第56話 イレーネの遺品
シルヴァヌスに来て三日目の朝。
今日の夕方にはカルディアスに戻る予定だ。
朝食の最中、ルクスがヴィクトルに話しかけた。
「今日帰る前に母上の遺品整理をしようと思います。」
「ああ、わかった。朝食が終わったら姉上の部屋を案内しよう。」
※
朝食が終わると、ヴィクトルの案内で二人はイレーネの部屋を訪れた。
部屋に入るなり、セレナは驚きの声をあげた。
「すごい量の魔術書!」
ヴィクトルが苦笑した。
「姉上のコレクションです。カルディアスに帰られる前に全部見切れなければ、このまま置いておきますので、出来る範囲で大丈夫ですよ。」
そう言うと、ヴィクトルは政務があるからと部屋を出て行ってしまった。
「お義母さまはすごい方ね。とても個人の持ち物とは思えないわ。あ、これ魔術大全の初版本じゃない!カルディアスの皇宮図書館にもなかったのに。」
セレナは興奮しながら、一冊の本を本棚から抜き出した。
一心不乱に魔術大全を読むセレナを見て、ルクスは笑いながら自分も気になる魔術書を物色することにした。
そうして小一時間が過ぎた頃、セレナは一度本を閉じ、改めて本棚全体を眺めた。
本当にすごい量・・・。
これ、全部読まれたのかしら?
感心しながら本棚をぐるり見回すと、ふと他と毛色の違う背表紙の本が並んでいるのが目に入った。
クリーム色の同じ背表紙の冊子が十数冊並んでいたのだ。
何かしら?
少し気になり、一番左端の一冊を抜いてみた。
表表紙に”イレーネの日記”と書かれていた。
パラパラめくると、子供らしい筆圧の強い大きな字でびっしりと文字が書かれていた。
『せいきょうれき1776ねん12月25日 きょうは、わたしの七さいのたんじょう日。お父さまがにっきちょうをくださった。これからがんばってにっきをかこうとおもいます。』
そんな一文から日記は始まっていた。
「ルクス。これ、お義母さまの日記みたいよ。」
セレナは少し離れたところで魔術書を読んでいたルクスに声をかけた。
「へえ。」
ルクスは持っていた本を机の上に置くと、本棚に近寄り一番右端にあったクリーム色の日記帳を一冊取り出した。
それを横目に見ながら、セレナは再び自分が手にしていた日記帳に視線を戻した。
『きょうはヴィクトルとボードゲームをしてあそびました。ヴィクトルがずるをしたので、わたしがおこったらヴィクトルがないてしまいました。そうしたら、わたしだけおかあさまにおこられた。ヴィクトルなんて大きらい。もう、いっしょうあそんであげないとおもった。』
セレナはそれを見て噴き出した。
同じ経験をしたことがあるのだ。
弟の名前が同じだけに、本当に自分が書いたみたいな気がしてきた。
微笑ましくて熱中して続きを読んでいると、突然大きな音がした。
ドサッ
音がした方に視線を向けると、ルクスの手から落ちた日記帳が床に転がっているのが目に入った。




