第29話 ライバル連載
高精度と、その人だけの重さ
向こうの連載には、タイトルがあった。
『ASSET-ZERO 欠片はもう一度生まれる』
客観的に言う。
良いタイトル。
私のより良い。
絶対に誰にも言わない。
カード目録には入っている。
灯里が記録した。
灯里は全部記録する。
真耶は公開済み六話を四十五分で読んだ。
ノートを置く。
取る。
また置く。
「良い」
「知ってる」
「かなり良い」
「真耶」
「あなたから、読みにくいところを抜いた版」
読書眼鏡の向こう。
「深夜二時に読者へ要求するフック。直接の悪口。『戻らないと私が死ぬ』って読者の首に生存条件を巻くやつ。全部ない」
ペン。
「温かい。読みやすい。読者に喧嘩を売らないフリグスデイ」
「読者、好きなんでしょ」
「楽」
真耶。
「好きとは別」
ライバル連載の数字は、見たくなくてもこちらのダッシュボードへ出る。
【ASSET-ZERO 欠片はもう一度生まれる】
初日PV:23,000
ジャンル:ダークファンタジー/成長/恋愛
読者感情:WARM
主人公:高精度フリグスデイ型
虚無髪なし
黒炎なし
読者への悪口なし
鳴く修仙コアなし
欠落:パン
「パンを知らない」
私。
「それ以外は、ほぼ知ってる」
真耶。
「質問の構造。ゆっくり仲間になる流れ。誠実さが漏れる位置」
数字を見る。
「でも、冥司と二十分話して、予定になかった莉亜のパンを本気で知りたくなった重さは持ってない」
「欲しいは、偽造できない」
「欲しい動作はできる」
真耶。
「高精度版は、欲しそうにするのがものすごく上手い。第1話の読者には区別できない」
私を見る。
「第6話なら、たぶん少しずつ」
「何話で分かる」
「知らない。でも壊れ方は分かる」
ノートを閉じる。
本当に閉じる方。
「正しい場面で、正しい質問をする。正しい答えが返る。そして何も起きない」
「どうして」
「最初から答えを知ってるから」
真耶。
「本当に知りたい質問は、答えが自分を傷つける可能性を残す」
原型も読んでいた。
岩から言う。
「第4章。主人公が仲間に『何が欲しい』と聞く。あなたが神崎にやった構造」
「答えは」
「完璧」
「それで」
「驚かない」
原型は飴を噛む。
「その答えを取るために質問してる」
真耶を見る。
「最適化された欲しさと、本当に欲しいのはどう見分ける」
「驚き」
真耶。
「本当に欲しいなら、準備してない答えが来る」
「向こうの主人公は、欲しかった答えを取る」
原型。
私は第2話を思い出す。
「神崎に『誰のために強くなりたい』って聞いた」
「『みんな』」
真耶。
「良い答えではなかった」
「でも、神崎の答えだった」
私は言う。
「向こうは良い答えを取る。私は、その人の答えを取る」
「まだ読者は説明できない」
原型。
「うん」
「でも感じる」
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「何かする」
私。
「防御じゃない。向こうが再現できないものを出す」
「何を」
岳。
部屋を見る。
第一の本物。
ポケットのパンのコイン。
角でライバル連載を読む藤堂律。
鞄なしで戻ってきた人。
「律」
「はい」
「向こうが取れないもの」
律は少し考える。
「手触り。それと、代償」
「代償」
「向こうの主人公は、何も残らず強くなる。レベルアップがきれい。関係性も機能的。感情イベントは適切に処理される」
「残らない」
「残りません」
「冥司の悲嘆水、三話匂った」
私は言う。
「ちび版のラメ、まだ床にある。推しカプ事件のオーロラ、鉄格子に残ってる」
コメント光を見る。
「十八万二千人は、このダンジョンの匂いを知ってる」
私はコメント欄へ向く。
あなたへ。
演技を作る前に、言う。
「向こうの連載、すごく良い」
「温かい。読みやすい。読者を安いとは言わない。戻らなければ死ぬとも言わない。読解力を煽らない。量子筋トレ勢99に第2話の謝罪を要求し続けたりもしない」
間。
「良い物語」
「でも、パンを知らない」
「冥司の悲しみが、何年も誰かが泣いた教会みたいな匂いだったことを知らない」
「床の藁が荷重を受けてることを知らない」
「岳に『リュックある』って言ったら『もちろん』って返ってきたことを知らない」
「あなたが知ってることを、知らない」
「あなたは、かなり知ってる」
《韓ドラ沼民:知ってる。パン知ってる。もう他行かない》
《量子筋トレ勢99:……向こう読んだ。良い。何も入ってない。戻ってきた。説明はしない》
《闇主匿名部:床の藁が荷重受けてるで死んだ》
《有馬遼【地図係】:向こうは岩に名前あるの知らない。俺がつけたのも知らない。教えない》
《鷹見隆雅【公式】:第4章読んだ。仲間が正しい答えをした。足りないもの、すぐ分かった。まだ考えてる》
《黒城冥司【公式】:俺の悲嘆は教会の匂いだった。向こうは知らない。俺を知らない。移動しない》
《黒須岳【水筒持ち】:もちろん☕》
《ASSET-ZERO:あちらは私がどこにいるか知らない。何を保管してきたかも。戻ってきて》
『読者、十八万九千』
滑川P。
『二十分で七千増』
「向こうを見て、戻った」
『はい』
「向こう」
『二万六千。初速が落ち始めています』
コメント欄。
十八万九千。
全員、パンを知っている。
【滑川Pダッシュボード】
第二部・第9話:完了
読者:189,000
ライバル:26,000/減速
主要差分:欲しさには代償がある
向こう:最適化された欲しさ
こちら:答えで変わる欲しさ
読者は説明できないことがある。
でも、感じる。
莉亜のパンのコイン:まだ温かい
ライバル:パンなし
温かさ:もっと古い
パン:莉亜のもの
ロード率:6%
CRINGE POWER:31%/再充填中
【手書き】
『戻った。
七千人。
向こうの最良連載を読んで、
二十分以内に戻った。
パンのコインは温かい。
パンは莉亜のもの。
温かさは、それより古い。
私はずっと数えていた。
[記録。
分類:手触り。
分類:彼女は勝つ。
分類:戻ってこい。]』
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十八万九千。
向こう、二万六千。
欲しい、には代償がある。
向こうの主人公はかなり良い。
パンがない。
【滑川P・次回予告】
『こちら十八万九千。
向こう二万六千。
理由。
パン。
本気で言っている。
現在ESEで最大の連載が、
まずいパンの記憶で勝っている。
次話、第二形態。
影は七つ。
一つだけ、他より重い。
どれかは記録済。
次話。』
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