第34話 父との和解
十時少し前にセレナがセクター5に着くと、既にジュストが扉の前に立っていた。
ルクスは時間に正確で、食事の時でもだいたい決まった時間の十分前くらいに来ている。
そのためルクス抜きでジュストと二人きりで顔を合わすことは今まで一度もなく、気まずい空気が流れた。
そこに一人の文官が走ってこちらに向かってきた。
「ルクス殿下より伝言です。殿下はドミニク様と相談しないといけない事案が生じ少し遅れるとのことです。」
「わかった。部屋の中で待っているとルクスに伝えてくれ。」
文官は頭を下げるともと来た方へと戻っていった。
「・・・。」
「・・・。」
文官の姿が見えなくなると、再び気まずい雰囲気になった。
ルクス早く来ないかな・・・。
セレナは内心そう思いながら、魔法陣が描かれた部屋の隅に置かれていた椅子をジュストに勧めた。
「座ってルクスを待ちましょうか?」
「そうだね。」
二人は並んで椅子に腰かけた。
「・・・。」
「・・・。」
お互い何を話していいか分からず、しばらく居心地の悪い静かな時間が流れた。
セレナは頭の中で、ヴァレンティンに帰る直前マイラから言われた言葉を思い出していた。
『セレナ。出来ればジュストに優しくしてあげて。』
『えっ?』
『あの人が若い頃はね、寝ても覚めても魔術の事ばかり言っていて、本当に好奇心が旺盛なキラキラした人だったの。あなたが見たことのない魔法陣を見て、目を輝かせるのを見ると、ああジュストの子なんだなあって思っていたのよ。』
『お母さま・・・』
『それが、久しぶりに会って驚いたわ。あんな死んだ魚のような眼をして暗い表情をする人じゃなかったから。私はレックスやあなたやヴィクトルがいて幸せだったけど、彼はそうじゃなかったのかもしれない。あなたにしたらジュストに良い印象がないのかもしれないけど、血の繋がった父親なのだもの。いがみ合うより仲良くしてあげて欲しいの。』
「セレナ。」
急にジュストに呼びかけられて、セレナは驚いて顔を上げた。
「はい?」
「私はね、君がカルディアスに来てくれたことに本当に感謝しているんだ。ノクスやマリヌスも楽しそうだし、皇城全体がとても明るくなった。君は私に良い印象は無いのだろうけど、この気持ちはちゃんと伝えておきたかったんだ。」
予想外のことを言われセレナは頬を染めた。
「あ、ありがとうございます。」
「君を見ていると愛情をたっぷり受けて幸せに育ったんだろうなということがよく分かる。レックス陛下には感謝しているよ。」
諦めを含んだ寂しそうな微笑みを浮かべながらジュストは静かにそう告げた。
「あの・・・(上皇)陛下はあまり幸せではなかったのですか?」
ジュストの表情を見て、思わず尋ねてしまった。
ジュストは困ったように首をかしげた。
「そうだね。どうだろう?妻たちとは政略結婚だったしね。夫婦仲はあまり良くなかったかもしれない。でも、息子たちを産んでくれたことには感謝しているし、あの子達はいい子に育ってくれていると思うよ。」
「変なことを聞いてしまって申し訳ありません・・・。」
セレナは恐縮して直ぐに謝った。
少ししてジュストがポツリと尋ねてきた。
「セレナは子供達の母親が皆若くして亡くなっていることを不思議に思わなかった?」
「えっ?いえ、特には・・・。」
確かに正妃のイレーネ様はフェリクスが五歳の時に亡くなり、その後嫁いでこられた二番目の妃もマリヌスを産んで程なくして亡くなったと聞いていた。
幼い頃に母を亡くすなんて可哀想とは思ったが、不思議とまでは思わなかった。
「優秀な後継者を設けるため、貴族や他国の王族の中で魔力の高い女性が選ばれて皇帝の妃候補になるんだ。精霊女王の魔力を持つ子供をお腹に宿すことが影響しているのか皇帝の妃も短命であることが多い。」
セレナは青ざめた。
「お母さまも・・・?」




