第44話 ラングドック
お腹の痛みも治まり、セレナが執務室の前に来ると中から声が聞こえてきた。
「もうご結婚されて五か月になるのに、セレナ様はご懐妊されていないのでしょう。でしたら、是非私を側妃にして下さいませ。」
コルネリアの声だ。
セレナはその内容に驚いて目を見開いた。
近衛騎士として後ろに控えていたソレスが気遣わしげな視線をセレナに向けた。
「コルネリア。先ほども言ったが、私はセレナ以外に妻を迎えるつもりはない。」
「そうおっしゃられても、カルディアス皇族の血筋を絶やすわけにはいかないでしょう。生まれる皇子が多いに越したことはありません。」
きっぱり言い切るコルネリアの声が響いた。
「ルクス陛下。妃殿下を想うお気持ちはわかりますが、陛下にはカルディアス皇族として多くの子孫を残す義務がございます。」
これはヒューゴの声だろう。
セレナは唇をかんだ。
私が子供を産まないと、ルクスは事情を知らない人からこういう風に言われるのね・・・。
青ざめたセレナを見て、ソレスが前に進み出て執務室の扉をノックした。
「セレナ様が到着されました。」
中の会話がピタッと止み、扉が開かれた。
コルネリアは憎々しげにセレナを睨み付けてきた。
もはや自分の気持ちを隠すつもりもないようだ。
「セレナ。大丈夫か?」
ルクスが心配そうに尋ねてきた。
「ええ。お陰様で辛いのは治まったわ。」
コルネリアが二人に近付いた。
「セレナ様。今、陛下ともお話していたのですが・・・」
そんなコルネリアをルクスが遮った。
「セレナが来たし、まずは誓約を行おう。話はその後だ。領主一家以外、ラングドックの者は外へ出てくれ。」
部屋にはオリオール家の三人とルクスとセレナ、そして皇城からついてきた誓約済みの近衛騎士だけになった。
誓約の儀式を終えると、ルクスがおもむろに口を開いた。
「まず初めに訂正しておく。皇帝は私ではない。セレナだ。」
三人は何を言われたか分からずポカーンとした表情になった。
「それはいったいどういう意味でしょうか?」
ヒューゴが困惑しながら聞いてきた。
ルクスが一連の事情を話すとヒューゴの表情に変化が生じた。
感極まったように涙ぐみ、顔を赤らめ呟いた。
「ああ、神よ・・・」
そしてセレナの前に進み出ると、自ら跪いた。




