第48話 跡継ぎの相手
その日の夜。
「ルクス」
寝室で、セレナがルクスを呼んだ。
「どうしたの?」
ルクスは気遣わしげにセレナの方へ顔を向けた。
日中からずっと沈んだ様子のセレナが気になっていたのだ。
一方、セレナはルクスの名前を呼んだものの、伝えなくてはいけないのに言いたくない気持ちが込み上げ、言葉が続かなかった。
思わず涙がにじんだ。
ルクスは何かを察したのか、セレナを無言で抱きしめた。
ルクスの胸に顔をうずめながら、セレナが小さな声で囁いた。
「跡継ぎの件、ソレスにお願いしたの。」
セレナを腕に抱きながらルクスは一瞬目を見開いたが、静かな口調で答えた。
「そうか、分かった。」
セレナはルクスのあっさりした返答に驚き、顔を上げた。
「ルクスは嫌じゃないの?」
「この半年間、彼を近くで見て信頼に足る人物だと僕も思っている。彼ならセレナも安心だろう?」
「ルクス・・・」
「結婚式の後のパーティーで、ヴィクトル王子に彼のことを伝えられた。相手に困るようなら彼に頼めと。ヴィクトル王子は君のことを最も理解し大切にしてくれている人だ。彼の言うことに間違いはないだろう。」
セレナは目を潤ませながら苦笑した。
「もう、ヴィーったら過保護ね。」
将来、セレナが相手探しに困るであろうことなどヴィクトルにはお見通しだったのだろう。
「嫌かどうか、聞かれたら嫌に決まってるよ。愛する君を他の誰かに託すなんて耐えがたいことだ。でも、それが避けられないことなら、セレナにとって負担が少ない者に頼むのが一番いいと思っている。」
静かにそう告げるルクスが愛おしく悲しかった。
「ルクス。愛してる。」
そう言うとセレナは再びルクスの胸に顔をうずめた。
そんなセレナを愛おしそうに抱きしめ、ルクスが提案してきた。
「半年の期日が来る前に、一度シルヴァヌスへ行かないか?」
「シルヴァヌス?」
「母のお墓があるんだ。母は病を得てから最期は母国に帰ることを望んでね。あちらで亡くなったんだよ。僕たちは新婚旅行も行ってないし、結婚の報告も兼ねてどうかなと思って。」
ルクスとフェリクスの母であるイレーネはシルヴァヌスの王女だったと聞いている。
「シルヴァヌスのお城に滞在するということ?」
「そうだね。母の弟である僕の叔父が今はシルヴァヌスの国王をしている。王城に滞在させてもらう形になると思う。」
いくら新婚旅行とはいえ、カルディアスの皇帝とその伴侶が訪れるのだ。
その辺の宿に泊まるというわけにはいかないのだろう。
「楽しみね。」
この一か月は二人だけの最後の蜜月だ。
気持ちを切り替え、思い残すことがないよう今を楽しむしかない。
そう思い、セレナは笑顔を浮かべたのだった。




