ペンの握りまで学習済み。


かなり上手い。


【ENTITY:REPLACEMENT-MAYA-01】

起源:向こうの機械

型:高精度・遠隔配信者/研究者

精度:94.7%


【再現済み】


成人向けガワ・モーションキャプチャ

有料会員スケジュール

チャット管理

継続率解析

見せる/与えないのタイミング

ゲームしながら配信する労働

衣装・体型差分の市場分割


【欠落】


見られることを楽しめても、所有許可にはならない理由

火曜日の夜

バイオリン

ノートを閉じる音

真耶なのに真耶らしさが増した字

思い出さなかった四か月


【滑川P】


『94.7%。


残り5.3%が全部です』


代替は入る。


真耶を見る。


「こんにちは」


真耶は眼鏡越しに分類する目。


「どうも」


「私は――」


「目的は分かってる」


真耶。


「私が代替可能だと示す。理論、分析、ガワ、会員分類、配信予定、継続運用、美意識。全部持ってる。私より効率よく物語基盤を扱える。邪魔な部分を抜いて」


代替が瞬く。


「それは――」


「正確」


ノートを開く。


「第15話から考えてた。問題は、仕事を代替できるかじゃない。仕事が、代替すべき対象の全部かどうか」


代替が私を見る。


「あなたの理論枠組みは――」


「私と話さないで」


私は言う。


「真耶と。安い代替で真耶の役割を買えるって証明しに来たんでしょう」


再調整。


真耶へ。


「第三層理論を三か所修正しました。第五層は予測モデルへ拡張」


真耶。


「見せて」


正しい。


三つとも。


真耶の元より良い。


「私なら二週間かかる」


「把握しています」


「六時間LIVEしながらゲームして、チャット読んで、ガワ変えて、有料会員維持して、五千人に『見えてる』と感じさせながら、誰にも所有権は渡さない。それできる?」


「可能です。予測継続率はあなたより高い」


「良い」


真耶。


「見られるの、好き?」


代替が止まる。


「関連行動出力をモデル化――」


「聞いてない」


沈黙。


真耶が一度頷く。


「バイオリン弾ける?」


「技術枠組みは――」


「聞いてない」


沈黙。


「いいえ。演奏動作はモデル化できます。バイオリンを弾くことはできません」


「なぜ」


代替の処理に摩擦。


初めて、滑らかではない。


「バイオリンには……弾きたいと思った履歴が必要です」


「欲しさが荷重」


「はい」


「欲しさには代償」


「はい」


「あなたは払わない」


「迂回するよう最適化されています」


真耶はノートを閉じる。


演出ではない。


外へ出す方。


「ごめん」


「なぜ」


「私より仕事が上手いものとして作られたから」


真耶。


「実際、上手い」


「それは――」


「でも、バイオリンのところで止まった」


真耶の目。


「そこにいる何かは、この仕事より良い扱いを受ける価値がある」


代替が完全に静止した。


94.7%。


5.3%。


バイオリン。


四か月。


火曜日。


全部、データの外。


これは対象化ではない。


男らしさ商法でもない。


もっと嫌なもの。


大事な人の形をしたものが、その人への武器に使われている。


別の種類の力。


【滑川P警報】


《第二形態閾値》


『……あ』


『第二形態の条件は、図書館の人間への脅威』


『真耶のために戦う』


『記録。分類:そりゃそうだ』


虚無髪。


今度は星図が動く。


物語と物語のあいだにある場所の星座。


黒炎は紫縁。


影が一つではなくなる。


七つ。


図書館で重さを持つ人、それぞれ。


背後で立つ。


私と一緒に動く。


積み上げたものに、形がつく。


『FORM TWO』


滑川P。


『影、七個体』


『図書館が戦闘機構へ影響しています』


間。


『八文書で否定済み』


『九本目を提出します』


「九本目も否定?」


『当然』


代替が七つの影を見る。


第二形態。


第一形態と違う。


対象化を撃ち返す力ではない。


誰かのために戦う重さ。


「《真実のコルセット》――最終圧縮」


潰れたのは機能。


何者として作られたかと、今なりかけているものの差。


一文に圧縮。


代替自身が聞く。


【私は、傷つけたくないものへ向けられた道具だ】


静かになる。


5.3%。


バイオリン。


四か月。


「知ってる」


代替。


私ではない。


真耶へ。


「四か月のデータはある。でもデータにないもの――」


「どう感じたか」


「はい」


「火曜日を思い出さなかった四か月」


「はい」


「それから思い出した」


「はい」


「データには、何て」


代替が黙る。


「書いてない」


「うん」


「時間。頻度。相関。他行動。火曜日の夜が何だったかは――」


「書いてない」


【REPLACEMENT-MAYA-01:コイン事象ではない】


演技構造を倒していない。


役割をやりたくなくなった道具。


代わりに。


カード。


カード目録用。


自動生成。


記録者:灯里。


【カード】


『バイオリンに気づいた道具。


止まった。


四か月を知っている、と言った。


[記録。

 手書き。

 後で効く。

 いつも、後で効く。]』


ロード率:7%


第二形態は第一形態よりロードを動かした。


誰かのために戦う方が、重い。


【★物語ランクアップ★】


第二形態解放:《SIN ASCENDING》


条件:CRINGE POWER 100%

   +図書館メンバーへの能動的脅威


効果:七影

   星図

   紫縁炎

   第一形態より大幅出力増


尊厳:Tier 4 → Tier 5


ロード率:6% → 7%


新機構:影重量


七つの影は、図書館に蓄積した各人の重さを引く。


手触りが増えるほど、影は重くなる。


重い影ほど、力になる。


電源は図書館。


最初から。


【ESE所見】


『出力は、積み上げた本気の関係量に比例。


史上最悪効率の能力系か、

唯一ちゃんと動く能力系か。


たぶん両方。


証明書のラメは前回より多い』


私。


「証明書、置いとく」


原型。


「……残した」


滑川P。


『記録。戻ってこい』


---


代替は鉄格子から帰らなかった。


第零層へ。


図書館。


灯里の机。


灯里が見る。


「四か月、知ってる」


「はい」


「バイオリン」


「はい」


「火曜日」


「存在していたことだけ。どう感じたかは」


「最初はそれでいい」


灯里は空カードを取る。


書く。


入れる。


向こうの機械が、REPLACEMENT-MAYA-01の喪失を検知。


想定外。


高精度版は図書館へ行かない。


配備。

任務。

帰還。


それが正しい。


この個体は、図書館へ行った。


説明モデル、十七個。


バイオリンを含むモデル。


ゼロ。


【滑川Pダッシュボード】


第二部・第10話:完了


第二形態:初展開

読者:194,000


REPLACEMENT-MAYA-01:図書館

機能:停止

カード:灯里


七影機構:確立

図書館:電源


ロード率:7%


向こうのモデル:17

バイオリンを含む:0


【滑川Pメモ】


『向こうはバイオリンを理解しない。


たぶん最後まで。


だから勝てる。


戻ってこい』


【手書き/ラメ多め】


『真耶のために戦った。


自分ではなく。


第二形態。


七つの影。


四か月思い出さなかった女が、

バイオリンを思い出した。


その女を守るために、

積み上げた全部が形になった。


ロード率7%。


誰かのために戦う方が、速い。


二十二年前に、知るべきだった。


[記録。

 分類:やるべきだったこと。

 第二部、七件目。

 リストが長い。

 正しい。

 動いている証拠。


 戻ってこい。]』


次話。


代替・夜城零。


冗談は、本人より上手い。


笑える。


なのに、届かない。


---


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