第6話 ルクスと父
トントン
カルディアス帝国皇帝の執務室のドアがノックされた。
「父上、ルクスです。」
「ルクスか。入っていいよ。」
父の許可をもらいルクスが部屋に入室した。
「先ほどヴァレンティン王国より帰国致しました。」
「うん、お疲れ様。ヴァレンティンはどうだった?」
カルディアス帝国の皇帝ジュストは魔術大国の皇帝に相応しい偉大な魔術師だったが、偉ぶることも無く温厚な人物だと評価されている。
こうして親子で会話をしていても、とてもガリア大陸の覇者には見えない。
「五百年祭で盛り上がっていたのもあると思いますが、国全体が明るくいい国だと思いました。建物も調和が取れていて綺麗でしたし、経済状態も安定しているようでした。」
「そうか。楽しめたようで良かったな。・・・ところで、マイラは元気そうだったか?」
ヴァレンティンのマイラ王妃は若い頃、このカルディアスに留学していたことがあり父とは魔術学院の同級生で顔見知りだったと五百年祭に行く前から聞いていた。
「ええ。お元気そうでしたよ。国王陛下と仲睦まじい様子で、国王夫婦の仲がいいせいか王宮内で働く者たちも和やかでいい雰囲気だと感じました。」
ルクスの言葉にジュストは一瞬微妙な笑みを浮かべた。
「そうか。まあ、詳しいことは今度報告書を出してもらうから、今日はもうゆっくりしたらいい。長旅だったし、流石に疲れただろう?」
往復と現地での滞在を含め二週間ほどの旅だったし確かに疲れはあったが、ルクスはどうしても父に話しておきたいことがあった。
セレナのことだ。
お人形のような整った容姿をしているのに、ひとたび口を開けば魔術の話ばかりしている女の子だった。
魔術大国カルディアスにおいても、ルクスは自分がかなり魔術オタクの部類に入ると自覚していた。
まさか僕と同じレベルで会話出来る女性がいるなんて・・・。
弟のヴィクトル王子と話している様子を見ても、性格も素直で可愛らしいと感じた。
「あの父上。あちらで少し気になる女性と出会いまして・・・。」
ルクスは意を決して父に気持ちを伝えた。
自分に似て魔術バカの長男が女性の話を自分からするなんて初めてのことだ。
ジュストは身を乗り出し気味にして尋ねた。
「ルクスがそんなことを言うのは珍しいね。どういったお嬢さんなんだい?」
よほど問題がない限り息子の希望を叶えてあげたい。
そういった親心もあり聞いてみた。
「ヴァレンティンの第一王女のセレナ姫です。」
「ヴァレンティンの第一王女?」
ジュストが少し眉をひそめた。
ルクスはセレナがいかに魔術が好きであるか、その才能が高く知識も深く、性格も明るく素敵な女性であるかを思いつく限り父に説明した。
ジュストは黙って聞いていたが、やがてポツリと尋ねた。
「姫はおいくつなんだ?」
「ええっと、誕生月は僕より一か月ほど早いみたいですが同じ年です。」
その言葉にジュストは目を見開いた。
「ルクスより年上?・・・どんな感じの方だ?マイラに似ているのか?」
ルクスは二人の容姿を思い出すように少し考えながら返答した。
「王妃様には全く似ておられません。色は国王陛下と同じ金髪に緑の目なのですが、容姿はあまり陛下には似てなくて華奢な感じの方です。姫の弟君は茶色の髪に青い目で精悍な容姿なので、僕と姫が並んだ方が自分よりよっぽど姉弟に見えるとからかわれました。」
その時の様子を思い出したのか、ルクスが笑みを浮かべた。
「ルクスはセレナ姫を妻に迎えたいと思っているのか?」
ジュストが真剣な表情で尋ねてきた。
「いや、まだそこまでは・・・。彼女が素敵な人だと思いましたが、まだ告白したわけでも、彼女の気持ちを聞いたわけでもないので・・・。」
ルクスは顔を赤くしながらあたふたと答えた。
「ルクスの気持ちはわかった。結婚するとなれば国同士での話し合いが必要になる話だし、はっきりするまで一旦保留にしておくということでいいか?」
ルクスは頭ごなしに反対されなかったことにとりあえずホッとして頷いた。
息子が部屋を出て行ったあと、ジュストは頭を抱え込んだ。
「マイラ・・・」
切なげにマイラの名前を呼ぶ皇帝の声は誰にも聞かれることはなかったのだった。




