第46話 跡継ぎの相手
ラングドックから帰ってから、セレナは物思いにふけることが多くなった。
コルネリアの言葉が耳に残って離れないのだ。
『もうご結婚されて五か月になるのに、セレナ様はご懐妊されていないのでしょう。』
『そうおっしゃられても、カルディアス皇族の血筋を絶やすわけにはいかないでしょう。生まれる皇子が多いに越したことはありません。』
今まで跡継ぎについて直接セレナに言ってくる者は誰もおらず、最近は頭からそのことが抜け落ちていることが多くなっていた。
しかし結婚してから時間が経つと、事情を知らない者からはこういった声がたくさん上がるようになるだろうし、もしかしたらセレナが知らないだけで、ルクスのところには側妃の話が来ていたのかもしれない。
それに初夜の日にルクスと約束した恋人として過ごす期間もあと一か月しかない。
嫌な事はなるべく考えないようにしようと、目と耳を塞いでいたが、もう現実に目を向けなければいけない時期なのだろう。
※
今日はルクスが表向きの皇帝の仕事で城外に出ており、セレナは一人皇城の庭園の東屋で魔術書を眺めていた。
しかし、跡継ぎのことが頭から離れず気が散って先ほどから一ページも進んでいなかった。
「はあ・・・、跡継ぎか・・・。」
思わず口に出して呟いてしまった。
すると後ろから声をかけられた。
「セレナ様」
ヴァレンティンの王城内は一人で自由に歩き回っていたが、カルディアスに来て皇帝になってからは自室以外常に近衛騎士が一人は傍に控えるようになっていた。
今日の当番はソレスだった。
「ソレス。どうしたの?」
ソレスは言うか言わまいか悩むような表情を浮かべた後、決心がついたのかセレナをじっと見つめてきた。
「跡継ぎの件で悩んでおられるのですか?」
デリケートな問題だけに口に出して人に相談しにくい話だが、ソレスは幼馴染だ。
「ええ。先日ラングドックでコルネリアの言葉を聞いてから、ずっと気になってしまってて・・・。」
ソレスが誓約をして事実を知りカルディアスに残ってくれていることは本人から聞いている。
セレナは素直に自分の気持ちを打ち明けた。
「セレナ様。私では駄目ですか?」
「えっ?」
意味が分からず、セレナは顔を上げソレスを見た。
「跡継ぎを儲ける相手を選ぶのに困っていらっしゃるのでしたら、私を相手に選んでいただけないでしょうか?」
ここまではっきり言われれば、流石のセレナでも理解できる。
「ソレス・・・」
急にそのようなことを言われ、セレナは戸惑った。




