第36話 オストマルク
魔法陣の中央に立ち魔力を流すと、周辺が輝き出した。
眩しさにセレナが一瞬目を閉じ、開けた時には見慣れない部屋の中に立っていた。
「すごい・・・。全く酔う感じや違和感が無かったわ。」
皇都からオストマルクまではかなり距離がある。
それをこんな一瞬で快適に移動できるとは。
セレナが感動しているとジュストが嬉しそうに笑みを浮かべた。
「私が開発した最高傑作の魔法陣なんだ。」
「普通の移動魔法陣とどこが違うんですか?」
興味津々でジュストに尋ねたセレナにルクスが苦笑いを浮かべた。
「セレナ。帰ったら教えてあげるから、今はまず領主のところへ行こう。」
仕事のためにここに来たことを思い出し、セレナも赤くなりながら頷いた。
結婚式には石像を守る領地の領主は全員参加していない。
結界にはいつほころびが出来るか分からず、皇帝の魔力には劣れど結界を守れる魔力のある者をまとめて皇都に集めるわけにはいかないからだ。
だから、セレナがオストマルクの領主に会うのはこれが初めてだ。
「オストマルクの領主ブルーノと私とは魔術学院からの古い友人でね。君が皇帝だということも伝えてあるし誓約も済んでいるんだ。領地へ出向く時、普段は魔法陣の前で出迎えられるんだけどね。今日は遅れそうだったから、執務室で待っていてもらうよう魔法便で連絡したんだ。」
移動しながらジュストがオストマルクのことや領主について説明してくれた。
オストマルクの領主の館でジュストは顔パスなのか、出会った騎士や衛兵はみな廊下の脇に寄り恭しく頭を垂れ三人を通してくれた。
「ブルーノ。私だ。」
重厚な扉の前に来るとジュストが声をかけた。
「ああ、よくおいで下さいました。」
領主自ら扉を開け、三人を中へ招き入れてくれた。
「新皇帝のセレナだ。」
ジュストがセレナを紹介すると、ブルーノは目を潤ませセレナの前に跪いた。
「セレナ陛下。ようこそオストマルクへ。あなたはカルディアスの民が長らく待ち望んだ希望の光です。陛下のご即位を心より喜びお祝い申し上げます。そして帝国に永遠の繁栄がもたらされることを願っております。」
カルディアス皇族の秘密や予言について知っている者であれば、これは心からの言葉なのだろう。
セレナも精一杯の笑顔で挨拶を返した。
「ありがとうございます。国が直面する問題は山積みですが、私の力の限りを尽くして良い未来を築いていきたいと思っています。どうか引き続きお力をお貸しください。」
「形式ばった挨拶はそれくらいでいいだろう。今日はセレナに仕事を教えに来たんだ。」
ジュストが促すとブルーノも慌てて立ち上がった。
「数百年待ち望んだ女帝だぞ。もう少し感動をゆっくり味わわせてくれてもいいのに・・・」
二人きりの時は、いつもこういう風に話しているんだろうな。
ヴィクトルとソレスみたいな感じなのかな。
お父さまにも心を許せる友人がいるようで良かったわ。
セレナはそう思い、温かい気持ちで二人を眺めたのだった。




