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フリグスデイ――機械の中の欠片  作者: 竜の牙


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24/36

第24話 授業が始まる

城戸先生の授業計画には、一か所だけ空欄がある


修行回は静かに来た。


今回は太鼓なし。


強制通知なし。


現実に早回しフィルターもかからない。


朝、城戸先生が黒板を持ってきただけ。


正確には。


「城戸先生+授業=黒板」


とESEが学習し、抵抗を諦めた結果、黒板が生成された。


そこには書いてある。


【授業計画:機械が測れないもの】

【および、それを増やす方法】


1〜8時間目:識別

9〜24時間目:区別

25〜48時間目:生成

49〜64時間目:伝達

65〜72時間目:[空欄]


「65から72は?」


岳が聞く。


「まだ分からない」


城戸先生。


「不安なんですけど」


「そうだな」


頷く。


「安心と正直は別物だ」


黒板に【識別】。


二重線。


下線を引くことを意思決定だと考えている人の二重線。


「向こうの機械は高精度コピーを作る。良いコピーだ。かなり良いものもある」


私を見る。


原型を見る。


「見分ける技術が必要になる」


城戸先生はチョークを置く。


「ただし、コピーを見る技術ではない。自分を見る技術だ」


存在がいつ演技へ変わるか。


経験をいつコンテンツ用に整え始めるか。


事実のままでも、効果のために形を直した瞬間はどこか。


「それ自体は悪くない」


城戸先生が言う。


「生存技術だ。ただ、長く使いすぎると、向こうの機械が手をかける溝になる」


「フリグスデイ」


「はい」


「最後に、安全かどうか決める前に本当のことを言ったのは」


三秒。


「パンのコイン」


「いつ」


「滑川Pに『温かい。理由は分からない』って言った時。言ってから、安全だったか考えた」


止まる。


「第3話」


「どう感じた」


「丸出し」


城戸先生が黒板に書く。


【丸出し】


「これだ」


原型を見る。


「あなた」


「真耶の欄外」


即答。


「見つけるか。意味が通るか。自分で書いたと思うか。分からないまま書いた」


「例の檻」


真耶が配信のチャットを横目に言う。


「『檻は鉄格子じゃない。鉄格子を美しいと思い始めた時が檻』」


「それ。届くか分からなかった」


「どう感じた」


原型は少し考えた。


手には砂糖菓子。


噛む。


「見えない部屋に、何かを投げた感じ」


城戸先生がまた書く。


【丸出し】


二重線。


その下。


【丸出し=結果が分からない】


「八時間かけて、この感覚を見分ける」


城戸先生。


「起きたあとで気づけ。狙った瞬間、もう最適化が始まる」


向こうの機械は、結果を知らない状態をコピーできない。


零が手を上げた。


「じゃあ、『丸出しになろう』とした時点で別物」


「正解」


一拍。


「脆くなれ、ではない。すでに脆かった瞬間を見逃すな」


零は手を下ろす。


考える。


「ゴシック区画、三年」


「うん」


「本気で感じるたびに、俺は――」


「美術化した」


真耶が言う。


責めない。


読書眼鏡に配信UIが反射する。


「感情を雰囲気にした。感情は本物。でも額縁が罠」


「檻は鉄格子じゃない」


零。


「鉄格子を美しいと思い始めた時が檻」


真耶。


零は黒板を見る。


【丸出し】


「笑わせたかった」


言う。


「ゴシック区画の割れ目で言った。あれが、ここに来て一番丸出しだった」


胸元に触れる。


「何か外れた感じ」


「バックル」


私が言う。


零が見る。


「そう。それ」


---


十七時間目は零だった。


宣言はしない。


真耶の区別演習の休憩。


配信は再びLIVE。


チャットが授業内容で喧嘩し、ガワはモジュールごとに衣装を変えている。


零が立つ。


「試したい」


そして、くだらない冗談を言った。


ゴシックではない。


深淵も死も薔薇もない。


覚悟だけで成立する、完全にくだらない冗談。


城戸先生は、より強い論証に屈した。


私も笑った。


悔しい。


本当にくだらない。


原型は最後。


私より静かで、最後まで笑った。


長く保存していたものを、ようやく外に出した笑い。


零は部屋の真ん中で、笑われているのを見る。


顔が変わる。


教室の顔。


利用不能として保管されていたものにアクセスしている顔。


「これが十七時間目だな」


城戸先生は涙を拭く。


自分の授業で自分を教育してしまった人の顔。


零は座る。


「まだある」


「知ってる」


「残り五十五時間」


---


四十一時間目は慧。


私の正面に座った。


第10話から読み方を覚え続けている顔。


「ずっと言いたいことがあった」


「言って」


「何回考えても、推しカプ用の台詞になる」


「何回」


「十二」


「一番丸出しのやつ」


慧は黙った。


「ESEに来た時、先に入った人を探してると言った」


手を見る。


「本当だった。それ以外にも、名前をつけられないものを探してた。俺TUEEE区画に長くいすぎて、欲しいと思うことが弱さに見えて、欲しさを燃料に変えてた」


コメント欄を見る。


「それで滑川Pが、俺をずっとラブコメ事故に放り込んだ」


「知ってる」


「俺も知ってた」


少し笑う。


「視聴者が『そこで行けよ』って怒るのが面白かった。見てるのも好きだった。欲しいと思うこともあった」


私を見る。


「どれも嘘じゃない」


間。


「便利でもあった。全部ネタにすれば、いつネタじゃなくなったか言わなくて済む」


顔を上げる。


「探してた人は見つかった。第零層の机にいる。灯里が知ってた。別の場所で、自分なりの生き方を見つけてた」


待つ。


「もう一つ探してたものも、少し分かった」


「何」


「できることじゃなくて、自分が何者かを気にする理由」


息。


「そこだけは、煽って逃げられない」


目が合う。


「台詞じゃない。確認した。台詞なら、こんな感じしない」


コメント欄の速度が落ちた。


《韓ドラ沼民:あ》

《量子筋トレ勢99:うん》

《黒須岳【水筒持ち】:☕》


私はしばらく何も言わない。


「台詞じゃない」


「うん」


「何もない、でもない」


「うん」


「私、考える時間がいる」


「分かってる」


慧が言う。


「俺は二十六話あった。そっちは好きなだけ使って」


城戸先生は黒板の前。


チョークを持っている。


書かない。


黒板に書かない方がいいものもある。


---


六十五時間目。


そこだけ空白。


「さて」


岳。


「さて」


城戸先生。


「授業は」


「まだ分からない」


「それが授業?」


「そう」


岳は考える。


「深いのか、逃げたのか」


「両方は別物だ」


城戸先生。


「ただし、六十五時間目では同時に成立することもある」


チョークを置く。


「向こうの機械が来る。残り七時間」


六十五時間でやったこと。


識別。

区別。

生成。

伝達。


「最後の七時間は、守る」


「どうやって」


「ずっとやってる」


城戸先生。


「持ち続ける。便利な形に最適化しない。邪魔な形でも、その形のまま置く」


空欄を見る。


黒板消しを取る。


授業計画そのものを消す。


「七時間」


言う。


「自分でいろ」


---


最後の七時間は、ESEで一番密度の高い七時間だった。


滑川Pが後で言った。


最高のエンゲージメントではない。


一番安定。


十七万五千人が、何が起きるからではなく、起きていることに残る価値があるから残った。


真耶は四十分バイオリンを弾いた。


途中を忘れても止めない。


失敗の向こう側まで。


零は残りの冗談を全部言った。


かなりひどい。


全部、零の。


岳はカード目録で灯里を見つけた。


私は見ていない。


でも分かる。


戻ってきた二人が、あまり喋っていない人同士だけが持つ静けさをしていた。


原型と私は、いびきについて二十分喧嘩した。


そのあと三十分、黙った。


空っぽではない沈黙。


慧はいた。


今は、それが慧の全部ではないと分かっている。


でも、慧であることの一つではある。


城戸先生は赤ペンで全員に満点をつけた。


真耶が言った。


「それ、成績インフレ」


「知ってる」


城戸先生。


「それが授業だ」


---


七十二時間。


外部センサーが反応した。


『フリグスデイ』


滑川P。


慎重な声。


『玄関に何かいます』


ロード率、5%。


原型を見る。


向こうも。


二音。


和音。


「誰」


『人みたいな音をするものです』


間。


『人ではない』


『人のふりが、とても上手い』


【滑川Pダッシュボード】


第二部・第4話:完了


授業:完了(消去済み)

1〜64時間:識別/区別/生成/伝達

65〜72時間:自分でいる


満点:全員

成績インフレ:確認済

城戸先生メモ:『成績インフレが授業』


バイオリン:失敗の先まで演奏

冗談:全部言った(ひどい。全部本人)

慧:いた

  (それだけではない)


【外部センサー警報】


玄関に何かいる。

高精度。

人のふりが上手い。

人ではない。


【滑川P/手書き】


『準備はできた。


私ができているかは分からない。


[記録。

 分類:やるべきだったこと。

 第二部リスト、四件目。


 玄関を何かが叩く前に、

 影指標を伝えるべきだった。


 もっと早く。]』


【影指標:0.3%】


ペン。


『今夜』


消さない。


記録。


手書き。


ラメ。


今夜。


---


玄関に、人のふりがとても上手いもの。


ロード率5%。


滑川Pは影指標の横に「今夜」と書いた。


消さなかった。


【滑川P・次回予告】


『「今夜」と書いた。


二部ずっと0.3%の数字の横に。


これまで手書きで間違ったものは、全部消した。


これは消していない。


次話、向こうの機械が代理人を送ってくる。


あいつらは上手い。


最適化されている。


でも。


パンを持っていない。


七十二時間。


記録済。』


---


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