第19話 サポーター戦争
通知は、第六層と第五層のあいだで来た。
二つの考えが、まだうまくつながっていない場所。
空間というより、接続詞だった。
「しかし」と「だから」の間。
真耶は三分くらい、そこを気に入っていた。
「文章構造に立てるの、かなり良い」
「考察勢って、こういうところで喜ぶんだ」
「あなたは岩に名前つけられて喜んだ」
「言わないで」
「記録済」
【ESEサポーターTier3 発動】
別画面で、滑川Pが「参考デモ」を起動した。
【課金圧体感試験】
重課金プレイヤー:1
無課金プレイヤー:20
無課金側補正:-35%
重課金側演出補正:+60%
二十人が、一人にまとめて吹き飛ばされた。
「公平は?」
『販売項目にありません』
「二十人、餌」真耶。
『強さを売る場合、数字より体感が重要です』
「逆もやる?」
『売上が落ちれば。次は無料側を一時強化し、課金側に危機感を販売します』
「最低」
『転換率は良いです』
「褒めてない」
『承知しています』
その下に、現実のカクヨム機能と混同しないための注意書きまで出た。
【注】
本機能はESE内部の架空制度です。
現実のギフト、サポーター、課金額は第2回GAウェブ小説コンテストのランキング・選考・審査に影響しません。
課金で審査員を殴ることはできません。
「最後の一文、誰」
『法務です』
「法務、好き」
『伝えておきます』
対象:47名
権利:限定的現実改変
1アークにつき、一名一件の環境改変
統括P承認:保留
待機中:47件
私は数字を見る。
「四十七」
『過去最高は三名です』
四十七件の改変案が一覧になった。
《空を紫に》
《金曜の悪意Tierを一時+1》
《真耶にバイオリンを》
《慧の探している人の位置を一秒だけ表示》
《金曜×慧:今夜だけ強制進展》
《真耶×慧:有料会員限定ルート》
《冥司のパンを一回だけ成功させる》
《滑川Pを物理的に画面へ出す》
《岩をもっと大きく》
「最後の二つ、誰」
慧の窓が割り込んだ。
《金払ったからって、俺のタイミングは売ってない》
一秒後。
【該当サポーター層:追加課金+18%】
慧:《……もう一回断る?》
『可能です』滑川P。
「仲良いね。嫌な意味で」私。
真耶が数字を見る。
「否定一回で十八%。低単価卒業」
慧:《褒められてる?》
「業務上は」
『私の台詞を取らないでください』滑川P。
『匿名です』
「却下」
『岩のほうも?』
「今の大きさがいい」
『そこですか』
四十七人が欲しいものは、それぞれ違った。
それが少し安心だった。
読者は一つの群れじゃない。
数字になると、一つに見えるだけだ。
「誰」
『深夜帯読者群十一。主人公最強層八。鷹見隆雅経由六。黒城冥司経由四。十文字真耶の考察層三』
真耶が顔を上げた。
「私の読者、課金するの」
真耶の配信窓では、有料会員の継続率が跳ねていた。
【成人向け配信:6:03:19】
【限定枠:満員】
【ガチ恋距離:運用中】
【認知要求:上昇】
【ガチ恋競争:危険域】
【アバター:成熟お姉さん→サイバーサキュバス 差分変更】
「六時間」
「あなた今日、戦闘二十分」
「二十分で三人倒した」
「私は六時間で三千人残した」
『労働量比較表を開きますか』滑川P。
「開くな」
「開いて」
同時だった。
『考察記事経由で支援層が形成されました』
「私の読者は、フィクションに金を使わない」
『あなたには使っています』
真耶は手帳を閉じた。
私は横を見る。
「今の、効いた?」
「分析中」
『効いています』滑川P。
「本人より先に数値で答えないで」
『それが仕事です』
「最悪」
真耶は手帳を開いた。
開いた。
一文だけ書いた。
また閉じた。
『残り十五。分類不能です』
「元の私」
慧が言う。
「中心で、自分の読者を作ってる」
『十五名。同時登録。プロフィール情報、ほぼ空』
「滑川Pの制度で、滑川Pに現実改変を投げる」
『そうなります』
「私より上手い」
『既に認めています』
戦争会議。
私。
真耶。
慧。
零。
そして、必要なときだけ現れる城戸先生。
「全部使わない」
四十七件は、全部使えば派手だった。
空を変え、能力を上げ、敵を下げ、過去を飾り、次の場面を短くできる。
つまり、主人公としては正しい。
だから私は嫌だった。
「全部使わない」
「使えるものを使わないの、もったいなくない?」
零が聞いた。
「物語なら、全部使ったほうが派手」
真耶が答える。
「だから使わない。選択できることと、消費しきることは別」
淳平が頷く。
「生徒に百個の教材を渡しても、百個全部やらせればいいわけじゃない」
「教師の比喩、強い」
「職業病」
慧は四十七件の一覧を見る。
「使わずに残すこと自体が、選択になる」
そうだった。
使える力を全部使う。
持っているカードを全部切る。
主人公最強ゾーンなら、それが正解だった。
ここでは違う。
慧が最初に言った。
「同意」
真耶。
「四十七のうち三件」
「なぜ三」
真耶が手帳を見せる。
三行。
彼女の字。
でも、いつもより少し本当の字。
一つ目。
有馬遼の地図を、物理的に実在させる。
負領域の地図。
存在してはいけない場所を、存在しないまま歩ける地図。
四万三千人の注目が、紙に重さを与えた。
二つ目。
城戸淳平の教室。
ジャンルとジャンルの隙間に、一室だけ。
黒板。
机。
チョークの粉。
誰かを見捨てずに何年も働いた場所の匂い。
三十分、座った。
誰も学ばない。
授業もしない。
零が泣いた。
呪われた書庫は持っていた。
教室は、持っていなかった。
淳平は何も言わない。
生徒がようやく必要な場所へ触れたとき、教師が黙る顔だった。
三つ目。
ここには書かない。
引きのためじゃない。
元の私に送るものだから。
真耶が書いた。
本人のものにしておく。
『残り四十四件』
「保留」
『サポーター戦争という企画名が成立しません』
「良かった」
『四十七件あって、三件だけです』
「四十四は、中心で必要になる」
私は地図を折る。
「センサーが読めないところで、何かを現実にしなきゃいけないとき」
長い沈黙。
『金曜』
「何」
『会ったら、どうするんです』
契約書を思い出した。
欠片は元へ戻る。
経験は統合される。
欠片は、終わる。
「吸収されることになってる」
真耶が言葉を足す。
「あなたは止まる」
「うん」
沈黙。
「もし、あっちが私を吸収したくなかったら?」
滑川Pが答える。
『規約にありません』
「欠片は、完全なものへ戻りたい前提」
『はい』
「大きいものの一部になるほうが、自分でいるより幸せって前提」
『……はい』
ポケットのパンコインは温かい。
火曜の夜。
《最初の本物》。
適温の雨。
四十七の改変権。
そして、あなた。
「次も来て」
私はコメント灯を見る。
「第20話。中心。自分に会う」
「ここまで来た人」
コメント灯を見る。
「十九話分、毎回“次”を選んだ」
別に、全部リアルタイムで読んだとは限らない。
まとめ読みかもしれない。
夜中かもしれない。
昼休みかもしれない。
でも、十九回ぶん、やめる場所があった。
それでもここにいる。
「その選択、私には全部同じ一票じゃない」
滑川Pが、静かに言った。
『ランキング上は一票にもなりません』
「分かってる」
『でも、私も今は同じ意味で見ています』
それは、かなり大きな変化だった。
息が止まる。
「何が起きてほしいかは、分かってる」
「パンのことを知ってほしい」
「バイオリンも。岩も。雨も」
「それが全部あったって、知って」
「……良かったって、思ってほしい」
それだけだった。
【滑川P・次回予告】
『あなたは、十九回ここまで来ました』
正確には、十九話分。
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途中で閉じない。
次も読む。
十九回の選択です。
ランキング式ではありません。
KPIでもありません。
第20話、シーズン1最終話。
中心で、二人のフリグスデイが岩に座ります。
一人は、機械より前から待っていました。
一人は、あなたが十九回残したことで、ここまで来ました。
第20話「中心」。
[記録済]
【ESE事後記録】
ESE現実改変権:47
使用:3
保留:44
教室:実在
地図:実在
第三改変:非公開
吸収規約:未解決
影指標:0.3%
滑川P手書き:
『“良かったと思ってほしい”。
誇ってほしいでも、認めてほしいでもない。
良かった。
その指定が、妙に具体的だ』
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