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2. 誤解

「たしかにあいつは、口も悪いし態度も悪い。暴力的だし攻撃的だし、優しくて温かくてかわいらしい聖女像とはかけ離れているだろう」


(……つまり誤解じゃなくない?)

(私たちそこまで言ってません……)

(あの勇者様にここまで言われるとは。やっぱり性格悪いんだ……)


女子生徒らは(何を言いたいんだ?)と頭にハテナを浮かべながらリヒトを見上げた。

ついでにクラス中のガヤガヤもいつの間にか静まり返り、皆、リヒトが次に何を言い出すのか注目していた。


「いいか君たち。人の一面だけを見て、その人の全てを決めつけてはいけない」


リヒトは声を張り、クラス全体に向けて説いた。


「問題行動には必ず、裏がある!」


(裏……?)


クラス全員が首を傾げるとともに、高らかな主張の声に吸い寄せられるように教室の廊下にも見物人が集まってくる。


「あいつの問題行動は、すべて俺のせいなんだ。……そもそも俺が、あいつをこの世界に連れてきてしまったから……」


ここまで話して、(いや今その話は関係ない!)と正気を取り戻し、本筋に戻す。


「あいつの口の悪さは自信のなさの裏返しだし、あいつの態度の悪さは正当に評価されない悲しさの裏返しなんだ。」


それも俺のせいだから…と、リヒトは少し悲しそうに言った。


「どうすることもできないその気持ちを吐き出すために、あいつは俺をサンドバッグにしてるんだ。いや、この言い方ではまた誤解を生むな。俺は喜んでサンドバッグになっているんだ。いや、これも誤解を生むな!?というかサンドバッグが何のことか皆分かってるのか!?!?」


コクコクと数人が首を縦に振る。この世界にもサンドバッグがあるらしい。


「あいつは本来、優しくて温かいやつなんだ。他人の微妙な心の変化にすぐ気付くし、気付いたら決して見て見ぬフリをしない。たとえばあの双子。無口だし無表情だし、何を考えてるかさっぱり分からないだろ?皆は分かるか?俺は最後の最後まで、結局分からなかった」


情けないことだけどな、ハハッと乾いた声で笑う。


「でも勇者パーティは崩壊しなかった。なぜか。あいつが双子の気持ちを代弁してくれていたからなんだ。たとえ他のパーティメンバー全員を敵に回しても。」


リヒトは目を閉じながら、指を折る。マナカの正義感に何度助けられただろう。もしかしたらマナカ本人は正義感なんかじゃないって言うかもしれない。その自己肯定感の低さも、マナカらしいっちゃマナカらしい。


「それにあいつはかわいいよ。そんでもって美人だ。顔だけじゃない。皆はツンデレって聞いたことがあるか?」


首を傾げる生徒たち。見物人も首を傾げる。


「ないんだな。まぁ一言で言えば素直じゃない……なんだが、ごくごく稀に、デレるんだよ。俺は忘れやしない、あの夜のことを……」


(勇者様と聖女様の惚気話…!!)

ゴクッと唾を飲む音があちこちから聞こえる。


「予想外の魔物大量発生。○○が次々現れ、××を倒している間に☆☆の腹を目がけて、〜中略〜、その夜は飯の用意なんかできそうもなくて、ただその場に寝そべって皆で夜空を眺めていた。このまま眠れそうだ。と思った時、あいつが俺の横にやってきてこう言ったんだ。『あんた、けっこう……』」


ガラガラガラ!!!


「授業が終わったなら!さっさと戻りなさいよ!」


(!?!?!?)


突然の本人登場。

今、ようやく本題に入ったのに!!

一番聞きたいところで乱入してきやがった!! 

クラスと見物人の総意だった。皆の視線はマナカに冷たく、せっかく上がりかけた好感度はチャラになった。


・・・


悪いやつじゃない。

マナカからみたリヒトは、一言で言えばそれだった。


仲間想い。ただひたすら真っ直ぐで、責任感もありながら人に頼ることもできる。感謝し感謝され、リヒトの周りには笑顔が広がっていく。


(ハッ、人間関係チートかよ、勇者様よお)


憎たらしかった。


同じ日本の、同じ地域の、同じ年齢の、全く知らない赤の他人。


このファンタジー世界が本当に召喚したかったのは、本来なら、この男一人だけだったに違いない。


・・・


その日、悪意を持った怪しげな男がコンビニの周りをうろうろしていた。狙いはバイト店員のキラキラ好青年だとすぐに分かった。


取り押さえるほどの証拠も、力もない。マナカは隠れて警察に通報した。それを、見られていた。犯人に。


電話の途中でスマホは地面に叩きつけられ、マナカはナイフを突きつけられた。

(発信した位置情報からすぐ駆けつけてくれるはず。下手に抗ったりせず大人しくしておいたほうが安全。どうせ、力じゃ勝てないし。)と、いとも簡単に裏路地に連れて行かれ、案の定、暴行をうけた。


ボロボロの身と心でマナカは思った。

(私の人生ってなんだったんだろう)と。


それが最期だった。


気がつくと魔法陣の上だった。


(夢……?)


と思ったのも束の間、隣にもう一人、人間がぼわっと現れた。コンビニバイトの好青年だった。マナカはすぐに理解した。


(は?あんたも死んだのかよ!)


……私が暴行を受けて時間を稼いでいる間に警察が来る。怪しげな男は取り押さえられ、この青年は無事……

というのがマナカの中の最期のストーリーだった。


(私が死んだ意味……!!!!)


「今度こそ成功です!!勇者どの、召喚!!」


わあっと周囲に歓声が上がる。

この一言が、マナカに呪いをかけた。


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