第49話 新婚旅行の前
新婚旅行とはいえ、皇帝が長期で皇城を空けるわけにもいかず、旅行は二泊三日という短めの日程となった。
「ルクス兄さまだけ、ずるい。僕たちもセレナ姉さまと旅行に行きたいのに。」
セレナの旅行に付いていきたいとごねたノクスやマリヌスをフェリクスが引き留めてくれた。
「兄上たちは新婚旅行だぞ。子供がわちゃわちゃついて行ったらゆっくり出来ないだろう。」
「帰ってきたら、また遊びましょう。日帰りでどこかに行ってもいいわね。」
セレナにそう言われ、下の弟たちもしぶしぶ納得してくれたのだった。
「フェリクス、すまないな。母上の墓参りは、お前も一緒に行けたら良かったんだけどな。」
ルクスの言葉にフェリクスは苦笑しながら肩をすくめた。
「新婚旅行の邪魔をするほど野暮じゃないですよ。お墓参りは、またいつでも行けます。それに、母上は兄上が来てくれた方が喜ぶんじゃないですか?」
ルクスはそれを聞き、一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべたものの礼を述べた。
「ありがとう。ありがたくセレナと二人で楽しませてもらうよ。」
※
セレナは部屋でシルヴァヌスへ行く準備をしながら、朝食時の会話を思い出しルクスに尋ねた。
「ちょっと気になったんだけど、さっきフェリクスが言ってたのってどういう意味?」
ルクスはその質問に苦笑した。
「いや……、母上は僕を溺愛していてね。ちょっと偏愛気味だったんだ。フェリクスのことを虐めるとかではないんだけど、何かにつけて僕の方を可愛がるというか。五歳までとはいえ、幼心にフェリクスも傷ついていたのかもしれない。」
「へえ、そうだったんだ。小さい弟や妹の方を可愛がる親も多いのにね。イレーネ様は長男派だったのかな?」
跡継ぎの長男に入れ込むタイプの母親だったのかもしれない。
「さあね。昔のことだからね。」
荷造りが終わると、皇城の魔術師が組んでくれた魔法陣でシルヴァヌスへ向かう予定になっていた。
魔法陣の前にはジュストとドミニクが見送りに来てくれた。
「お二人共、お気をつけて。留守中のことは気にせず、ゆっくり旅行をお楽しみください。」
ドミニクの言葉にルクスもセレナも笑顔で頷いた。
「ああ、よろしく頼む。」
「ヴィクトル陛下にも、よろしく伝えておいて欲しい。あと、これをイレーネの墓に供えてくれないか。」
ジュストはそう言いながら、白を基調とした美しい花束をルクスに手渡した。
「はい。母上も喜ばれると思います。」
ルクスは笑顔で花束を受け取り、魔法陣へと進み出た。




