第53話 ミエイ湖
翌日はピクニック日和のとてもいい天気だった。
「いいお天気で良かったわね。」
窓を開け、セレナは空を見ながら笑顔でルクスに話しかけた。
「そうだね。」
ルクスも空を見ながら微笑んだ。
朝食をヴィクトル国王たちと取った後、シルヴァヌスの王宮料理人が作ったサンドイッチが入った籠を渡された。
籠を持ち目的のミエイ湖に飛ぶための魔法陣の前まで来ると、見送りに来たヴィクトルが心配そうな表情を浮かべた。
「護衛が一人もいなくて、本当に大丈夫か?」
朝食時にも聞かれた内容だ。
「王城周囲の森には王宮魔術師による結界が張ってあるのでしょう?セレナは防護魔術に長けていますし、私は攻撃魔術が得意です。せっかくの新婚旅行なので二人きりで過ごしたいんです。」
ルクスは申し訳なさそうな表情を浮かべながら叔父に訴えた。
カルディアスの皇帝を護衛なしで人気のない湖に行かせていいのだろうか?
ルクスに何かあれば大きな国際問題となる。
ヴィクトルはそれを心配しているのだろう。
しかし、カルディアスに嫁いでから明るさを失った姉を見て、カルディアス皇族が皇都で窮屈な生活を強いられていることもヴィクトルは肌で感じているのかもしれない。
姉が残した可愛い甥の願いを叶えてあげるべきか否か。
結局、ヴィクトルが折れてくれた。
「わかった・・・。緊急の時はこの笛を鳴らしてくれ。シルヴァヌスの王宮魔術師がすぐにそちらに向かえるように手配しておく。」
緊急用の笛を受け取り、ルクスは礼を述べた。
「叔父上、ありがとうございます。では、行ってきます。」
そう言うとルクスとセレナは並んで魔法陣の中に入った。
魔法陣が作動すると近距離だったためか、ものの数秒で目的のミエイ湖に到着した。
「わあっ!」
セレナはコバルトブルーに輝く美しい湖面を見て、思わず感嘆の声をあげた。
周囲には森の清々しい香りが漂い、耳を澄ませば微かな風の音と鳥の声しか聞こえない。
湖全体が、穏やかな静寂に包まれていた。
「なんて美しいの・・・。」
ありきたりだが、それ以上の言葉が思い浮かばない。
まるで絵本の中の世界に迷い込んだ気分だ。
ルクスは少し得意そうな表情を浮かべた。
「セレナに、この湖を見せてあげたかったんだ。」
しばらく二人は無言でコバルトブルーの湖面を見つめていたが、やがてルクスが手を差し出してきた。
「湖の周囲に遊歩道がある。ここから少し歩くと船着き場があってボートに乗れるよ。」
セレナはルクスの差し出した手を取り、二人は手を繋ぎながら遊歩道を歩いた。
静寂の中、二人の足音が響いた。
「今はコバルトブルーに見えるけど、季節や時間によってエメラルドグリーンに見えたりもするんだ。いつ来ても、何度来ても感動することが出来る。」
ルクスの説明にセレナは微笑んだ。
「人がいなくてゆっくり見られるのはいいのだけど、この美しい湖を王宮の人だけで独り占めしているのはずるいわね。」
「期間を決めて一般公開もしてるんだよ。その時はすごい人出みたいだけどね。」
「まあ、そうなのね。」
そんな会話をしながら遊歩道を歩いていると、程なくして船着き場に到着した。
そこには数艘の手漕ぎボートが浮かんでいた。




