第35話 父との和解
「マイラが君を宿したのは僕が帝位を継ぐ前だからね。そこまで大きな影響はないと思う。帝位を継ぐと精霊女王の魔力が皇帝の身体に受け継がれ、その力の一部が子供にも移行する。皇帝の子を宿すと母親には負担になるんだ。ここ数代、一人の女性が産める皇子は二人までが多い。」
それはつまり、ルクスの母や弟たちの母は彼らを産んだため寿命を縮めたということか。
カルディアス皇族の秘密について知り尽くしたつもりだったが、まだこんな深い闇を抱えていたとは・・・。
セレナが身体を震わせた。
「私の相手になる人も・・・?」
「君の場合は特殊だからね。なにしろ数百年以上前例がない。でも、相手の男性が子を宿すわけではないからそこまで問題はないと思うよ。」
その言葉にセレナはホッと息をついた。
跡継ぎを儲けるために相手の男性を犠牲にしなければならないと言われれば、一生罪悪感に苛まれそうだ。
セレナがそう思った時、目の前に座るジュストの姿が目に入った。
この人はその罪悪感にもずっと耐えてきたんだ・・・。
二人の妻を亡くした後も、数人妃を与えられたと言っていた。
万が一その女性たちが子を宿していたら、彼女たちもきっと寿命を縮めていたのだろう。
ふと、母の言葉が頭をよぎった。
『あんな暗い表情をする人じゃなかった。』
ジュストは母と別れてから辛いことの方が多い人生だったのかもしれない。
そう思うと彼が可哀想になった。
そんなセレナを見て、ジュストがフッと笑った。
「同情してくれてるのかい?」
「え、いや・・・あの。」
「今さらレックス陛下のように慕ってくれと言う気はないよ。でも、せめて私を嫌わないでいて欲しいと思っている。君に嫌われていると思うと少し辛くてね。」
寂しそうな表情を浮かべるジュストを見てセレナの心は痛んだ。
初めて会った日は、あまりに残酷な話をもたらしたジュストが悪魔の使いのように見え、憎みさえした。
でも、あれは単に事実を伝えただけでジュスト本人が何かセレナに悪いことをしたわけではない。
あの日の印象を引きずって、セレナはずっとこの父に素っ気ない態度を取っていたのだ。
「ごめんなさい・・・お父さまも辛かったのに・・・。」
目を潤ませながら呟いたセレナの言葉にジュストは驚愕の表情を見せた。
セレナに父と呼ばれたのは初めてだったのだ。
「セレナ・・・抱きしめても?」
無言で頷くセレナをジュストがギュッと抱きしめた。
「私の血を引いてしまったために、君に重い十字架を背負わせてしまって一生許されないと思っていたんだ。」
セレナはジュストの腕の中で首を横に振った。
しばらくそうしていたが、やがてジュストが身体を離しセレナを見つめた。
目が合うとお互い恥ずかしそうな表情を浮かべつつ微笑んだ。
その時、部屋の扉が開かれた。
「申し訳ありません。遅くなりました。」
慌てて走ってきたのかルクスは汗だくだった。
「オストマルクには遅れると連絡したから、そんなに慌てなくても良かったのに。」
ようやく歩み寄れた娘との二人きりの時間を邪魔されてジュストが拗ねたように呟いた。
ルクスはあれ?というように二人を見たが、ニッコリ微笑むセレナを見て何かを察したようだった。
「三人揃ったから出発しましょうか。」
セレナの言葉でジュストも気持ちを切り替え、魔法陣の方へ向かったのだった。




