第63話 ルクスとソレス
一方、部屋を出たソレスは何とも言えないやるせなさと喪失感を感じていた。
セレナの前では我慢をして格好をつけたが、長年慕ってきた愛しい人がもうすぐ手の届く所まで来ていたのに、再び目の前からすり抜けていったのだ。
「ふう。」
皇族の居住スペースにつながる通路なので、人通りはほとんどない。
思わず溜め息が出てしまった。
それと同時に後ろから名前を呼ばれた。
「ソレス」
声に聞き覚えがある。
今、一番会いたくない人だ。
ソレスは顔を伏せながら、身体ごと後ろを振り返った。
「ルクス様、なにか?」
「少し二人で話がしたい。いいか?」
ソレスにカルディアス皇族の申し出を断るという選択肢はない。
内心苦々しく思いながら、ソレスは頷いた。
無言で歩くルクスに付いていくと彼の執務室に到着した。
「入って。」
ルクスに促され、ソレスはルクスに続いて部屋に入った。
するとルクスにソファを勧められた。
「そこに座って。」
この部屋に入ったことは過去にもある。
しかし、その時はセレナの近衛として付き添っていたので、護衛として立ったままだった。
「失礼します。」
ソレスが席に座ると、ルクスも向かいのソファに腰を下ろした。
「セレナから僕の父のことは聞いたか?」
ルクスはいきなり直球で尋ねてきた。
「はい。」
ソレスの返事を聞いて、ルクスは頭を下げた。
「僕たちに振り回される形になって、君には申し訳ないことをしたと思っている。すまなかった。」
ルクスはカルディアスの表の皇帝だ。
そんな人物から謝られるとは想像もしておらず、ソレスは焦った。
「ルクス様。顔を上げて下さい。お気持ちは十分伝わりましたので・・・。」
ルクスは顔を上げるとソレスをじっと見つめた。
「君には本当に感謝している。突然重責を背負わされ帝国に連れてこられ精神的にいろいろ不安定だったセレナをよく支えてくれた。それに跡継ぎを儲ける相手を探していた時も、僕では出来ない方向から彼女を守ってくれた。細かいことを言うと他にも数えきれない程あるだろう。」
「ルクス様・・・」
ソレスはこの半年の間セレナの護衛として動いていたため、自ずとルクスと絡むことも多かった。
それ故、彼が人格者で有能な統治者であることは理解しているつもりだった。
仮にもこの世界の覇者であるカルディアスの表の皇帝を名乗る人物である。
それなのに。
臣下の者に、これほど潔く謝り、感謝の意を伝えるとは・・・。
ルクスという人間を理解しているつもりだったが、それ以上だったのかもしれない。
そしてソレスは、彼の言葉を聞いて何故かスッキリした気分になった。
流石は私の姫が選んだ男だ。
そう思うとストンと腑に落ちた。




