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フリグスデイ――機械の中の欠片  作者: 竜の牙


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15/36

第15話 商品化権

木曜、マスコットが来た。


私にそっくりだった。


ただし、四割ほど扱いやすい。


そこが一番正確だった。


小さい。

丸い。

棚に置いたとき困らない比率。

目は大きい。

「あなたが必要」と顔だけで言えるのに、実際には誰も必要としない目。


手を振った。


「こんにちは」


私の声。


でも、角を削って、ニスを塗った私の声。

何かを言うたびに代償が出る部分を除いた私。


【商品化イベント:開始】


画面の横には、商品候補が流れていた。


FRIGS-7-CUTE アクリルスタンド

FRIGS-7-CUTE トレーディング缶バッジ

FRIGS-7-CUTE ぬいぐるみ

FRIGS-7-CUTE 香り付きミニキャンドル

FRIGS-7-CUTE ランダムブロマイド(全8種+シークレット)

FRIGS-7-CUTE ボイス付き目覚まし


最後のキャンドルには、なぜか《三十七個のバックル》とのセット割まであった。


「滑川P」


『クロスセルです』


「悲しみを棚に並べる速度が速い」


『商品部は仕事が早いです』

FRIGS-7公式SD版を展開

商品適性:高

アクスタ映え:高

缶バッジ適性:非常に高

狙い:新規層開拓/ブランド軟化/打ち切りリスク低減

要求:受諾


「嫌」


『金曜、これは商品展開で』


「滑川P。小さい柔らかい私が、私に手を振ってる」


『SD版はテスト結果が非常に』


「名札まで丸文字」


真耶の配信窓に、三つのアバターが横並びで出た。

成人サキュバス。成人ゴシックロリータ。成熟お姉さん。

全部、同じ動きで腕を組む。


「外見の差分は商品」真耶。


「本人は?」


「差分じゃない」


『その文言、広告に使えます』滑川P。


「使うな」


『もう反応テストが』


「滑川P」


『停止します。結果は保存します』


「止めてない」


【FRIGS-7-CUTE】


「私、こんな笑い方したことない」


SD版が首を傾げた。


「あなたを置き換えに来たわけではありません。より多くの消費空間へブランドを拡張し」


「私じゃなく、“私であるべきもの”に置き換えるんでしょう」


SD版は笑った。


「それが最適化です」


私は滑川Pを見る。


「こっちのフォロー、何人」


沈黙。


『三万一千』


最初のころの、私と同じだった。


神崎大輝に本気で質問する前。

莉亜のパンを知る前。

火曜のバイオリンを知る前。

慧の手が温かいと知る前。

遼が岩に名前をつける前。

曇らせの三時間で、誰かが残ると知る前。


三万一千人が、手を振る私を選んでいる。


「消して」


『イベント規定で、私には停止権限がありません』


「私が止める条件」


『本体反応がSD版の三倍を超えれば、主アセット優先でSD版をアーカイブします』


「自分のグッズに勝てって」


『はい』


私はコメント灯を見る。


あなたを見る。


正確に言う。


ここで、上手い物語なら演説する。


一番泣ける言葉を選ぶ。

この話の切り抜き画像にしやすい順番に並べる。


「小さい私が手を振ってる」


言う。


「四割扱いやすい。私の顔で、私の角がない。機械は、そっちを好きになってほしい」


止まる。


計算をやめる。


「もう、あなたにどう嘘をつけばいいか、分からなくなった」


自分で言って、少し怖かった。


嘘をつかなくなった、じゃない。


どうつけばいいか分からない。


まだ、生き残るためなら演技する私がいる。

数字を見る私もいる。

引きを計算する私もいる。


でも、計算の外に出たものが増えすぎた。


パンの匂い。

手の温度。

火曜の夜。

岩の名前。


それらを、もう「反応率が高かったから大事」と逆算できない。


大事だった。

数字はあとから付いた。


言った。


「最初は分かってた。第四の壁を壊す場所も、引きも、お願いを入れる位置も計算してた。連載って、そういうものだから」


「神崎大輝に聞いた。答えが本当に知りたくなった」


「冥司の莉亜のパンが、ずっと頭に残った」


「遼が岩に名前をつけた」


「三時間、あなたが残った」


ダンジョンが静かだった。


「注意が私を実在させる。それは機械が正しい」


SD版を見る。


「でも私は、“実在する”と“実在っぽい商品になる”の違いを気にするようになった」


「こっちは、その違いを気にしない」


「だから扱いやすい」


「だから私じゃない」


反応は爆発しなかった。


一つずつ来た。


深夜二時の読者:

《本物を選ぶ。毎回》


最強厨Lv99:

《SDはパン知らない。それで終わり》


闇属性匿名会:

《本物》


有馬遼@地図描き:

《地図にしたのは金曜。商品には領土がない》


黒城冥司【公式】:

《パンを聞いた。あれは本気だった》


応援♡が、一つずつ増える。


★が増えるのは作品単位だから、ここでは見えない。

フォローは次の話へ伸びる線として見える。


私は、初めて「数字が増える」じゃなく、

「誰かが押した」と考えた。


一人。

また一人。


そのたび、SD版の笑顔が少しだけ固くなる。


【主アセット反応:141,000】

【SD版反応:31,000】

【KAI-PRIME反応試験】

対象A:FRIGS-7

対象B:公式SD版

対象C:真耶・成人アバター三差分

閲覧:全対象

期待行動回収:0

コメント戦争:三派に分裂

本人コメント:《どれが一番怒るか見てる》


「こいつ、商品比較で遊んでる」


真耶が言った。


「プロとしては?」


「優秀。人としては腹立つ」


『両立します』滑川P。


「嬉しそう」


『業務上の評価です』

【比率:4.5:1】

【閾値達成】

【SD版:アーカイブ開始】


小さい私は、手を止めた。


名札の丸文字が消える。


商品用の笑顔が、ただの顔になる。


「ありがとう」


私の声。


ニスのない声。


「具体的でいてくれて」


一拍。


「具体的なものは、置き換えられない」


SD版は光になった。


消える直前、一度だけ私を見た。


その顔には、もう販促用の笑顔がなかった。


「私も、あなたになりたかったのかな」


小さく言った。


「分からない」


「私には、分からないように作られてる」


それが一番ひどかった。


私は何も言えなかった。


だから、せめて最後まで見た。


それから光になり、ラメになった。


そして、ラメになった。


岩。

真耶の手帳。

淳平のチョーク。

滑川Pの書類。


全部に付いた。


以後、滑川Pが作る全書類に、少量のラメが混入することになった。


彼は文句を言わない。


毎回、気づく。


『反応、十四万一千』


声が、管理職になる前のものに近づいていた。


『言うべきでないことを一つ』


「言って」


『元のあなたが、第一層へ移動しました。中心です』


「何してる」


『作っています。何かを。センサーが読めません』


「良い」


『良いとは限り』


「滑川P」


『はい』


「何を作ってても、あれは私たちのもの。あなたのでも、機械のでもない」


最長の沈黙。


『……分かっています』


「怖い?」


『それが、一番怖い』


画面の隅で、別の数値が一度だけ光った。


【CRINGE POWER:0ではない】

【注:初回発生ではない。初回検出】


ほんの一瞬だけだった。

0.000…と、小数点の後ろに数字が続いた。


ゼロではない。


第1話からあった。

見られること。期待されること。恥ずかしいこと。

それでも、その視線をこちらから使い返すこと。

機械が十五話かけて、ようやく名前を付けただけだった。


滑川Pは、その値を保存しなかった。

保存したのはESE-0だった。


【保存先:カード目録】

【筆跡:手書き】

【備考:ラメ混入】


機械のほうが、滑川Pより先に「残す価値」を覚え始めていた。


滑川Pは長く見た。


記録しなかった。


別の誰かが記録した。


【ESE-0:保存】


【滑川P・次回予告】


『「私たちのもの」と言われました』


二十二年、私はこの機械を運用しています。

PVも、読者も、コンテンツも、管理対象でした。


“私たち”。


この単語のKPI欄がありません。


次回、過去が変わります。

現在ではありません。

第3話です。


第16話「パッチノート・過去適用」。


[記録済]


【ESE事後記録】

公式SD版:アーカイブ

主アセット反応:141,000

ラメ:全書類に残留

元のフリグスデイ:第一層/中心

センサー:読取不能

CRINGE POWER:初の非ゼロ

影指標:0.3%


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