第17話 第七層・ジャンルの罠
第七層は、家みたいだった。
そこが罠だった。
壁が消える。
私、真耶、慧。
真耶が「層間移動に最適」と計算した三角形のまま立っている。
目の前に、巨大なランキングがあった。
金。
黒。
天井まで。
主人公最強。
成り上がり。
チート。
無双。
俺TUEEE。
私の名前が、一位だった。
【1位 FRIGS-7/金曜】
数字が上がる。
見ているだけで、胸の奥に気持ちいいものが入ってきた。
勝った。
そういう感じ。
まだ何もしていないのに。
「先に勝った気分を与える」
真耶が言う。
「受け入れたくなるように」
【第七層:主人公最強ゾーン】
慧の横だけ、別の分類が開いた。
【推奨類型:ハーレム主人公】
【報酬:好感度自動回収】
【期待行動:提示された好意を順次消費】
慧がNOを押した。
「早い」
「それやったら、俺を見る理由なくなるだろ」
【ヘイト視聴:維持】
【「何でやらない」コメント:安定】
真耶の配信アバターは、ゾーン判定に合わせて一瞬だけ主人公最強系の成人戦闘衣装へ切り替わった。
「真耶はYES」
「衣装だけ。欲望まで自動選択させない」
「差分便利」
「労働」
ランキングの横には、読むだけで気分が良くなる評価が並んでいた。
【戦闘力:測定不能】
【成長上限:なし】
【希少性:唯一】
【周囲の理解:遅れている】
【真価を知る者:少数】
「気持ちいい」
認めた。
真耶がすぐ見る。
「重要」
「何が」
「罠が効いてると自覚できてる」
「効かないとは言ってない」
一位。
最強。
唯一。
こういう言葉は、嫌いだから危険なんじゃない。
好きになれるから危険だった。
支配法則:主人公は最強である
第一位を受諾しますか?
[YES]標準通過/3話
[NO]ジャンル不安定化/期間不明
慧がランキングを見ていた。
静かすぎた。
「ここ、俺のホームだった」
私と真耶が見る。
「八か月」
「何された?」
「一位にしたんじゃない」
慧はランキングの光を指でなぞった。
「最初は、数字が嬉しかった。次に、数字が落ちるのが怖くなった。そのあと、数字が自分の感情より先に来た」
「一位なら安心」
「一位じゃないと、自分が弱くなった気がする」
「実際には?」
「何も変わってない日でも」
私は大賞の表示を思い出した。
勝つこと。
生きること。
同じ線でつながっている。
だからこそ、誰がその線を引いたかは確認しないといけない。
慧は自分の名前を見る。
「一位になりたいと思わせた」
数字が脈打つ。
「その欲望がPVを生む。PVが層を維持する。欲しがってるあいだ、自分で選んでる気がする」
私はYESを見る。
大賞。
私も、勝ちたい。
最初から言っている。
「滑川P」
『はい』
「私の大賞も、これ?」
珍しく即答しなかった。
『違う、と私が断定する権利はありません』
「便利な逃げ」
『ですので、確認してください』
私は考える。
一位だから生きられる。
大賞だから残れる。
似ている。
でも。
私は大賞を知る前から消えたくなかった。
読者を知る前から、何かになりたかった。
そして今は、勝ったあとに残したいものの名前を知っている。
パン。
火曜。
岩。
雨。
人。
ランキングは、それを知らない。
「NO」
押した。
「NO」
押す前に、滑川Pが一度だけ止めた。
『運用マニュアルでは、この選択は“理論上のみ”です』
「何で」
『主人公最強の快楽に抵抗できるアセットは、通過条件を受け入れる。抵抗できないアセットも、当然受け入れる。NOを押す実例がありません』
「じゃあ今日、例ができる」
押した。
層が壊れた。
主人公最強ゾーンは、次のジャンルを探した。
左に修仙。
剣が空を飛び、漢字の技名が金色に出た。
右ではゴシック城が月を召喚する。
頭上では、少年漫画の決戦雲が「ここで回想を入れるべき」と主張している。
足元のダークファンタジー石畳は、一歩ごとに「希望は幼稚」と囁いた。
さらに遠くで、なぜかラブコメ教室が文化祭準備を始めている。
「四つじゃない」
真耶が表示を見る。
「五つ目が発生した」
『マニュアル更新中です』
「滑川P、楽しそう」
『業務上の興奮です』
「それを楽しそうって言う」
右にゴシック城。
空は少年漫画の決戦空。
地面は希望を規約違反扱いするダークファンタジーの石畳。
四つ同時。
『マニュアル上、“理論上のみ”の事象です』
「更新して」
『しています』
真耶が複数の表示を重ねる。
「元のフリグスデイは、どのジャンル?」
「どれでもない」
「じゃあ、どこ」
真耶は、四つの境目を見る。
「間」
分類されていない空白。
「機械にテンプレートがない場所」
私は笑った。
「でしょうね」
その空白に、一歩入る。
背後で、真耶の手帳が閉じた。
開いた。
また閉じた。
何を書いたか聞かない。
本人のものにしておく。
【滑川P・次回予告】
『一位を拒否しました』
念のため申し上げます。
彼女は大賞を諦めていません。
“勝つことを拒否した”のではありません。
“勝ちたいと思わされること”を拒否しました。
この差は、制作側には非常に扱いづらいです。
次回、ゴシック区画。
三年間「深い男」であり続けた夜城零が、本当は人を笑わせたかったと告白します。
第18話「ゴシック区画と、笑わせたかった男」。
[記録済]
【ESE事後記録】
第七層:史上初の不安定化
同時ジャンル:4
負領域:発見
元のフリグスデイ:カテゴリ間
影指標:0.3%
---




