第52話 シルヴァヌス
晩餐会の後、二人は案内された客室でゆったりとした時間を過ごしていた。
「ヴィクトル陛下はいい方ね。」
「ああ。昔から母上とは仲が良くて、僕やフェリクスも小さい頃はとても可愛がってもらっていたんだ。君とヴィクトル王子を見ていると母上たちのことを思い出したよ。」
ルクスの表情からも叔父への思慕が感じられた。
「お義母様も魔術がお好きだったのね?」
「そうだね。僕が魔術好きなのは父上や母上の血を引いているのもあるんだろうけど、幼い時に母上から受けた影響も大きいと思ってるんだ。」
「ぜひ、お会いしたかったわ。」
「母上とセレナはきっと気が合ったと思うよ。魔術の話だけでずっと会話が出来そうだ。」
「私のお母さまも昔はすごい魔術オタクだったとジュスト父さまがおっしゃっていたわ。三人でお話しが出来たら、もっと楽しかったかもしれないわね。」
ふふふと笑うセレナを愛おし気に見つめながらルクスが明日の予定を伝えてきた。
「明日は、母上が好きだった場所にセレナを連れて行きたいと思ってる。」
「へえ。どんな場所なの?」
「シルヴァヌスの王城の敷地内にはなるんだけど、城の裏手に広がる森の中にポツンとある湖だよ。美しいコバルトブルーの色をしていてとても神秘的なんだ。子供の頃、僕もよく連れて行ってもらった。特に朝は風が少なくて水面が静かだから、周囲の木々がきれいに映り込んで幻想的だよ。」
シルヴァヌスは国全体に森林が多く、森と湖の国と呼ばれている。
今、滞在している城も森の中にある高台に建てられており、緑の中にそびえ立つ白亜の城は一枚の絵画のように美しい。
「まあ、楽しみだわ。お天気だったらいいわね。」
二人共笑顔を浮かべそんな会話をしていたが、漂う空気は微妙なものだった。
この旅行から帰ると、すぐに辛い現実が待ち受けている。
楽しい話をしていても、どうしてもその事が頭から離れないのだ。
「セレナ・・・」
ルクスが複雑な表情を浮かべながら、セレナを抱きしめた。
セレナもルクスの背中に腕を回しギュッと力を込めた。
「明日は早いし、もう寝ようか?」
ルクスの言葉にセレナは無言で頷いた。
ベッドの中でルクスに抱きしめられながら、セレナは彼の胸に顔をうずめた。
ここから帰ったら、セレナを抱きしめるこの腕がソレスにかわる。
ソレスのことは大好きだが、ルクスに対する好きとは種類が違う。
きっとルクスに出会う前のセレナなら、ソレスと結婚して彼との間に子を儲けることに、特に抵抗を感じることはなかっただろう。
でも、私は運命の人と出会ってしまった・・・。
恋を知る前の自分に戻ることは出来ない。
セレナは気を抜くと滲みそうになる涙をこらえて、ルクスの胸に顔をグッと押し付け目を閉じたのだった。




