第38話 オストマルク
夕食会はブルーノと皇都から来た三人だけで行われた。
料理もあらかじめ全てが用意されており、部屋には使用人の姿も見られなかった。
そして食堂には防音魔法がかけられていた。
「家族や使用人には誓約をさせていないのです。ですのでこんな形式になってしまって申し訳ありません。」
ブルーノが申し訳なさそうに謝ってきた。
確かに表向き皇妃となっているセレナが真の皇帝であることや、セレナとルクスが姉弟であるといった事実を知る者は少ない方がいいだろう。
「魔力補充の時に各領主には誓約させ、事実を伝えることにはなるだろうけど、事実を知る者をあまり広げるのもどうかと思ってね。」
ジュストがワインを口にしながらそう言った。
「ご家族とかもですか?」
セレナが尋ねた。
家族内で一人だけ大きな秘密を抱えるのは辛くないのだろうか?
そう思ったのだ。
「今回、セレナ陛下に絡む誓約はガリア大陸全体の将来を左右するものです。命を懸けるような重大な内容の誓約には多くの魔力が必要となり、魔力量の少ない誓約者には身体の負担となりますからね。」
セレナは驚いた。
ヴァレンティンでは誓約などというものとは無縁な生活だったから、あまり深く考えていなかったが、確かに命を懸けた誓約とはそういうものだ。
カルディアスの皇城で働く人は、みなすごく優秀ってことなのね。
セレナが感心していると、ルクスが話しかけてきた。
「領主の家族に誓約がいるかは僕が判断するよ。家族構成も含めてどんな人物かも大体わかっているし。」
「ええ。」
「私の時は魔力補充で各地を訪れた際、領主一家と食事を摂ることが多かったのだけどね。誓約をしていない者と接触するのは会話にも気を遣うし労力がかかる。ルクスに代替わりしたし、新皇帝が希望しないから食事会は無くなったということにすればいいだろう。」
ジュストの言葉にセレナが疑問を口にした。
「各地の領主と情報交換するいい機会ではないんですか?」
「領主とは訪れた時に個別に話せば問題はないよ。結界に綻びが生じたとか必要があれば魔法便ですぐに連絡が来るしね。場合によっては向こうから来てもらえばいい。」
ブルーノも同意するように頷いている。
「我々領主は皆カルディアス皇族の秘密を存じ上げておりますし、皇帝陛下に対する忠誠心は自分の命を懸けても守りたい確固たるものです。」
セレナは神妙な表情でブルーノの言葉を聞いていた。
「セレナ様は異国でお育ちですのでピンとこないのかもしれませんが、ご自身がこの大陸で最も高貴な存在であるともう少し自覚された方がいいと思います。領主など皇帝陛下の下僕にすぎないのです。」
ルクスにも似たようなことを言われたことがあったが、初対面の人に言われるとその事実がより重く身にしみて感じられた。
内心とまどいながらも、表面的には笑みを浮かべブルーノの話に耳を傾けたのだった。




