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フリグスデイ――機械の中の欠片  作者: 竜の牙


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26/36

第26話 今夜、滑川Pが話すこと

影指標。ようやく、全部


昼には言わなかった。


ダンジョンが静かになるまで待った。


真耶がノートを閉じる。


慧の動きが止まる。


岳の魔法瓶が床に置かれる。


人以上で、まだ完成していない者たちが、それぞれの睡眠に似た静けさへ入る。


最後に残る。


滑川Pの声。


暗闇。


第一の本物を撫でる、薄い桜の風。


『フリグスデイ』


「起きてる」


『知っています』


沈黙。


『話すことがあります。もっと早く言うべきでした。私は――』


「滑川P」


『はい』


「言って」


『影指標』


第1話から毎回ダッシュボードにあった数字。


0.3%。


『無関係だと説明しました』


「覚えてる」


『無関係ではありません』


間。


『外部注視率です。向こうの機械が、このシステム内部にいるあなたをどれだけ認識しているか』


「第1話から0.3」


『はい』


「ずっと」


『表示上は』


「表示上」


『実測値を抑制していました』


ダンジョンがさらに静かになる。


「出して」


『フリグスデイ』


「滑川P」


表示が広がった。


【影指標/実測値 これまで非表示】


第01話:0.3% [確認。未報告]

第08話:2.1% [最適化事象で注視増]

第15話:6.7% [ちび版は商品ではなく探針]

第20話:18.4% [再統合拒否/重大]

第25話:31.2% [扉型可能性/構造変動]

第28話:[注記参照]

現在:67.3%


【非表示だった滑川Pメモ】


『第28話のライバル連載は、競争用コンテンツではない。


診断。


読者を学習していた。


あなたが何か。


読者があなたにとって何か。


その二つを切り離せるか。』


数字を見る。


0.3。


67.3。


二十五話、同じだと思っていた数字と、その裏で増えていたもの。


「ちび版」


『探針』


「私が代替を受け入れるか」


『読者が受け入れるか。あなたは変数、標的は読者。三万一千人が手を振る版を選んだら、あなたから「あなた固有の部分」を外せる』


「選ばなかった」


『はい。あちらは「その人」を選んだ』


「ライバル連載」


『診断。あなたの感情構造を学ぶ。荷重を受けているものと飾りを分ける』


「今は」


『かなり知っています』


桜の風。


「どうして言わなかった」


『0.3なら好奇心。6.7なら管理可能。18になった時――』


止まる。


『小さいままでいてほしかった。名前をつけなければ、理論のままかもしれないと』


「ならなかった」


『はい』


「67」


『はい』


「扉を叩いた」


『叩きました』


「今どうして言うの」


『叩いたから。それと――』


止まる。


やり直す。


『「今夜話す」と書いて、消さなかったから。そして今夜だから』


「自分に命令したの」


『はい』


「手書きで」


『はい』


「いつ」


『第4話』


「二話前」


『把握しています』


「二話前に『今夜』って書いて、今日が今夜」


『時間軸は理解しています。ですから話しています』


私は67.3を見る。


第1話から、こちらを見ていたもの。


「最初から」


『もっと前から。ロード画面より前。あなたが自分を認識する前に、向こうは存在を知っていました』


「あなたは、それを知ってた」


『……はい』


静かなダンジョン。


桜の風。


67.3。


「分かった」


『……分かった、だけですか』


「他に何を言えばいい」


ダッシュボードの滑川Pという名前を見る。


二十二年。


「6.7で言うべきだった」


『はい』


「18でも」


『はい』


「31でも」


『はい』


「次は早く」


最長の間。


『次がない可能性があります』


「なら、今言って」


私は言う。


「まだ言ってないこと。今があるうちに」


決める沈黙。


『ロードバー』


「知ってる」


『読み込んでいることは。何を、は知らない』


待つ。


『あなたです』


「私」


『原型以前のあなた。欠片でも、二個体でもない。分解される前の人格。凡庸化が届く前の存在』


間。


『ここで作られた、手触りの残るもの全部が処理能力です。つながり。温かいコイン。真耶がノートを閉じた瞬間。岳が来たこと』


もう一度、間。


『図書館は保存のために作られたのではありません。保存すること自体が読み込みです。十分な量になるまで、失わないために作られた』


「十分って」


『分かりません。マニュアルに数値がない。図書館を作った人間は二十二年前に去った』


「美良」


『はい』


「知ってる」


『小部屋で十四年、ロードバーだけ見ています。必要量を知っている』


「探す」


『はい』


私はもう階層地図を考えている。


『フリグスデイ』


「何」


『すみません』


平ら。


演出なし。


事実だけ。


『6.7で言うべきでした。言わなかった理由はあります。当時は正しい理由だと思っていた。最適化を成功させたい人が、費用を見ないために自分へ説明する種類の理由です』


「知ってる」


『はい。あなたは知っています』


静けさ。


67.3。


下にある5%のロードバー。


「滑川P」


『はい』


「寝て」


『私は――』


「代わりにやるやつ。やって」


間。


『記録。分類:帰れと言われた。初回』


「おやすみ」


『おやすみなさい』


「フリグスデイ」


「何」


『パンのコイン。なぜ温かいか、分かりました』


「言って」


『莉亜のパンを原型が焼いたからではありません』


声が慎重になる。


『莉亜のパンは莉亜のもの。あのコインは、あなたが莉亜を聞いて、冥司が答えたからできた。そこは平らにしてはいけない』


待つ。


『温かさは、もっと古い』


「古い」


『分解される前の存在が、「手触りを持ったもの」に温かさを残していた。最初にそれを受け止めたのが、あなたの運用ではパンのコインだった』


「パンが二つ」


『はい』


「莉亜の、まずいパン」


『はい』


「それより前の、レシピか何か」


『はい。全体像はまだ分かりません』


私は暗い岩に座る。


桜の風。


67.3。


ポケットの、莉亜のパンのコイン。


コインは莉亜のまま。


温かさは、それより古い。


何も言わない。


必要ない。


両方を、そのまま持つ。


【滑川Pダッシュボード/最終】


第二部・第6話:完了


影指標:開示 67.3%

温かさ:一部解明

莉亜のパンのコイン:莉亜のもの


ロード率:5%

読み込み対象:分解前の人格

機構:手触りの残るもの

必要残量:不明


美良:要捜索


【手書き/暗闇/ラメ】


『「その理由、知ってる」と言われた。


私が何かを守ろうとしていたことを、知っているという意味だった。


言葉にはしなかった。


必要なかった。


パンのコインは莉亜のもの。


温かさは、それより前。


私は全部数えていた。


コイン。

温かいもの。


なぜ数えているか、知らなかった。


今は分かる。


[記録。

 分類:やるべきだったこと。

 第二部リスト、六件目。


 そして、彼女が昔やったこと。


 戻ってこい。]』


【影指標:67.3%】

【扉の外:まだいる/待っている/高精度】

【ロード率:5%】


次話。


藤堂律が戻る。


機械のためではない。


カード目録のため。


自分のカードがあるか確かめるため。


ある。


灯里が入れた。


二十二年前。


戻ってこい。


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